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「福祉車両」なんて言葉は古い! 誰でも乗れるクルマを目指した「JPN TAXI」の「アッパレ改善」と「課題」

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「福祉車両」なんて言葉は古い! 誰でも乗れるクルマを目指した「JPN TAXI」の「アッパレ改善」と「課題」

スロープの折り畳みを3つ折りから2つ折りにした

 トヨタは、2017年10月に、タクシー専用車としてJPN TAXI(ジャパン・タクシー)を市場導入した。

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 低床フラットフロアや、後席スライドドアなどを採用したユニバーサルデザインが特徴で、子供、高齢者、車椅子使用者、海外からの観光客など、さまざまな人にやさしく、快適なタクシー専用車であるとした。そして従来のクラウンコンフォートでは、車椅子から降りて乗車し、車椅子は荷室にしまう方式だったが、車椅子のまま客室に乗り込めることが新しいと、これも売りの一つだった。

 ところが、実際には車椅子での乗車に時間が掛かることから、乗車拒否する事例も生じ、改善が求められた。具体的には、車椅子で乗降する際のスロープ設置などの作業に10分以上かかるところを、3分に短縮するという改善である。

 2019年2月に改良が実施され、まずスロープの折り畳みを3つ折りから2つ折りとした/延長スロープを利用しなくても、1枚のスロープで乗降できる機会を増やすため、スロープの長さを84cmから1m10cmに延ばした/車椅子を固定するベルトなどを袋入りとしていたのを、後ろのフロアに収納ポケットを設け、これに収納するようにした/作業手順を書いたラベルを貼ることにより、マニュアルを広げなくても作業できるようにした。

 これらの改良を販売済みの車種に適用し、そのうえで、同年3月から発売となる新車では当初から改良を施した車両での販売となった。トヨタが生産方式などで編み出した、「改善(カイゼン)」が、活かされたといえる。

 それでも、改善の各内容は、当初から採用できなくもない取り組みのようにみえる。また、当初10分程度で車椅子の人を乗せられればよいと判断した理由も定かではない。とくに都市部では、交通量の多い道での利用も考えられるからだ。

 結局、発売当時に示されたユニバーサルデザインのタクシーという狙いも、従来のクラウンコンフォートに比べればよいとの発想にとどまり、ユニバーサルデザインのタクシーとしての理想を求めた設計や物づくりではなく、なおかつそれを事業として使うタクシー会社の取り扱いや、タクシー運転者の仕事の様子などをきちんと把握して開発したのかという疑問が浮かぶ。物づくりでよく語られる、現場・現物・現実という三現主義が正しく実行されたうえで発売に至ったのか、大きな疑問だ。

 車椅子の人を乗せる作業手順が、取り扱い説明に書かれていればよいのではなく、改善後のようなラベルで車両に貼り付けるといったことは、利用者の視点に立てば考え付きそうなことではないか。

トヨタの福祉車両は業界のなかで先を行く取り組み

 豊田章男社長は、今年の春闘で、社員に向かって「YOUを主語に会話しているだろうか」と問いかけた。その意味は、相手の立場や気持ちで物事を考え、仕事を進めているかという自問自答である。

 社長が、役員や管理職を含め組合員に対しこのことをあえて語った背景にあるのは、社内の効率化や収益の向上にばかり目が行って、相手の苦労や手間への気配りが欠けていると実感したからだろう。この言葉をさらに広げて解釈すれば、販売店や顧客のことも考えた新車開発をしているかとの問いかけにもなる。

 今回の事例でも、トヨタは福祉車両については業界のなかで先を行く取り組みをしており、担当者は現場を通じた知見を豊富に得たうえであらゆる策を練っている。ユニバーサルデザインのタクシーと語るのであれば、福祉車両の担当も含めたうえで設計や開発が存分に行われていていいはずだ。タクシーともなれば、交通状況なども勘案して乗降に10分またはそれ以上かかったのでは交通の流れに阻害を生じさせる懸念も見抜けたのではないかと思う。

 改善を素早く実施したのは、さすがトヨタといえる。だが、それならば、もっと現実の社会に接し、人の気持ちにそったクルマ開発がトヨタならできるのではないか。JPN TAXIの経験をきっかけに、次世代の新車開発においても、バリアフリーやユニバーサルデザインをより進化させ、標準車と福祉車両という区別をすることなく、消費者にやさしい設計に取り組んでほしいものである。

 これからの時代は、健常者も障害者も区別なく、自由に移動できるクルマ(モビリティ)への要求がさらに高まるだろう。とくに新型コロナウィルスの影響による3密を防ぐ新しい生活様式のなかで、個人単位で移動できるクルマへの期待が高まるはずである。そのとき、研究・開発の部屋のなか、コンピュータのなかだけで考えたのでは、最良の回答は得にくい。

 三現主義を、単に言葉だけで終わらせたり、社内の段取りのなかだけに留めたりせず、言葉通り、商品企画者や開発者は自ら事務所を出て現場を歩くことが重要だ。

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みんなのコメント

5件
  • 家族が車椅子使っています。実際に「車椅子OK」と表示されている施設、駐車場などで安心して使えたためしがありません。タクシーを使うのであれば介護タクシーでないと無理ですね。
    グローバルだかなんだかわかりませんが、所詮健常者の独りよがりでしょう。
    本気で考えるなら、開発担当者は車椅子利用者と介護する家族のみで構成するとか、実際のタクシードライバーの皆さんをオブザーバーに加えるとかもっとできることはたくさんあったはずです。
    車両が型式認定取った後での変更は新車作るよりはるかに大変なはず。
    タクシー用車両であれば、ボタンひとつで車椅子受け入れで切るくらいにしないと。
    東京オリンピック延期になったおかげで恥かかないで澄んだようだけど、抜本的に車両の作りから
    変えていかないと恥かくだけではないでしょうか?
    こんなことならコンフォートの方がよかった。なんて言われたら最悪ですよね。
  • 乗務員と、利用する身障者の事を全く想定していない。
    身障者から言わせればかえって乗りづらい。
    なぜ?クラウンより座面が高いため、下半身不随の方は車椅子から後席に乗るのが困難。
    車椅子ごと後席にに乗せるのに15分以上掛かる。
    運転手から言えば、その間の料金は頂けない。乗る側から言えばこんなに手間を取らしてよいのだろうか?
    と察してしまう。難しい問題だが、身障者は専用のタクシーを利用して頂きたいし、それに対して、国が補助金を出して欲しい。そして身障者はそれに対して、健常者との差別と言わないで頂きたい。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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