Lamborghini Huracan EVO
ランボルギーニ ウラカン EVO
今こそ振り返る伝統のクロカンモデル。ディフェンダーとラングラーの武骨な魅力を再考する【Playback GENROQ 2018】
ウラカン・シリーズの素晴らしき到達点
ウラカン・シリーズの最新バージョン、EVO。登場から5年となるウラカンはそのモデルライフにおいて様々なバージョンを登場させてきたが、おそらくEVOはその最終形となると思われる。その中身と実力にGENROQの永田編集長がサーキットで迫る。
「素直でわかりやすい挙動と強烈なトラクション。操るのはこの上ない快感だ」
ウラカンのニューバージョンが登場すると聞いたときに「この間ペルフォルマンテが出たばっかりじゃん!」と思ってしまったのは正直な気持ちである。ランボルギーニはひとつのモデルを比較的長く熟成・進化させるのが得意だが、それにしてもなぜまた新たなウラカンを、と思ってしまうのは当然だろう。何しろペルフォルマンテが発表されたのは2017年のことだからそれから僅か2年足らず、その間にペルフォルマンテ・スパイダーも登場している。かつてより台数は増えているとはいえ、ランボルギーニのような少量生産のメーカーがそんな矢継ぎ早に新モデルを投入してくるには、どのような理由があるのか。
疑問に思ったもうひとつの理由は、ペルフォルマンテの出来があまりにも素晴らしいからである。640ps、600NmのV10エンジンと先進のエアロダイナミクス、ALAを組み合わせたペルフォルマンテは圧倒的なスタビリティとレスポンス、速さを見せてくれるクルマで、ウラカンはこれで最終進化形に到達した、と思っていた。いったいこれ以上何をやることがあるのか。ウラカン EVOに対して、そんなちょっと不可解な想いさえ抱いていたことは否定できない。
果たしてウラカン EVOはランボルギーニの説明によると、ペルフォルマンテを上回るパフォーマンス(パワーやラップタイムなど)を目指したものではないという。コンセプトとしてはペルフォルマンテのパフォーマンスとドライビング・プレジャーをより確実に、安全に提供する、というもので、そのために全輪駆動はもちろんのこと、新たに四輪操舵とトルクベクタリングも加えられた。
「あらゆる環境で素早い反応と優れたパフォーマンスを提供」
そして最大のポイントとなるのが新開発のLDVI(ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータ)だ。これはアクセル開度やブレーキ、左右と垂直方向のGやステアリングの切れ角など、車両のあらゆるデータをモニターし、AWDの前後トルク配分やトルクベクタリング、ダンパーや動的挙動のすべてを制御する頭脳ともいえる存在だ。
240種類の信号をインプットして340回の指示を出す作業を毎秒50回繰り返すのだという。さらにこのLDVIのすごいところはフィードフォワード、つまりそれまでのデータを基に先の動きを予測するロジックが加えられている点だ。前述のさまざまな車両のリアルタイムのデータ、ANIMAのモードなどを分析し、この先にどのような動きが求められるかを判断して各部に指令を与えるのだという。
それによってウラカン EVOは並外れた性能でありながら極めて運転しやすく、あらゆる環境で素早い反応と優れたパフォーマンスを提供できるスーパースポーツカーに仕上がっている。つまり「より乗りやすさを求めたペルフォルマンテ」というわけだ。
「ダウンフォースはスタンダードのウラカンの7倍にもなる」
ペルフォルマンテで採用されているエアロダイナミクスシステム、ALAは採用されていないが、これも大きなリヤウイングが後方視界を妨げることを避けるためらしい。その代わりウラカン EVOには新たなデザインのフロントバンパーやリヤウイングが与えられている。フロント中央部はスプリッター形状となっていて、より効率的にアンダーフロアにエアを取り込みダウンフォースを発生させる。
フロントバンパー両サイドのダクトから入ったエアはボディ側面にエアカーテン効果を発生し、タイヤが生み出す乱気流を整える働きをし、リヤの大型ディフューザーはベンチュリー効果を生み出しつつエンジンの熱気を排出する効果も生む。その結果ウラカン EVOのダウンフォースはスタンダードのウラカンの7倍にもなるという。
実物のウラカンEVOを目前にすると、確かにペルフォルマンテに比べるとずっと大人しい。前述のように大きなリヤウイングはなく、サイドスカートもボディ同色だ。
「270km/h超の速度でもステアリングはビシッと安定」
ドアを開けて乗り込んでみると、センターコンソールの縦型モニターが飛び込んできた。従来はナビゲーションを装備していても表示はメーター内のみだったから、これは使い勝手的には大きな進歩だ。このモニターには前後のトルク配分やAWSのリアルタイムの作動状況を表示できる。
試乗の舞台となったバーレーン・インターナショナル・サーキットのピットをスタートし、加速していく。初めてのコースゆえ緊張は拭えないが、V10のレスポンスは素晴らしく、踏み込むのに比例して官能的なサウンドとパワーが増していく。コーナーをひとつ、ふたつとクリアしていくに従って、クルマの挙動が非常に素直でわかりやすいことに気づく。ブレーキングでシフトダウンしつつターンインしていくと、スーッとクルマが滑らかに向きを変えてくれる。そこからアクセルを踏み増していけば、強烈なトラクションでクルマは前へと突き進む。
7速DCTのシフト速度の素早さ、右足と直結しているかのような自然吸気V10のレスポンスの鋭さ、すべてがこの上ない快感をもたらしてくれる。メインストレートでは6速で270km/hをオーバーしたが、この速度でもステアリングはビシッと安定している。
「ただひたすらこのハイパワーと自由自在の走りを楽しめる」
さらにペースを上げていくと、タイトなコーナーではスーっとテールが流れ出す。どうやらANIMAのSPORTモードはかなりオーバーステアな設定のようだ。しかしその流れ出しの挙動が実に自然だ。ヘアピンに限らず、3速で走り抜けるようなコーナーでもクルマ全体が滑り出すのがわかるのだが、これまた不思議なほどに挙動が予測できて動きがスムーズなものだから焦ることはまったくない。
ボクのようなプロフェッショナルでもないドライバーがこれほどハイパワーなクルマが流れるのを楽しんでいるのだから、よく考えればすごい話だ。おそらくクルマの中枢ではLDVIがあらゆるデータを計算して各タイヤのトルク配分やダンパー、ステアリングなどに細かく指示を出しているのだろう。しかし運転している方はまったくそんなことは感知しない。ただひたすらこのハイパワーと自由自在の走りを楽しめる。なるほど、ランボルギーニが目指したのはこういうことか。
今回はサーキット走行以外にスラロームを試す機会も与えられた。通常のウラカンとウラカン EVOの両方でスラロームを試してみると、その挙動はまるで違っていた。ウラカン EVOはドライバーを中心にクルマが回転するかのように向きを変え、明らかにステアリングの切れ角も少ない。いささか古臭い表現で恐縮だが、クルマがひと回り、いやふた回りも小さくなったかのようだ。しかも動きがやたらと軽い。素のウラカンもそれだけで乗れば十分に軽快でよく曲がるのだが、ウラカン EVOと比べるとその違いは明らかだ。サーキットでのターンインのスムーズさも、4WSとトルクベクタリングが果たしていた役割が相当に大きかったのだろう。
「ウラカンEVOは、現代スーパースポーツのひとつの究極の姿だ」
スーパースポーツカーの世界において、ひと昔前までは考えられなかったほどのハイパワーなクルマが登場しているのは、超高性能を安全に提供できるテクノロジーの進化があるからだ。ウラカン EVOは安全であるだけでなくその性能を引き出す楽しさも提供している。運転している方はそのパワーを御したつもりでいるのだが、実は手のひらの上で転がされているだけなのかもしれない。だが640ps、600Nmというクルマのドライビング・プレジャーを引き出すのに、これは誠に正しい方向だと言わざるを得ない。
ウラカン EVO。こいつはまさに現代スーパースポーツのひとつの究極の姿だと言えるだろう。恐ろしいほどのクルマである。
REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/Lamborghini S.p.A.
【SPECIFICATIONS】
ランボルギーニ ウラカンEVO
ボディサイズ:全長4520 全幅1933 全高1165mm
ホイールベース:2620mm
車両重量:1422kg
エンジン:V型10気筒DOHC
ボア×ストローク:84.5×92.8mm
総排気量:5204cc
最高出力:470kW(640ps)/8000rpm
最大トルク:600Nm(78.5kgm)/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ(リム幅):前245/30R20(8.5J) 後305/30ZR20(11J)
最高速度:325km/h
0-100km/h加速:2.9秒
車両本体価格:3223万736円
※GENROQ 2019年 4月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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オーダー後の待機時間って他の車欲しくなるよね。