フェラーリのニューモデル「ローマ」のコンセプトは“ヌオーヴァ・ドルチェ・ヴィータ(新・甘い生活)”だという。
映画好きの人ならご存知のとおり、『ドルチェ・ヴィータ(甘い生活)』は1960年代のローマを舞台に、上流階級の人々の退廃的な暮らしぶりを描いたフェデリコ・フェリーニ監督の名作。
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最初は、そんな映画とフェラーリの華麗なクーペの姿はうまく結びつかなかったけれど、チーフ・マーケティング&コマーシャル・オフィサーであるエンリコ・ガリレラ氏のプレゼンテーションを聞いていると、なんとなくイメージが浮かびあがってきた。
ボディは全長×全幅×全高:4656×1974×1301mm。「ローマは特別な場所です。イタリアのライフスタイルを代表する街で、なによりも夢があります」 ガリレラ氏はそう語り始めた。
「時計の針を1960年代に戻してみましょう。ドルチェ・ヴィータは時代を代表する映画です。そこには人生を心から楽しむ人々の姿が描かれていました。そんな時代を現代に蘇らせたら、どうでしょう? たとえばコーヒーやワインをゆったりと楽しむ時間を持つ。そんな風に人生と向き合うライフスタイルとクルマを結びつけてみる。フェラーリが作るからには“ファン・トゥ・ドライブ”は忘れるわけにいきませんが、ここで私たちが提案したいのは“控えめなラグジュアリー”です。デザインも控えめで、特別な日だけでなく毎日乗れるフェラーリ。思い起こしてみれば、1960年代にはそんなエレガントなフェラーリが数多くありました」
この言葉から想像できるのは、ローマは、額に汗してサーキットを走るためのクーペではない、ということ。いや、その気になればかなりのペースでコーナーを駆け抜けるパフォーマンスを有しているはずだが、ローマはそうしたスポーツ性を主題としたフェラーリではない。サーキットも走れるパフォーマンスは、いわば紳士のたしなみのようなもの。それよりも大切なことは、優雅に暮らす人々の毎日にすっと溶け込む美しさとさりげなさをローマが有している点にある。
タイヤサイズはフロント245/35 ZR20、リア285/35 ZR20。そうしたコンセプトを念頭に置いてローマのスタイリングをあらためて見ると、違った感慨がわき上がってくる。
全般的にはとてもシンプルだけど、それはクルマのプロポーションがもともと持っている美しさを際立たせるための手法であるように思えてくる。それだけに、ひと目見たときのインパクトは弱いかもしれないが、時間の経過とともにじわじわとその魅力が伝わってくる。“タイムレスな美しさ”といっていいだろう。
複数の液晶ディスプレイを使ったインテリアは、ローマのオリジナル デザイン。では、フェラーリの新作“ローマ”と映画“ドルチェ・ヴィータ”にはどんな結びつきがあるのか? 映画に登場する人々の、ときに常軌を逸した行動は、退屈な暮らしに飽きた金持ちの乱痴気騒ぎとばかりは言い切れないような気がする。
それは“純粋な美しさ”を追求するための、彼らなりの“もがき”もしくは“試み”だったと捉えることはできないだろうか? だとすれば、クーペの純粋な美しさを描き出したローマはドルチェ・ヴィータの現代版と呼ぶのに相応しいとの見方も成り立つ。
レザーシートは電動調整式。ポルトフィーノのクーペではない!もっとも、ローマが美しさだけのクルマでないことはガリレラ氏が言明したとおり。そしてその背景にはフェラーリらしい最新テクノロジーの数々が存在する。発表会場で、テクニカル・オフィサーのミハエル・ライタス氏にローマの技術的特徴を訊ねてみた。
「ローマのことをポルトフィーノのクーペ版と思われている方がいるようですが、それは違います。まず、ボディの70%はローマのために新たに開発したもので、結果的に車重は75kgも軽くなっています。またボディ剛性はポルトフィーノを10%ほど上まわっています」
搭載するエンジンは3855ccV型8気筒ガソリン・ターボ。最高出力620ps/5750~7500rpm、最大トルク760Nm/3000~5750rpmを発揮する。ローマの美しさを際立たせるためのテクノロジーも採用されている。リアウィンドーと一体でデザインされたリアスポイラーは、車速などに応じて3段階に立ち上がり、普段はその美しいファストバック・スタイルを崩さないように工夫されている。
「車速が100km/hを越えると35°まで立ち上がり、70km/hを下まわると元の位置に格納されます。また、レース・モードなどを選んだ状態でシステムがより大きなダウンフォースが必要と判断すると、リアスポイラーは50°まで立ち上がります」
最高速度は320km/h。エンジンの最高出力はポルトフィーノを20ps上まわる620psと発表されているが、大切なのはその手法で、吸排気効率の改善やバルブリフト量の増大といった自然吸気エンジンを思わせる改良を実施。ターボラグを最小限に留めたままパワーアップを実現したのである。
もうひとつの見どころが新開発のギアボックスだ。プレスリリースには「新型の8速デュアルクラッチ・ギアボックス」としか説明されていないが、実はこれ、現行フェラーリでもっともパフォーマンスの高い「SF90ストラダーレ」で登場したギアボックスで、F1用と酷似した極めて凝った内部構造を採用する。ギアボックス単体で6kgの軽量化を実現するとともに車両レイアウトの低重心化にも貢献しているという。そのことを確認したあとでライタス氏に「さぞかし高価なギアボックスでしょうね?」と訊ねると、「ええ、本当に高価なギアボックスですよ」との答が返ってきた。
ローマの価格は未発表ながら、ポルトフィーノをいくぶん上まわる模様なので2600~2700万円ほどだろうか。デリバリーは2020年夏までに始まる見通しだ。
文・大谷達也
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