3ドアの「ディフェンダー90」に追加された6気筒ディーゼルモデルの完成度はいかに? 世良耕太がリポートする。
6気筒ディーゼルの特徴
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ジャガー・ランドローバー・ジャパンはディフェンダーのラインアップ拡充を段階的に進めている。2020年の日本導入当初はロングホイールベース仕様で5ドアの110(ワンテン)に2.0L直列4気筒ターボのガソリンエンジンを組み合わせたモデルのみの設定だった。2021年3月にはショートホイールベース仕様で3ドアの90(ナインティ)を追加。エンジンは110と同じで最高出力221kW、最大トルク400Nmを発生するガソリンエンジンのみの設定だった。
2021年5月には110にディーゼルエンジン仕様がくわわった。2022年6月7日に受注を開始した2023年モデルには90、110に、3列シート8人乗りの130(ワンサーティ)が加わっている。エンジンは110に設定されたのと同じ、3.0L直列6気筒ディーゼルエンジンのみの設定だ。
今もディフェンダーのラインアップ拡充は止まらない。2023年4月27日に受注を開始した2024年モデルでは、90にディーゼルエンジンが追加された。さらに、90と110に5.0L・V8スーパーチャージドガソリンエンジンを搭載したモデルが、“2024年モデル限定”として追加された。また、130に5人乗りグレードが追加されている。
今回取り上げるのは、90のディーゼルエンジン仕様だ。ジャガー・ランドローバーは「Ingenium(インジニウム)」と呼ぶモジュラー設計のエンジンをガソリンとディーゼルで展開している。ジャガー・ランドローバー初となる、完全自社設計のエンジンだ。
500ccの単気筒エンジンで基本諸元を固め、気筒数を増やすことで効率的にバリエーションを増やす考えだ。すべて直列エンジンで、ガソリンは1.5L・3気筒、2.0L・4気筒、3.0L・6気筒をラインアップ。ディーゼルは2.0L・4気筒、3.0L・6気筒を用意する。3.0L・6気筒のディーゼルは2020年夏に追加された最新のバリエーションだ。
「D300」と通称される3.0L・6気筒ディーゼルエンジンは、最新のエンジンだけあって最新の技術がふんだんに投入されている。直噴インジェクターの最大噴射圧は2.0L・4気筒の「D200」が180MPaなのに対し、D300は250MPaだ。噴射圧が高い方が燃焼を緻密に制御でき、環境性能と出力/トルク性能の両面で効果がある。D300は1サイクルあたり最大5回の噴射を行い、0.000012秒間に0.8ミリグラムの燃料を正確に噴射することが可能、と、ランドローバーは説明している。
過給機はD200が可変ジオメトリーターボ(VGT)を1基備えるのに対し、D300はVGTを2基搭載する。1基が3気筒ずつ受け持つコンベンショナルなツインターボではなく、直列に配置した2基のVGTで6気筒を受け持つシーケンシャルツインターボだ。エンジン回転数の低い領域では少ない排気流量で作動する1基目を使い、排気流量が多くなる高回転域では2基目も同時に作動させる。排気流量が少ない低回転時の応答性と、高回転での出力を両立させる技術だ。
VGTはタービンハウジングに可変ベーンを用いた構造で、排気が少ないときは楔形のベーンを寝かせてノズルを絞り、少ない排気流量でもタービンホイールが高速回転するよう制御する仕組み。流量の増加に合わせてベーンを立て、タービンを効率良く使う。D300の最高出力は221kW(300ps)/4000rpm、最大トルクは650Nm/1500~2500rpmだ。
さらにディフェンダー90のディーゼル仕様には48Vマイルドハイブリッドシステムも組み合わせられている。最高出力13kW、最大トルク42Nmのベルトスタータージェネレーター(BSG)が減速時の運動エネルギーを回生しつつ、加速時は蓄えた電気エネルギーを用いてエンジンをアシストする。エンジンに組み合わせるトランスミッションは、ドイツに本拠を置くZF製の8速ATだ。
期待どおりに力が湧いてクルマが加速する見下ろし感覚たっぷりのドライバーズシートに腰を下ろしてエンジンスタートボタンを押すと、D300は瞬時に目覚めて機嫌の良さそうなハミングを奏でる。エンジンに詳しい人なら「これはディーゼル」と、瞬時に言い当てられるだろうが、詳しいからこそ、その静けさと音質のやわらかさに驚くだろう。
静かなだけでなく、ディーゼルに特有のとげとげしさがない。ガラガラではなく、乾いたカラカラである。半分、サラサラが混じったような、軽快な音質だ。その印象は走り出しても変わらない。
D300は2340kgの車体を軽々と動かす。アクセルペダルの踏み込み量とそれにともなうエンジン音の上昇(繰り返すが、ディーゼルエンジンにしては軽やかな音質だ)がリンクするので、エンジンが仕事をしてクルマを動かしていることが実感できる。しかし、エンジンとは思えないほどに応答が良く(モーターの応答性に近い)、力の出方もリニアで、しかも力強い。期待どおりに力が湧いてクルマが加速するので、気持ちいいことこの上ない。
低速域ではBSGが機能して加速をアシストし、エンジンの回転上昇にともなって1基目のVGTが機能しだし、さらに回転が上昇すると2基目のVGTも作動して大きな力を発生させる。BSGと2基のVGTの連携が見事で、ドライバーの操作に対して逡巡したり、切れ目があったり、頭打ち感があったりはしない。どんな状況でも、期待に応えてクルマを頼もしく加速させてくれる。見事というほかない。
110のディーゼル仕様に乗ったときの経験と照らし合わせてみると、90はコンパクトなぶん、俊敏に動く印象だ。2585mmのホイールベースは110より435mmも短く、最小回転半径は110の6.1mに対し、5.3mでしかない。キビキビ動く取りまわしのいい車体に応答性が良く、力強いディーゼルエンジンの組み合わせ。「これはもう、鬼に金棒でしかない」という感想を脳裏に浮かべながら、富士山を望む山坂道を駆けまわった。
文・世良耕太 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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