フランスやイギリスが2040年あたりを目処にエンジン(内燃機関)のクルマから脱却、EVなどのゼロ・エミッションビークルにシフトするという発表をしたことが話題となっている。非常にキャッチャーかつドラスティックな内容のためインパクトが大きい。そして、こうした流れを受けて「日本の自動車産業は乗り遅れているのでは?」という声も大きくなっている。また、「化石燃料は(実質的に)枯渇しないのでゼロ・エミッション化は無意味」という声も聞こえてくる。
まず、化石燃料や二酸化炭素に関する問題は、今回のEVシフト・トレンドにおける大きなテーマではあるが、唯一のテーマではない。「パリ協定」における温室効果ガス(≒二酸化炭素)の削減目標を実現するという強い意思を示すためのアピールとしてエンジン車からの脱却を掲げている面もあるだろうが、都市部における大気汚染対策も緊急のテーマ。
大気汚染に関して問題となるのは、二酸化炭素ではない。目に見えるスモッグにつながる粒子状物質(PM)と、光化学スモッグの原因となる窒素酸化物(NOx)への対策が必要となる。主にディーゼルエンジンにおいて排出量が話題となるPMとNOxだが、ガソリンエンジンでも出ているものであり、大気汚染大気汚染してエンジン車の削減を目指すという部分もある。
だからこそ、エンジンを搭載していないゼロ・エミッションビークルが求められ、もっとも実現性のあるEV(電気自動車)へのシフトが叫ばれているのだ。
さて、こうしたトレンドに対して、日本の自動車行政は遅れているように感じる面もあるだろうが、だからといって自動車メーカーが遅れていると考えるのは早計。本社がある国の政策は影響するだろうが、いまや国内よりも海外の売上が多いメーカーがほとんどでありEVシフトを宣言する欧州や中国の政策に合わせた商品化を進めなければ生き残れないのは自明。そもそもフランスでのEVシフト宣言は、ルノー日産にとっては地元からのアシストといった見方をするほうが自然といえるのではないだろうか。イギリスにおいても、トヨタやホンダが生産工場を有している地域であり、メーカーにとっては他国で起きた話とはいえない。ブレグジットの影響のほうが大きいかもしれないが……。
つまり、自動車メーカーにとってはEVが必要とされる国や地域があって、それが採算ベースに乗るか、販売する必要があれば、開発するのは当たり前の話であって、国内市場の状況でメーカーのポテンシャルを測るというのはナンセンスだろう。
そもそも、量産電気自動車として最多となる25万台以上の累計販売を誇る日産リーフは、間もなくフルモデルチェンジを控えている。これから量産EVを生み出そうというメーカーに対して、まさに一世代のリードをしている状況だ。その電気自動車を生み出した“日本の自動車産業”全体を「ハイブリッドを重視したために遅れている」と批判するのは合点がいかないと思うのだが、いかがだろうか。
ちなみに、タイトル画像は、ホンダがアメリカで販売する電気自動車「クラリティ・エレクトリック」のパワートレイン部分。ホンダ・クラリティは、北米の環境対応車として、燃料電池、プラグインハイブリッド、EVと3種類のパワートレインを設定している。だからEVのパワートレインに対してフロントベイが大きすぎるのだが……。このように地域とニーズに合わせたゼロ・エミッションビークルを展開するフェイズにも入っているともいえる。こうした技術が一朝一夕で実現できるわけではなく、けっして電動化を無視してきたわけではないことの証左といえるだろう。
(文:山本晋也)
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