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オークション×3に沸くパリで見た今後のクラシック事情──フェラーリ篇

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オークション×3に沸くパリで見た今後のクラシック事情──フェラーリ篇

冬のパリで開催されるクラシックカーの祭典、レトロモビル。新型コロナウィルスの猛威がはじまる直前の2月はじめの週末には、恒例となる3つのオークションが大々的に開催された。規模と相場形成で注目を集めるこのオークションで、今回はフェラーリの相場や人気状況などを見てみよう。

出自の良いヒストリック・フェラーリは安定相場

コンサバなグランドメニューではちょっと物足りない方へ

前回はパリでのオークションにおける、ポルシェの傾向について報告したが、今回はフェラーリについてお届けしたい。

まずポルシェと異なる傾向として、フェラーリは流札となる個体が少なかった。モダン系でもそうだが、フェラーリはポルシェより量産された元の個体数が少ないため、「役モノ」であれ、それ以外であれ、そもそもの分母が小さいのだ。

加えて、公道を走れるロードカーとレーシングカーの境界線が、とくに60年代までは希薄で「フェラーリ=ロードゴーイング・レーシング」という状態がスポーツプロト時代直前まで続いた。ポルシェが904や906を繰り出していた時代に、フェラーリはすでにF1でもスポーツカーでも世界制覇を成し遂げ済みだった。2020年の五輪開催関連の報道でも分かるように、世界共通のルールとオーガナイザーを頂いて同じルールで競う20世紀後半的なフェデレーション文化の中で、フェラーリは押しも押されぬエスタブリッシュメントなのだ。

まずレトロモビル会場、公式オークショネアのアールキュリアルでは今年の目玉の1台、1965年型275GTBがカンロクたっぷりに、250万2800ユーロ(約3億33万円)で落札された。1966年のモンツァ1000kmでクラス優勝したヒストリー付きの個体で、予想落札値2~3ミリオンユーロ(約2億4000万~3億6000万円)のちょうど中央値で折り合った。

275GTBはスティーブ・マックイーン所有の個体が10ミリオンを超えたことはあったが、250GTO辺りは2年前に48ミリオンダラーという余裕の50億円超をつけたこともあるので、コロンボ・ユニット系としては、これでも控え目価格のモデルといえる。

とはいえレトロモビル会場には、ロンドンのクラシックカー・ディーラーであるフィスケンスのブースに、イエローの275GTBコンペティツィオーネがあった。コンペティツィオーネ・スペチアーレという、世に3台しかない275GTBほどではないが、これはベルギーのエキュリー・フランコルシャンが1966年のル・マン24時間を走らせ総合10位、クラス2位に入ったシャシーナンバー09027だ。珍しい右ハンドルの個体で長らく赤く塗られて、日本で松田コレクションに収蔵されていた時期もあったが、近年フェラーリ・クラシケでレストアされ、元のイエローに戻されたという。

今回は「価格応談」となっていて、今もフィスケンスの公式サイトで販売中だが、ヒストリーとレストアの確かさから、おそらく10億円を下回ることはなさそうだ。ちなみに2013年のロンドンの競売では3億円~の入札予想値で流札されたものの、2004年にモナコでの落札値は91万5500ユーロ(1億円強)だったことを思えば、ここ15年ほどでの狂乱市場ぶりが想像できるだろう。

他にもめぼしい希少フェラーリでは、バルディノン・コレクションやセットンといった有名コレクターが所有していた1966-68年のディーノ206S/SPが挙がる。これはボナムスで競売にかけられ、近年の相場でいけば2億円は堅そうな車種だが、簡素なバルケッタ・ボディで人気のピエロ・ドローゴ制作のボディではなかった。「見積応談」の札のまま、流れてしまったようだ。

すると不思議というか、機を見るに敏な人はいるもので、アールキュリアルで206SPのボディが、欠品パネルもちょくちょくあるが、転がっていた。こうしたクルマを買うのは、単にブツを手に入れるのではなく、土地を登記して家屋を建てるのと同じ感覚で、登録書類に基づいてそれを修復再現する権利をも手中に収めることなのだ。とはいえボナムスの方の206S/SPとセットで買って、クラシケで直すというお大尽プレイは誰もが頭をよぎるものの、手が出なかったということだろう。

とどまるところを知らぬディーノ人気

以上に鑑みれば、ヒストリック・フェラーリの中でも由緒正しい血統のモデルは、そこそこ相場は安定しているが、実際に所有できるプレーヤーが少ないのも事実だ。逆に元より人気の高いロードカーで、厳密にはフェラーリのバッジのないディーノ辺りが、むしろますます高値取引される傾向にある。RMサザビーズでは、エンジン&ボディがマッチングとはいえ、未塗装ボディでボンネットなどが欠品中の1973年型ディーノ246GTSが、26万3700ユーロ(3200万円弱)でハンマープライスとなった。これは予想落札値の下限だった2万7500万円(約3300万円)にわずかに届かないが、売り主が呑んだ訳だ。

レストアベースの個体もこれだけ高値なので、ミント・コンディションの青い1971年型246GTには、32万5625ユーロ(4000万円弱)という値がついた。32万~37万5000ユーロという、決して低くない予想落札値の中で、レンジに入ったのだから需要は相対的に高いのだ。

RMサザビーズにはディーノと同じ時代の12気筒、365GTS/4デイトナ・スパイダーも並べられたものの、2.4~2.6ミリオンユーロ(約2億9000万~3億1200万円)という当初のレンジに対し、最終的に190万ユーロ(約2億2800万円)という大台アンダーで決着した。ちなみにスーパーカーブームの時代に君臨した512BBの1981年型が、同じオークショネアの手で23万ユーロ(約2750万円)と、ディーノより安く取引されている。ディーノ人気はアウトモビリアで、ガレージの昔の看板類にすら高値がつくなど、まさにとどまるところを知らない。

時間を経ても衰えない跳ね馬オーラ

いわばオールドかつヴィンテージなフェラーリが、スモール系やモダン系といったより台数の多い時代のフェラーリ人気をも牽引している、そんな雰囲気だ。実際に今年のレトロモビル界隈では、ディーノの後継筋にあたるV8フェラーリが、売りモノ・非売りモノ合わせて数多く現れた。

まずRMサザビーズのお立ち台には、6ミリオン(約7億2000万円)が見込まれたジャガーDタイプの隣に2018年の488GTB 70周年アニバーサリーが、30万ユーロ(約3600万円)の落札レンジ中央値で登場。37万円ほど上回る30万3125ユーロで落とされた。

ほかにも、ランチア・ストラトスの活躍に刺激されてディーラーのサテライト・チーム経由で登場したグループBマシン、1983年型308GTBミケロットの故ヘンリ・トイヴォネン仕様が展示された。

トイヴォネンは1986年のツール・ド・コルスにおいてランチア・デルタS4を駆って事故死し、グループBの申し子にして幕引きのきっかけともなったドライバー。ボーナムスではランチア・デルタS4が競売にかけられていたが、挟角65度のV型であるディーノ・ユニットを設計したヴィットリオ・ヤーノ自身、フェラーリ以前はランチアに在籍していた縁がある。会場は異なるとはいえオークションを機に、時間を経て残されたクルマだけがパリに集まり、これらの人々の活躍や生き様が思い出される機会は、やはり貴重なのだ。

ほかにも308は、「カロッツェリア・ベルトーネのプロトタイプ」という今年のレトロモビルの公式テーマ展において、1976年の308GTレインボーが登場。極端なウェッジシェイプのスーパーカーは、今も衰えない斬新さで際立つ存在感だった。

ちなみにパリは4人乗りクーペのフェラーリが異常に好まれる地でもある。1971年と72年の2年間で500台が造られたのみで、ピニンファリーナの中でも異形の+2クーペといえる、365GTC/4の赤ボディにベージュ内装仕様が、アールキュリアルの競売にかけられた。

落札レンジ下限の15万ユーロ(約1800万円)に少し届かない14万9640ユーロ(約1795万円)での落札だったとはいえ、EU域外からの売りモノだったので5.5%の消費税対象。ゆえに輸送費まで込み込み2000万円の感覚だろう。デイトナのホイールベースを10cmほどストレッチした優美なGTクーペは、後のモダン系のFR12気筒に通じる、過渡期的でディレッタントなクーペだ。5年前にアメリカのオークションでは、6000万円ほどの価格がついたこともあるので、好ましい方向に落ち着いてきた1台といえる。

もう1台、甘い生活感を漂わせ、ボーナムスの会場でひときわ異彩を放っていたのは、365GTC/4のお次のフラッグシップにして後継モデルたる1973年型365GT4 2+2、しかもグリーン外装にベージュ仕様だ。

ピニンファリーナが70年代的なウェッジシェイプに方向転換した最初のモデルで、後の400、412まで1800台以上も造られたボディゆえ、希少さには欠ける。よって予想落札レンジは7万~8万ユーロ(約840万~960万円)と、他のフェラーリに比べたら破格とも思えるのだが、それでも今回は買い手がつかなかった。

それでもフェラーリが、ブランドとして特別な地位にあると知らしめたのが、テスタロッサに付随していたスケドーニのレザーバッグ数点のセット。ようは鞄ひと揃いの6点ずつの完全セットで白とタン、それぞれ4000~6000ユーロ(50万円弱~72万円)の予想落札レンジで登場したのだ。

パッキリ目コントラストのシャツ&タイと紺ブレを着込んだ、カリフォルニアかフロリダのバブル紳士に似合いそうな雰囲気の、今の目にはかなりクラシックめの鞄であることは間違いない。日本でもメルカリなどで出品されていることがあるが、たいていバラ売り。今回はどちらのキットも流札したので、そのうちまたどこかで売られるかもしれない。クルマのみならず周囲のアイテムまで、時間を経ても衰えない跳ね馬のオーラというか地ヂカラが、フェラーリには備わっているようだ。

文と写真・南陽一浩 編集・iconic

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