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ライバルは自分自身──新型マセラティ・グレカーレ試乗記

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ライバルは自分自身──新型マセラティ・グレカーレ試乗記

マセラティの新型SUV「グレカーレ」の乗り味はいかに!? テスト・ドライバーの評価も交えリポートする。

使い勝手の良いインテリア

ジェネシスのコンセプトカーがカッコよすぎる!

マセラティのテストドライバーは名前をアンドレア・ ヴィアノ(Andrea Viano)という。今年47歳、キャリアは21年、ベテランだ。同社が万難を拝して送り込んだ新車、グレカーレのミラノ試乗会に参加したとき、偶然の成り行きから行動を共にすることになった。

最初は彼を横に乗せて直4ターボエンジンにマイルド・ハイブリッド組み合わせたモデナのステアリングを私が握り、途中で3リッターV6ガソリンツインターボエンジン搭載の上級グレード、「トロフェオ」に乗り換え彼が運転する、こういう段取りだ。

テストドライバーを横に乗せて一般道を走るなど初めてのこと。乗り込む前は大いに緊張したが、エンジンスタートボタンと、2つのタッチパネルのあいだにあるシフトをすんなり見つけられたことが大きかった。ジタバタせずにスタートしたことで気持ちに余裕が生まれたのだ。私は普通の人が普通にできることができない人間。今時のクルマでは操作類を弄るどころか、見つけることすらハードルは高いのである。

最初の信号で止まったとき、「自分でも驚いた」と告白すると、彼が「嬉しいなぁ」と笑顔を見せた。それはこういう意味だった。現在12人で構成されるマセラティ社専属テストドライバーは1台のクルマのプロトタイプから完成まで、すべての段階に関わる。彼らが評価するのはスタイリング以外のすべて。乗り心地やハンドリング、耐久性を含めたメカ部分の評価も去ることながら、もっとも重視するのはサウンドと共に操作類の「使い心地」と「使い勝手」という。

「『すんなり見つけられた、自然に操作できた』と言われると、僕らの仕事が実を結んだようで嬉しいんだ。特にラ・モストリーナ・カンビオについては初採用だから」

前述の通り、ふたつのタッチパネルの間に備えられたシフトスイッチ(左から横並びでP、R、N、D/M)を社内では“La Mostrina Cambio”と呼んでいるらしい。モストリーナは階級を示す襟章の縫い取り線、カンビオはシフトのこと。マニュアル育ちのせいか、いまだシフトとの相性は個人的にクルマ選びの重要要素のひとつ。たとえATでもシフトが使いにくいと出鼻をくじかれるような気がしてならない。

この点、グレカーレのそれは設置場所もわかりやすく文字もシンプル、とても使いやすい。エアコンからシートサポート調節システムまで操作類も同様だ。これらも彼らの仕事の成果だろうか。「右に回すとスポーツ系と覚えてね」、こう教えられたドライブモードはGTが標準、ほかにコンフォート、スポーツ、オフロード(2種類)の4つ、トロフェオにはコルセがくわわる。

この丸型スイッチも含めて、扱いがセンシティブ過ぎず、また正面に表示されるグラフィックが明快であることに好感を持った。何より気に入ったのはモノ置き場である。車内に置いた携帯がカタカタ揺れる音と垂れ下がる充電コード、いずれも大変気になるが、グレカーレにはセンターに置き型の充電装置と一体化した専用スペースがある。その手前は両開きの蓋付きモノ入れスペースで、中には2つの充電口が備えられていた。試乗車両はヘッドアップ・ディスプレイをオプション装備、シンプルに道順を映し出したが、これも見やすい。と言っても方向音痴であるが故にいちいち、「次、ロータリー3番目の出口だよね」などと確認し、「ナヴィを信用しようね」と彼に揶揄われたが。

マセラティのテストドライバーとは?

センシティブ過ぎずもちろん鈍感でもない、これはステアリングフィールにも言えること。ピリピリしていないからリラックスしてドライブできる。これは想像以上だった。

なにより乗り心地が快適である。ロードノイズも低い。かつてのランチアのそれのような、実にイタリアらしい濃紺に塗られたモデナにはエアサスがオプション装備されていたこともあって、路面へのあたりがソフト。コンディションのいいとは言い難い道でも高いフラットをキープする。ソリッドな足まわりと快適な乗り心地の共存。ボディ剛性が優れているのだろう。

もうひとつ実感したのはサウンドのよさと全般にわたってパワーがあること。いわゆる”アクセルに対するツキがいい”を実感した。「いいだろー」、アンドレアさん、満面の笑顔。

一般道から自動車専用道路に入り落ち着いたところで「マセラティのテストドライバーに欠かせないことはなにか?」と、尋ねてみた。かつてフェラーリのテストドライバーにもおなじ質問を投げかけたが、このとき、跳ね馬のドライバーは「数値で表せないクルマの評価を言葉で伝えられること。豊かな語彙力」と答えたように思う。

アンドレアによればマセラティでもおなじだが、同社ではこの点についてはトレーニングがおこなわれるという。「ウチの会社では、という点を強調するなら」、こう言った彼が挙げた大切な点はふたつ。それは意外なものだった。

「運転が上手いのは当然。自動車を知っていることも当然。でもそういう人はたくさんいる。マセラティのテストドライバーで大切なのは大人の常識人であること」、これがひとつ目。マセラティの豪華さというのは若者(彼は“その辺のお兄ちゃん”と言った)向けの金ピカではない。成熟した大人のためのもの。それを理解するにはテストドライバー自身が品性を持った人間でなければならないということらしい。もうひとつは「家族が僕らの仕事を理解していること」。

スケジュールを聞いたが、それは目まぐるしいものだった。自宅はトリノ、オフィスはバロッコ・サーキット内にあって、シュミレーターのあるモデナのラボにもしょっちゅう出向く。

なによりグレカーレでは毎週、トリノとシチリア島カターニアを往復して長距離走行テストを続けているそうだ。直線距離でも1500kmくらいあるだろうか。冬場のもっとも寒いときにはエンジニアを乗せて、4台のグレカーレをスウェーデンまで走らせたそうで、長期滞在して試乗を続けた。灼熱地でのテストにはドバイが選ばれた。来月初めは南イタリアのナルド・サーキットで最高速度の計測に挑むという。家で過ごす時間はとても短いから、家族の理解がないと難しい、そういうことのようだ。

「マセラティの性格を思い出して欲しい。長距離を走る高性能車であることがアイデンティティだから、ロングドライブは欠かせない。僕らは『幸福な旅ガラス』なんだよ」

自分の仕事が好きでたまらないのだ。朝、起きると今日も仕事に行けるとワクワクするそうだ。

ライバルに対する優位性

そう言えば最高速度のテストを行うというナルド・サーキットは、現在、ポルシェ・エンジニアリングが所有するはず。これで思い出したことを聞いてみた。グレカーレのライバルと言われるポルシェ「マカン」について。答えは以下の通り。

「マセラティではマカンを購入して、乗り潰した。いやというほど走らせて最後は分解した。スペース面も含めて結果的にはグレカーレはマカンより出来がいいと自信を持っている」

 度は私が彼から質問を受ける番だった。当然のごとく、グレカーレをどう思うか。とてもいい、これは正直な気持ち。日常的に使える。前述のライバルと比較するなら、マカンは子育て終了世代のSUV、後席にゆとりのあるグレカーレは子育て世代に向いているようにも思う。この点は送迎を必要とする年齢の子供を持つアンドレアも同じ意見で、奥さん用に買おうかと思っているくらいという。ただし夫人は「クルマはサンルーフとナヴィがあればなんでもいい派」なのだそうだが。

もし購入するとしたら、唯一、悩むのはGTとモデナ、どちらがいいか。GTは車内に腰掛けただけだったために情報からの比較ながら、パワーユニットは同一、最高出力の違いは30ps、のみ。数値的には100km/hへの到達タイムもほぼおなじ、最高速度に至っては同一だ。

ということはインテリアが勝負になるかと言えばここも難しいところ。どちらもレザー、塗装されたウッド、カーボン、アルミが上手に組み合わされており、実にイタリアン、センスがいい。このふたつのグレードの違いが明快だったら、これだけが気になる点だった。

「それはちょっと待って」、アンドレアが言った。車両交換場所に到着したときだった。私たちはモデナからイエロー・ボディのトロフェオに乗り換え、今度は彼がステアリングを握る。走り出す前に携帯を取り出したから電話でもかけるのかと思ったら、彼が言った。「アクセルを踏めるルートをキープしてあるんだ」。両脇を草むらに囲まれた閑散とした長いストレートに着くと彼が「準備はいい?」と尋ねる。踏む気だね。

V6が奏でたサウンドは、それはそれは素晴らしいものだった。レッドゾーン突入まで、ハスキーだけど澄んでいる、澄んでいるのに太く低い、そんな和音が下から上に向かって徐々に、でもあっという間に車内を埋めた。液晶の針が7000回転に触れたところで体の芯を刺された気がした。ブスっと、ではなく、パーン!と。

それまで聞いた直4のサウンドとは比較にならない逞しさがあって、痺れた。「(GTとモデナ、どちらがいいか)その答えはちょっと待って」というのはこのことだったのだと理解した。トロフェオ、とてもいいです。

しかし、時代を考えたらマイルド・ハイブリッドも捨てがたい。それを言うなら只今準備中のEVモデルも。いや、ピュアな内燃機関をまだまだ楽しみたいようにも思う。わかったことはひとつ。グレカーレのライバルはグレカーレ自身であるということ。日本での発売は今年終わり、もしくは来年初頭ではないかと思われる。

文・松本葉

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