◆すっきりシャープなスリム型。そして、イケメンな「SX」
前回記した『Vストローム250』の試乗記では、その有り様を「よそはよそ。うちはうち」という昭和のおかん的スタンスで作られている、と評した。そんなVストローム250は2017年に誕生し、以来、言われても気づく人は少ない「髪、切った?」くらいの微妙な仕様変更で今に至っている。
Vストローム家の末っ子として、のびのびと育っていたわけだが、2023年夏、おかんが突然連れてきた弟が『Vストローム250SX』である。Vストローム家は少々複雑で、中国生まれの兄に対し、やや歳の離れたこの弟はインドで生まれている。体つきは全然異なり、兄が包容力のあるどっしり型なら、弟はすっきりシャープなスリム型。そして、イケメンである。
【スズキ Vストローム250 試乗】機能美と絶対的な信頼感は、まさに「軽トラ」だ…伊丹孝裕
◆単気筒であることを忘れるくらいスムーズなエンジン
シート幅もスリムとはいえ、平均的な日本人成人男性なら両足のかかとを接地させるのは困難だが、アップライトな乗車姿勢のおかげで取り扱いは簡単だ。車重は164kgを公称し、特別軽量な部類ではないが、Vストローム250比では27kgも軽く、その差の多くをコンパクトなエンジンが担っている。
Vストローム250SXには、油冷の4サイクル単気筒が搭載され、動弁系はSOHC 4バルブ。249ccの排気量から26ps/9000rpmの最高出力と、2.2kgf・m/7300rpmの最大トルクを発揮しながら、はつらつと回る。
とはいえ、回すことを強要してくるキャラクターでもなく、中回転域で普通に走らせている時が心地いい。5000~6000rpm前後を行ったり来たりさせるとバイブレーションがグッとまろやかになり、単気筒であることを忘れるくらいスムーズだ。たとえば、6速80km/h巡航時の回転数は5000rpmほどだが、Vストローム250だと6000rpmまで回っている。2気筒よりも単気筒のVストロームSXの方が、常用回転域が低く、ともすれば穏やかに感じられるほど、存在を主張してこない。
◆スムーズさと、ほどよいトラクションがバランスする
スリムで背が高く、スタイリッシュでおとなしいこの弟君は、どこまでもそのままかと言えば、そんなこともない。豹変とまでは言わないまでも、8000~9000rpm超のあたりでは軽く吠えはじめ、パンチに富むキック力でぐんぐん加速していく。目線は高く、姿勢変化が大きいことも手伝って、その時の体感速度はなかなかダイナミックだ。ワインディングでは、スポーツバイクとしての醍醐味を存分に味わうことができるに違いない。
なかなか上手い味つけだな、と思う。街中では低回転域でも十分な力強さで交通の流れをリードし、ワインディングでは爽快に回り切る高回転域を楽しみ、中回転域でそれぞれの橋渡しをする。そんな使い分けができ、それぞれに旨味があるわけだが、なるほどなぁと、もうひとつ感心したことがある。それがダートに踏み入れた時の中回転域の扱いやすさだ。既述のスムーズさと、ほどよいトラクションがバランスするため、凸凹の多い区間やぬかるんだ路面でも唐突な挙動が抑えられ、ライン取りに集中できるところがいい。
◆スズキらしさに富んだ一台だ
車体の剛性感とサスペンションのストローク感もちょうどよく、オンロードでもオフロードでも、さしたる不満はない。フロント19インチのホイール径は、そのままの印象で、つまり17インチよりオフロードでの安定性に優れ、本格的なオフロードモデルの21インチよりアスファルト上でナチュラルに走れる。
標準装着されるMAXXIS製のタイヤ「MAXXPLORE」は、オンロードではブロック感を明確に伝えてくる。だからといって、オフロードでのポテンシャルが圧倒的に高いというわけでもないので、タイヤ交換の際は、それまでの使い方を踏まえて一考してもいいポイントだ。
表情豊かなエンジンのポテンシャルを堪能しつつ、オンロードもオフロードも楽しむ。それだけの幅の広さを、56万9800円でカバーしてくれているのだから、スズキらしさに富む一台である。スズキの企業理念に照らし合わせた時、Vストローム250のことを「大・多・重・長」と書いた。一方、はっきりと「小・少・軽・短」であり、さらには「美」も備えているのが、このVストローム250SXである。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。
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