今夏にも日本発売予定のマツダ新型CX-60。すでに始まっている予約受注も好調、そしてなによりクルマ好きからな熱烈な支持を集めつつあるのだ。
最大の理由は縦置きエンジンを搭載し、後輪駆動モデルであるから。これまでCX-5やCX-8は横置きエンジンを採用し、前輪駆動ベースに設計をされていたのだ。
CX-60の縦置き直6で喜ぶのはなぜ? そんなに縦置きって重要なことなのか
後輪駆動といえば高級サルーンやスポーツカーで採用されており、端的に言えば走りにうるさいひとが好む傾向にあるのだった。だからこそ支持されているのだが、それってなんでそんなに注目に値するのか?
文/小沢コージ、写真/ベストカーWEB編集部
■気にしないひとも!? でも後輪駆動は一定数のファンが存在
縦置きエンジンの後輪駆動レイアウトを採用したマツダ CX-60
マツダが新型CX-60で採用した「縦置きエンジンの後輪駆動レイアウト」のクルマ。いわゆるFR車のことだが、それがどれだけエライのか? そんなに走りがいいのか?
小沢が自動車業界に入ってから繰り返されているド定番論争だ。結論から言うと「分かる人は分かる」話であり、人によっては「気休め程度」と捉える人もいる。
小沢的には赤ワインのブドウ品種「カベルネソーヴィニオンとガメイはどちらがいいか?」あるいは「天然だしと化学調味料、どちらが旨いか?」ぐらいの認識。
深い話であると同時に曖昧で、気にしない人はほとんど気にしないディテールだ。とはいえ作り手としてはここを無視できないだろう。現実にこの違いに数100万円を払うお客がいるのだからして。
■FFとFRのメリデメとは!? 高級車がFRをやめないワケはサスにあり!
FFかFRか……特に気に留めない人がほとんどだろうが、CX-60がFRで登場するということで注目を集めたのも事実だ
対極に一般大衆車に多いFF車があるが主なメリットは3つ。FR車は駆動輪と操舵輪を前後に完全分離しているので役割分担が明確になる。具体的には前輪を操舵に専念させられるのでステアリングフィールがクリアでシャープになる。
ただし違いが露骨に出るのは主にサーキットなどの限界走行時。FF車だとアクセル全開でコーナーに突っ込むと少なくとも曲がりにくくなり、最悪真っ直ぐ前に突っ込む。タイヤグリップを加速に使い切り、横方向に使えなくなるからだ。
かたやFR車の場合、前輪は常にグリップが余っているので、多少のオーバースピードでもフロントはなんとか曲がれる。このギリギリのコントロール性を積極的に楽しむ走り方の1つがドリフト走行だ。
ただし、この現象は低速走行の街中ではほとんど起こらないし、FF車でもフロントタイヤを太くしてグリップを補う手もある。
2つめにFR車の方が路面に敏感気味なサスペンションのアライメント(幾何学的配置)を採用し易い。具体的には前輪を路面の凹凸やクルマの加減速に敏感になるようセッティングすることができる。結果、路面の状況がステアリングフィールとして伝わり易くなり、運転が楽しくなるわけだ。
かたやFF車の前輪を過敏にセッティングすると不安定が増長されたりする。加速時にハンドルが切りづらくなったり、逆に勝手に切れ込んだり、最悪アクセル操作によりステアリングが取られたりするのだ。FF車は基本曲がりにくい安定方向の味付けにせざるを得ない。
3つ目はクルマの前後重量バランスで、FF車はフロントにエンジンもギアボックスもシャフト類も集中するので必然的に前が重くなる。かたやFRは前にエンジン、リアにギアボックス、真ん中に長くて重いプロペラシャフトを配置出来るので前後均等にし易い。
BMWなどはほぼ50対50の前後重量配分がウリ
事実BMWやそれこそCX-60は前後重量配分ほぼ50対50が自慢。結果、コーナリング時の回転運動が楽になり、素直に曲がれる。
同時に前後均等が侮れないのはサスペンションを柔らかくできることで、前が重いとフロントサスペンションのみ硬くすることになり、前後バランスが崩れて乗り心地がギクシャクしがちだし、全体を柔らかくすることができない。
特に高級車はこの影響が大きく、王道高級車のロールスロイスやメルセデス・ベンツSクラスがFRレイアウトから離れられないのはこの理由からとも言われている。
■解決しつつあるFFの弱点も前後重要バランスはFRが圧倒的有利
2022年7月15日に登場予定の次期型トヨタ クラウン。FRを堅持するのかも注目ポイントのひとつとなっている(画像は編集部が作成した予想CG)
だが、ぶっちゃけた話、3つの欠点は相当解決されつつある。確かにFR車のが厳密にステアリングは軽めで、フィールが繊細なものは多い。しかしステアリングフィールはボディ剛性やステアリング回りの剛性の影響も大きく、FF車でもクリアでシャープなクルマはある。
なにより微妙なステアリング反力に至っては気付かない人も多く、まさしく天然素材の無化調出汁と化学調味料の出汁の違いで気にしない人はまったく気にしない。今ラーメンなどで無化調をうたうものは多いが、秘かに化学調味料が含まれているケースは多々ある。
一番解決が難しいのはおそらく前後重量バランスだが、BMWのFF系を見ても確かに柔らかくて快適な乗り心地を得るのは難しいが、硬めで快適なものにすれば問題はない。個人的には真の高級乗用車以外は必要ない気もする。
さらに言うとご存知いま流行りの電動化の影響も大きく、将来エンジンがなくなり、すべてがバッテリーEV化すると課題はなくなる。
モーターはエンジンほど長くも重くもないし、問題はデカくて重いバッテリーだけなので基本床下収納にするしかなくFF車、FR車の違いは消え去る。走行安定が欲しければフロント駆動、楽しさが欲しければリア駆動にすればいいだけだ。
■FR=いいクルマはデザインが重要!? FRの価値はCX-60で決まる可能性も
トヨタ bZ4X。すべてがバッテリーEV化すればFF車、FR車の違いは消え去る
ただマツダCX-60がまさにその答えだが、現状バッテリーEV化があと数年で完了するとは考えられない。先進国中心に少なくともあと10年、あるいは15年、発展途上国も含めると20年はエンジン搭載車が作り続けられるだろう。
その間このFR/FR論争はまだ続くと思うのだが、実は最大の違いは走り味やスペース配分以上にデザインだという話がある。
フロントノーズが長く、オーバーハングが短く、キャビンが後ろに配置されたある種動物的なFR固有のフォルムが、一部の古典的自動車価値、美意識に結びつき、FR車=いいクルマであり、高級車であり、カッコいいという固定観念から逃れられなくなっているという説だ。
秘かに小沢はこの執着が一番ガンコで根強いのではないかと思っている。実際問題ロールスロイス、ベントレー、メルセデス・ベンツ、BMWなどの世界的な高級車のフラッグシップはみな特有のFRフォルムで固められている。
かたやスーパーカーは平たい三角屋根のミッドシップフォルム=一流の本物という認識が人類全体になんとなく残っている。それは先進国から途上国、年配から小さい子供までそうだ。
それは足長くて頭小さく、胸とオシリが大きめの女性が美しいと感じるようなレベルで人類に浸透し、広く認識されていたならばどうだろう。結局FR的なもの、FRの走り味以上にこのカタチや類型がカッコいい!と認識されていたならば?
だとするとEV化されてもこのFR的フォルムであり、FR的価値観は残るのかもしれない。
マツダがそこまで考えているか知らないが、もし今後CX-60が大方のEV推進派の声にめげず大成功したならば、それはエンジン車の魅力以上に、FR的価値観のパワーを正しく受け止め、延命させたマツダ経営陣の英断となるのかもしれない。
はたしてFR価値観でありCX-60人気がどこまで続くのか。心して見続けていきたいと思う。
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