2023年1月26日にトヨタの豊田章男社長の突然の退任が発表されたのだが、その後任には4月から新社長として執行役員の佐藤恒治氏が就任する。佐藤新社長体制になり、トヨタのクルマ作りはどのように変わっていくのか、国沢光宏氏が予想する!
文/国沢光宏、写真/国沢光宏、トヨタ、ベストカーWeb編集部、ベストカー編集部
レクサスLC開発にGRプレジデント……トヨタ佐藤恒治新社長体制でもっと「楽しいクルマ」が生まれる!?
■佐藤氏はレクサスLCのチーフエンジニアなどを務めていた
14年間、トヨタのトップを務めた豊田章男社長からその座を2023年4月1日から引き継ぐ佐藤恒治執行役員
ビジネスジャーナルというWebメディアがトヨタの佐藤恒治さんが新しい社長になるのを受け、『トヨタ「実績なし」新社長人選の怪』という記事を掲載した。う~ん! 書いた人や編集部が業界のことをわかっていないだけ。
佐藤さん、バリバリの次期社長候補だったということを知らない関係者は皆無だと思うのだけれど。これを日本語で「モグリ」って言うんですね、と思った次第。
佐藤恒治さんってどんな人か紹介してみたい。私が初めて名刺交換したのはレクサスLCの試乗会だった。2017年のゴールデンウィーク前後だったと記憶している。現在53歳ということだから、その当時は47歳ですね。
その時はLCのチーフエンジニアだった。すなわち技術屋さんだ。トヨタの歴代社長を見ると、技術屋さんって実質的な創業者である豊田喜一郎さん以後、いない。
■レクサスLC乗った時点で佐藤さんは「好印象」!
レクサスLC500コンバーチブルに試乗する筆者の国沢氏。クローズドモデルを含めて筆者のレクサスLCへの評価は高い
初対面の佐藤さんは好印象だった。いや、正確に書くと私の場合、人よりクルマで評価が決まる。佐藤さんのことはあまり覚えていない。レクサスLCというクルマ、初代LS以後、初めての「こりゃトヨタじゃなくレクサスだ」と思える車種でしたね!
以後、安くなったら中古車で買おうと狙うも、メルセデスベンツのSLクラスと同等の金額。日本の顧客って慧眼だな、と思う。
その次に佐藤さんの活躍ぶりを知ったのは2020年のこと。レクサスのプレジデントに就任したのである。LCを見れば「当然でしょうね」。今までさまざまな人がレクサスを担当してきたけれど、いいクルマの本質を知っていると思えなかった。
ちなみに私の「高価なクルマ」の判断基準は、ハンドル握った状況で外を見た時に「素敵なクルマに乗って申し訳ないです」と感じるかどうかだったりする。
■レクサス兼務でGRプレジデントにも就任!
2022年の東京オートサロンでのGRプレスカンファレンスで対談した佐藤恒治執行役員(右)と豊田章男社長(右)
もっと「あらま!」だったのが、半年少々でGRのプレジデント兼任になったこと。GRのプレジデントは豊田章男さんの分身みたいなもの。こらもう社会人としちゃ厳し過ぎる修行だと思う。
おそらく普通の人からすれば、信じられないくらいのプレッシャーでしょう。参考までに書いておくと、モリゾウさんを尊敬しつつつも、近寄らないトヨタ社員は少なくない。
自分に置き換えてみたらよ~くわかると思う。社長から「これをやってね」と頼まれたら、時間軸や内容的にトヨタ社内で容認されないことだってやらざるを得まい。強引にやろうとすれば「社長の威を借りている!」と叩かれてしまう。
活性の低い社長なら何とかなるものの、暴れん坊将軍に近いモリゾウさんとなれば、次から次へと高い高いハードルがやってくる。
■佐藤氏の手腕で水素エンジン搭載車を章男社長に試乗させた!
水素エンジンを搭載したGRヤリスと筆者
豊田章男ウォッチャーからすれば「これは厳しい。続かないかな?」。GRのプレジデントになって半年くらいした2021年3月頃、水素エンジン搭載の車両でレースに出るという話を聞く。なんでも佐藤さんが引っ張ってきた技術という。佐藤さん、技術者から水素エンジンの話を聞き、試乗できるように仕立ててモリゾウさんに乗せたのだった。その後の流れはご存じのとおり。
この時点で「モリゾウさんに振り回されるばかりじゃなく、新しい提案もできるのが凄い!」。モリゾウさんの側近になると、相当に能力あってもイエスマン化してしまう。それくらい忙しいです。
このあたりからモリゾウさんも「なかなかやるな!」と考えたんじゃなかろうか。以後の動きを見ていると、師匠と弟子のような関係。モリゾウさん、いろんなことを教えているように感じた。
例えば、メディア対応。やっぱり社長の顔は見えたほうがいい。トヨタ以外を見ると、いるかいないのかわからない状況。佐藤さんはモリゾウさんを見ていて、とても丁寧かつ上手。メディアから逃げないです。
佐藤恒治氏(左)はトヨタの新社長らしくクルマ好き度も社員のなかで断トツと筆者は指摘する。AE86カローラレビンをレストア中だとか
クルマ好きとしても世界一の自動車メーカーを率いる社長としちゃダントツだ。最近は80スープラに続き、AE86カローラレビンを購入し、嬉々としてレストアをしています。
■前田昌彦副社長と中嶋裕樹プレジデントもキーパーソン?
前田昌彦取締役・執行役員副社長
さて。甘いことばかり書いていると私らしくない。さまざまな情報を。直近で佐藤さんの対抗馬と目されていたのが前田昌彦副社長である。前田さんは2022年4月からトヨタ車すべての開発責任者という大役。
佐藤さんと同じ年齢(53歳)ながら副社長に抜擢されていた。あまりに早い昇進のため次期社長だと考えられていたワケです。前田さん、モリゾウさんと少し距離を取っている。
前述のとおり、佐藤さんはモリゾウさんの弟子のような状況。モリゾウさんも常々言うとおり、トヨタ社内で社長に反発する人も少なくない。そういった人からすれば前田さんは新鮮に見えるのだろう。
そして前田さんもナイスガイです。もう2~3年後の社長交代なら前田さんの可能性、高かったと思う。佐藤さんと違う持ち味の前田さんが佐藤さんをバックアップしてくれたら鬼に金棒です。
写真中央が中嶋裕樹Mid-size Vehicle Companyプレジデント。筆者によると、通称「ジャイアン」だとか
もうひとりのキーマンが「ジャイアン」(笑)と呼ばれているミッドサイズとCVのプレジデントである中嶋裕樹さん(60歳)だ。RAV4やカムリ、さらに商用車など中嶋さんの担当している車種だけでトヨタの半分以上の収益を得ている。
中嶋さんも社内で人気があるし、私から見てもいい仕事をしています。中嶋さんが今までどおり大暴れしつつ、ジャイアンの後継者を育ててくれたらトヨタは当面強いと思う。
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GRプレジデントなの? 本当?