気楽につきあえるナチュラル感覚のクルマ
1980年代、日本の工業技術力は他国を圧倒しつつあり、自動車業界においてもそれは顕著であった。それはやがて、セルシオ(初代レクサスLS)やスカイラインGT-Rによって世界の頂点を極めることになるのだが、それを目前にした1985年、そうした風潮へのアンチテーゼとして1台の自動車が発表された。日産Be-1である。
見慣れないリア周りが、これはこれでイイかも!「前期型130セドリック後期型」【魅惑の自動車カタログ・レミニセンス】第10回
【画像42枚】かぼちゃ色のBe-1とその制作工程を見る!
Be-1の特徴は何よりもそのスタイリングであった。「ノスタルジック モダン」をキーワードに生まれたそれは、ベースとしているのが当時のマーチ(初代)でありながら、その面影は全くなく、想起されるのはむしろミニやアウトビアンキA112、あるいはスバルR-2といった、1950-1960年代生まれのベーシックカーだ。言ってしまえば「レトロ調」ということになるが、後年のレトロ調軽自動車などがやたらとメッキパーツを多用してクラシカルな雰囲気を強調したのに対し、Be-1はそうしたノスタルジックなイメージを溶け込ませつつも、あくまでコンテンポラリーなクルマとして仕上げられていたことが特徴である。
そのスタイリングについて具体的に述べていくと、まず全体のプロポーションはノーズの高い2ボックススタイルで、リアエンドはわずかにノッチが付いて張り出しており、前後ともふっくらとした丸みのある形として造形されている。丸型のヘッドライトをはじめとして灯火類は全て角を丸めた形とされており、フロントグリルを持たないことが象徴しているように、シンプルで虚飾を排したルックスであった。
これは、日産がテーマとした「肩の力を抜いて自然につきあえるナチュラル感覚あふれる車」を具体化したもので、インテリアもそれは同様である。ダッシュボードは棚のような基本形の上に円形のメーターや吹き出し口を配したデザインで、ステアリングホイールのスポークなどは丸パイプをイメージした形となり、ドア内張りには実際に丸パイプで組まれた小物ラックが付く。シートもルノー4などのハンモックシートを思わせるシンプルな形状で、ニット地を表面に使用した、「ナチュラル感覚」に満ちたものである。
これらは全て「ここちよさ優先のナチュラルカー」というテーマに基づくものであり、前述の「高性能化やハイテク化を極めることへのアンチテーゼ」であった。今でこそこうした考え方は珍しくないが、技術の進歩や、それを端的に現すスタイリングが主流、と言うよりそれ以外になかった当時にあって、このようなコンセプトは相当に尖端を行くものだった。Be-1や、これに続くパオやフィガロを表すのに「パイクカー」という言葉が使われたが、「パイク」とは槍や尖ったもの、さらには峰の尖った山などを表す言葉なのである。
1985年10-11月開催の第26回東京モーターショーで発表されたBe-1は、その時点では市販化の具体的な予定は何もなく、出展の目的も反応を探るためにすぎなかった。当の日産にも、この試作車がどのように受け入れられるかは予測がつかなかったのである。このとき日産が他に出品したのはCUE-X(後のインフィニティQ45に繋がる高級セダン)やMID4(ミッドシップのフルタイム4WDスポーツ)といったモデルだったが、Be-1はそれらをある意味凌駕する反響を呼び、その様に日産はすぐさま市販を決定したと言われている。
市販化はおよそ1年という短期間に実現し、Be-1は1987年1月に発売された(キャンバストップ仕様は3月から)。これは通常の販売ではなく1万台限定で、購入するには抽選に当たる必要があった。実際に購入希望者が殺到し、転売価格が高騰するといった現象も生まれている。車両そのものについては、モーターショー出展車をそのまま忠実に再現したものであるが、メッキだったホイールキャップは黒い樹脂製に変更された。
また特筆すべきは、ボディにフレックスパネルという樹脂製の外板が使用されていたことで、これは短期間での市販化実現に不可欠な要素でもあったという。このフレックスパネルは、鋼板と同様の焼付塗装が可能な熱可塑性樹脂(当時世界初)を使用したもの。成形の自由度が高く軽量、錆びないといった利点があるほか、軽衝突時には形状の復元性があるのも特徴で、以後、パオやフィガロにも採用が継承された。
オフィシャルグッズの一環としてリリースされたプラモデル
当時非常に人気の高かったBe-1であるが、プラモデルはバンダイによる1/24スケールのみであった(他に1/43のメタルキットもあり)。これ以外では、今から10年ほど前にタミヤから1/32スケールのミニ四駆として発売されたのが印象深い。普通ならば実車発売直後にキット化ラッシュとなってもおかしくないものだが、バンダイ1社のみに限定されたのは、日産がグッズ戦略も取り仕切ったためだ。
これにあたって日産は、実車発売と同時に東京・南青山にBe-1ショップをオープン、様々な会社をパートナーに選び、メーカーオフィシャルのBe-1グッズを販売したのである。余談となるが他のグッズと担当会社には、カジュアルウェア(カインドウエア)、マグカップや貯金箱(加藤工芸)、ウォッチやシェーバー(服部セイコー)、スポーツウェア(美津濃)、ノートやボールペン(三菱鉛筆)などがあった(社名は当時のもの)。
バンダイのキットはBe-1ショップだけでなく、模型店にも流通していた(他のグッズについては不明)。同社のカーモデルとしては、1980年代前半に1/20スケールが一区切りし、新規キットのリリースが数年途切れたところに発売された形となるが、従来製品のイメージ通りよくまとまったキットと言えよう。最大のポイントである外観はうまく実車のイメージを捉えているが、ボディは若干幅広いかもしれない。キットはディスプレイモデルで、ルーフは中央をナイフで切り離すことでキャンバストップ仕様にすることもできた。また、実車ではオプションとなる外付けバッグも、しっかりとパーツが用意されていた。
ここでお目にかけているのは、このバンダイ製Be-1を基本的にはキットのままに仕上げたものである。選択式のルーフはキャンバスではなくノーマルタイプとし、細部、特にインテリアには若干のディテールアップを施した。今となっては容易に入手できるキットではないが、制作工程の写真も併せてお楽しみいただきたい。また、新規キットの登場も待たれるところであろう。
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