2021年WEC世界耐久選手権第4戦/第89回ル・マン24時間レースは、トヨタGAZOO Racignの7号車GR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス)の優勝により、幕を閉じた。3人のドライバーにとっては悲願の初優勝、そして今季から新規定に合わせて新型車両を投入したトヨタにとっては、初勝利から4年連続の総合優勝となった。
そのTGR WECチームを率いる村田久武代表が、決勝前日となる8月20日にル・マンからのリモート形式の会見に臨み、WECに関する日本の記者団の質問に答えた。ここでは、主にWECのレース活動の“将来”に関する質疑の模様を紹介する。
トヨタ、セバスチャン・オジエの『GR010ハイブリッド』ドライブを検討中。バーレーンのWECルーキーテストで
■平川亮には「また近い将来、乗っていただこうと思っている」
まずは、6月にポルトガル・ポルティマオでのテストに参加した平川亮について。
WEC第2戦後に行われたル・マン向けの耐久テストに参加した平川は、GR010ハイブリッドに独特なブレーキのフィーリングに最後まで悩まされたことを語っているが、村田代表も、特有のハイブリッドシステムを持つ車両へのドライビングの適合が難しいことを認めている。
平川の評価について語る際に村田氏が引き合いに出したのは、2018/19シーズンにチームに加わったフェルナンド・アロンソだった。
「平川さんは当然、日本のトップカテゴリーで充分な実績を出されていて、ドライビングスキルという面では何の疑問も抱いていません」
「ただ、いまの我々のハイブリッドシステムは、日本(のレース)では慣れていないものですし、今年はまた(昨年までのTS050からも)システムが変わっていますので、クルマに慣れるという意味では、やはり少し時間がかかると思います」
「昔、フェルナンド・アロンソさんが来られて、1月にクルマに乗られたときは、6人のなかでも遅かったんです。アロンソさんでさえ、みんなのアベレージをキャッチアップするには3~4カ月かかって、開幕にギリギリ間に合ったくらいです」
「だから平川さんにも、これからきちっと乗って、早く自分たちのクルマに慣れていただいて、開発に参画していっていただければいいかなと思っています」
「ですので、近い将来、また乗っていただこうと思っています」
村田氏によれば、現在は新型コロナウイルスの影響によりテストに使えるサーキットや、メカニックの人数確保などの面で課題が生じているといい、詳細は調整中だという。
今年11月、バーレーンでの最終戦後に開催されるルーキーテストは、スーパーGT第7戦と日程が重複していることから平川の参加は困難と思われ、チームは別のテスト機会を探っているということだろう。
また、TGRヨーロッパのテクニカル・ディレクターであるパスカル・バセロンが、そのルーキーテストでのドライブを「検討している」と認めたWRC王者、セバスチャン・オジエについて質問が向けられると、村田代表は以下のように述べた。
「やっぱりフランス人の方というのは、ル・マンに対する思いがすごく強い」
「彼もラリーの世界ではレジェンドですが、ル・マンで走っているクルマには乗ってみたという希望があると聞いているので、乗っていただけるように準備はしようと思っています」
■プジョー9X8は「自分たちの常識を超えてくるデザイン」
続いては2022年からハイパーカーカテゴリーのライバルとなるプジョーについて。彼らは7月にその参戦車両『9X8』を発表しているが、記者からは『ウイングレス』という斬新なコンセプトを持つこの車両について、村田氏およびTGRチームの第一印象や、将来的にトヨタがウイングの小さい、あるいはそれを持たない車両を検討するか、という質問が飛んだ。
かつてグループCカー時代にもプジョーと対戦経験のある村田氏は、「やっぱりフランスのデザイン力はすごいな、と。自分たちの常識を超えてくるデザインだな、というのが第一印象です」と語り始めた。
「技術的に言うと、ダウンフォースを出すときに、床下のデュフューザーで出すほうが効率はいい。リヤウイングで出そうとすると効率は悪くなるので。空力エンジニア冥利でいうと、ああいう形がおそらく理想的なんだろうなと思います」
「じゃあ、あれがクルマとして成立するのかということに関していうと、(LMH規則の)ターゲット・エアロウインドウが、昔のF1やTS050でやっていたような超高効率な空力ではなくなっているので、効率を落とした分デザインに振れるのかな……と頭では思うんですけど、あれがクルマとして充分足りているのかというのは、ウインドトンネルにに入れたデータを持っているわけではないので、いまは何とも言えません」
「ただ、デザイン的には度肝を抜かれたのと、他車と接触したときにすごいいっぱいデブリが出そうだな、という印象はありました(笑)」
今季デビューしたトヨタのLMH、GR010ハイブリッドの今後に関しては、これから社内で検討していくという。気がかりなのは、来年、そして再来年以降に多くの新型LMH/LMDh車両が参戦してくること。“後出し”の方が有利になる側面も、一般的にはあるからだ。
「(LMHは)ホモロゲーションを取ると基本はその後は5年(は凍結)、ただし途中で1回モデルチェンジをする権利がある、みたいなレギュレーションになっています」
「ですので、昔やっていたみたいに、毎年アップデートはできません。来年プジョーさんが来られて、再来年はポルシェさんやアウディさんなども来られて、おそらくすごい戦いになっていくと思うんですけれども、そこへ向けて自分たちのクルマをどうアップデートしていくかというのは、今後内部・社内で戦略を練っていこうかなと思います」
「ただいずれにせよ、昔のプジョーが出てきたときも今回もそうですけど、フランスの方のデザイン力っていうのは、アジア人の僕にとっては度肝抜かれるようなものがあるなと思いました」
また将来に向けた技術的側面では、この取材日にシリーズより発表された、トタル・エナジーズにより供給される2022年からの100%再生可能な新燃料について、エンジン開発出身の村田氏は「まずはテスト・フューエルをいただいて、ベンチで台上適合をしていくことになります」と述べている。
「過去にもトタルさんとは燃料開発をする中でずっとコラボレーションしてきていて、お互い良く知っている仲ですので、そこはうまいこと開発していけると思っています」
新たなライバル、テストに挑む新ドライバー、新燃料への挑戦など、新車デビューのシーズンを越えてなお、WECにおけるトヨタの近未来の活動は注目点の多いものとなりそうだ。
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