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マジでセル付きYZ250X。鈴木健二のエルズベルグマシンを徹底解剖

掲載 更新 5
マジでセル付きYZ250X。鈴木健二のエルズベルグマシンを徹底解剖

残念ながら、鈴木健二のエルズベルグロデオ参戦は2021年は見送り。コロナ禍の影響下ながらも、秘密裏に進められてきた鈴木のエルズベルグ専用マシンを速報でキャッチした。その中身は、まるでヤマハのファクトリーマシン…! しかも、みんな欲しかったセルついてマス。

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中身をヤマハが作り替えたセルキット
何よりもまず注目したい、セルフスターター。こちらは、ヤマハ謹製ではなくカナダのサードパーティ品をヤマハ品質で中身を作り替え、鈴木が納得できるところまで信頼度を上げたもの。発電システムは積んでおらず、YZ250Fから流用したリチウムバッテリーで駆動する。キックは取り外さないため、これで十分だという考え方だ。点火系、ダイナモなどはYZのものを加工しており、セルが壊れたとしてもその後の走行に影響がないよう組まれているという。



映像でみるとわかるとおり、クランキングしてほんの僅かのタイムラグでエンジンが始動する。現在の欧州エンデュランサーも、2ストロークのセルはこの始動性の圧倒的な良さが魅力。

以前、Off1.jpでは南アフリカのレース(ただしくはレソト王国内)に参戦した森耕輔のYZ250Xにやはりセルがついていることを現地からスクープした。

こちら、チューニングフォーク社のセルキットはプロジェクトが進んでいない模様で、今回は違った手法でセルを装着してきたわけだ。

ニッポンのハードEDに対する知見が、ここに集まった
撮影した車両は、鈴木の練習車として製作されたもの。ヤマハ社内のYZチームが関わっており、エンデューロライダーで南アの「ルーフオブアフリカ」完走経験のある西森が作り上げたとのこと。本番車も用意されており、さらにはこの他に3基のエンジンストックが準備されているというから、このプロジェクトへのヤマハの本気加減がわかるだろう。おもしろいことに、このバイク、みればみるほど日本のハードエンデューロランカーが十数年かけて作り込んできた知見が集約されている。たとえば、バックステップや、擬似ロングスイングアーム、フロントローにセットアップされた車体姿勢だ。

細かい説明は後述するが、なんとミッションの中にはワンオフで製作されたという1-2速が仕込まれている。設計しなおしたわけではなく、すでに廃盤になってしまった過去のWR-Fの1-2速と同寸法のものを作ったのだという。これは、YZ250Xのスタンダードよりも断然ギヤ比が低く、フロント12Tの超ショートギヤ比もあいまって、2速が通常の1速くらいのギヤ比におさまっている。1速はスーパーローだ。“いごり”(超低速で、難所を押しながらクリアする方法)専用ギヤを、仕込んだというワケ。

「ワイドレンジの2速。2スト300に負けない多様性がある」内嶋亮
テストライドしてもらったのは、内嶋亮。日野カントリーオフロードの「やぶさか」を思い通りにアタックしてみてもらった。



まずは2速でやぶさかの左側をアタック。2本の丸太が途中に置かれているとてつもなくしんどいセクションだが、上った瞬間に「これは、すごい」の一言。「まず、低速のマイルドさと、力強さが素晴らしいです。これまでのYZのような、低速で出過ぎてしまう難しさは全然感じなくて、クラッチを当てた瞬間しっかり路面を噛んで走ってくれます。それでいて、路面に負けてしまうようなフィーリングがなく、そこからしっかり加速してくれるのです。クラッチをつい使ってしまうようなやぶさかですが、2速で走る以上はスロットルだけで上りきることができる。これは、大きな武器になりますね」と絶賛する。

「それに、上までまわせばちゃんとパワーが出てるんですよ。2スト300だと、上を使いづらいのですが、このバイクならちゃんと高回転で走れる。250の良さがちゃんと生きていて、上も下も好感触。とてもワイドレンジです。2速で、かなり多くのシチュエーションを走れますね」と内嶋。



続けて、3速で右側のクリーンだが角度がきついラインをトライ。こちらも「3速もしっかり使えます。この角度のヒルクライムで、2速に落とさずにクラッチを少しあてるだけで登り切れるのは羨ましいです。トルクがしっかり出ていて、それでいてまろやか」とエンデュランサーのお手本のようなエンジン特性だと評価する。「2ストの場合、まわすか低回転か、どちらかにしか振ることができないのが普通なんですが、これはだいぶ払拭しています。2速でまわしきって走るもよし、3速で低回転で走るもよし、どちらでも登りきれるんですよね。下があるから、300ccっぽい感触でもあります」と。

わざとキャンバーで1速をつかってみると「ものすごく低速で、まわってほしい分だけタイヤがまわってくれるからキャンバーもラクに通過できます。あと、これは1cm後ろに下げたというステップも効いてます」とのことだ。

この穏やかなエンジン特性のキモになっているのは、まずECUである。これまたヤマハであつらえたマッピングが入っており、低速がぼけるようなセッティングがされているという。

排気バルブのスプリングも交換されている。スタンダードより遅めにバルブが開くようになっていて、これも低速のボケに寄与。

面白いのはキャブレターだ。スロットルポジションセンサー付きのPWKは、低開度のあけくちでパワージェットの噴射弁をあける仕組みになっているのだが、これをキャンセルできるスイッチをつけてある。キャンセルすると、パワージェットが常時開放されるため、高開度でもパワージェットからの噴射があり、しっかり力が乗るようになるのだそう。長いヒルクライムなどでレブにあてるような乗り方をする場合、特にトルク感がでて有効だそうだ。

加えて、セルをつけたことによってフライホイールマスが増えており、これもどろどろした低速のフィーリングに一役買っている。鈴木は、モトクロッサーにフライホイールマスを増やすモディファイを今まで否定してきたのだが「クロスカントリーやエンデューロでは重ったるくなるのおすすめしてきませんでしたが、エルズベルグのような僕らでも超低速になるシチュエーションでは有効ですね。125ではこの重さはいらない。でも250だと、ほしい」と考え方を改めている。「ちなみにフラマグが重いと、高回転のまわりかたが気に食わなかったんですが、スロットルポジションセンサーの処理で解決しました」とも。鈴木ならではのレブ域でアタックする乗り方も、この2つのアイテムで使えるようになっているという寸法。

なお、リードバルブはボイセンに換装。パワー感が違うそうだ。

ロー&フレキシブルな車体
車体やサスペンションについては、内嶋は「細かいところでもよく曲がって車体のねじれ剛性が柔らかに感じます。それにモトクロッサーならではの軽さが武器になっているとおもいますね。エンデュランサーは、軽くなったとは言えやっぱり重量がありますから、それとくらべるとアドバンテージがあると感じました。

サスペンションは、だいぶ柔らかいですね。ただ、僕らレベルだと身体をしっかり使ってくだりなどでもちゃんと対応できるので、問題はないと思います」と評価する。

その「よく曲がる」原因は、まずコレだ。みえづらいが、シリンダーヘッドとフレームをつなぐエンジンハンガーは、2枚から1枚に変更。本来シリンダーヘッドのステーを挟み込むようにとめているものを、ただのつっかえ棒のような形にしたわけで、鈴木いわく「全然ちがう。特に車体のねじれに影響します。(ヤマハの)4ストはエンジン前のハンガーで剛性を調整しますが、2ストはシリンダーヘッド上が効くのです」とのこと。2ストYZで固さを感じている人は、試していてもいいかもしれない。

サスペンションは、2スト用のKYBエアサスペンションに。エアを1kgほどしかいれていないことから、1cmほど低くなっているという。インナーチューブは全周をガードできる、これまた日本のハードエンデューロランカーから産まれた知恵を拝借。

リアサスペンションは、YZ125X用を流用。スプリングをYZ125XとYZ250Xの中間のものとした。また、ストロークをショート化し、3cmローダウンしている。「僕らでも、カールズダイナーなどを想定すると、低ければ低いほどありがたいです」と鈴木。これまでのマシン作りとは、だいぶ異なる方向性を打ち出した。

インプレと、セットアップの方向性を効くに、むしろYZ250Xをこの方向性で作り込むことで、より日本人好みの特性になるのではないかと感じた。この開発は、もちろん今後の市販車にもフィードバックされていくわけで、もしかすると未来のYZ250Xはよりフレンドリーなバイクに進化するのかもしれない。

トルク感を演出してくれるHGSのチャンバー。ショートサイレンサーで高回転域のヌケの良さを確保したとのこと。

クラッチには、YZ450Fのプレートを流用。ただし、後方排気以前のものでないと形があわないそう。素材がちがうため、つながりがマイルドになり、耐久性もあがるという。

ラジエターファンは、スイッチでオンオフ可能。ラジエターには、沸点の高いクーラントであるエバンスを入れている。これは、ヤマハでも社内テストをしているとのことで、YZであれば内部パーツを高温で傷めることなく使うことができるそうだ。

ハンドルはZETAの通称「ジャイアンバー」。ハードエンデューロライダー御用達のスーパーローハンドルである。普段は使わないが、ハードエンデューロでは有効だそう。

4つついたスイッチは、左からキルスイッチ、キャブのスロットルポジションセンサーキャンセルスイッチ、ラジエターファンスイッチ、セルスタータースイッチ。

前後ISA製のスプロケット。フロントは12T。チェーンは1コマ分長めで、できるだけホイルベースを長くとったセットアップだ。

樹脂でぶつけても変形しづらいZETA製チェーンガイドは必須装備。

セルフスターターの分、左クランクケースが出っ張っているので、シフトレバーは加工してある。

鈴木が手放せないと太鼓判をおすラプターフットペグ。ただし、普段つかわない1cmバックのタイプをセットする。

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みんなのコメント

5件
  • 2stセル付きエンデューロマシンが誰でも買える欧州メーカー。分離給油公道OKマシンもあり。
    日本はトップライダーのスペシャルマシンがセル搭載でニュース。

    まるで話になんないよね。
  • 日本の4大メーカーは、ハードエンデューロマシンには本腰が入っていない。採算面での問題かと思うが、KTM、SHERCO、Hasqvarna、BETA、GASGAS、TM、欧州メイカーに劣っていると思う。トップライダーもこれらのメイカー契約で勝ち目はない。
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