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強心臓の河野駿佑が演じた“冷静なる接近戦”。注目の師弟コンビがタイトル戦線に浮上【GT300決勝あと読み】

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強心臓の河野駿佑が演じた“冷静なる接近戦”。注目の師弟コンビがタイトル戦線に浮上【GT300決勝あと読み】

 SYNTIUM LMcorsa GR Supra GTを駆るスーパーGT参戦2年目の河野駿佑は第2戦富士を前に「今回はQ1、僕が行きます。スタートも僕がやります」と言ったという。

 もっともこれは相方の吉本大樹によるやや誇張された説明であり、実際のところは河野いわく「『今回はシュン(河野)がスタートいくんでしょ?』と言われて、『覚悟してます』としか言えなかったです(笑)」。

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 ただ、そんなやりとりを可能にさせる雰囲気が、LM corsaというチームにはあるという。東京出身の河野は「関西系のチームなので」と笑うが、大阪出身の吉本含め、醸し出す空気はいい意味で柔らかい。吉本と河野はスーパーGTでのコンビとしては2年目だが、河野がRSファインでデータエンジニアを務めていた時代から互いをよく知る間柄ということもあるのだろう。15歳という年齢差も、“師弟コンビ”として理想的なようにも思える。

 その予選Q1では河野自身も驚くようなタイムで“激戦区”となったQ1 A組をトップ通過(マシンの好調さの要因については後述)。Q2でも吉本のアタックで3番手となり、2列目という好位置からのスタートとなった。

 スタート前には、「1周目のヘアピン(アドバンコーナー)で55号車(ARTA NSX GT3)を抜いてきます」と河野は宣言した。ただ勢いから出た発言ではない。55号車は直線が速いが、タイヤのウォームアップ性能の面では自分たちにアドバンテージがあるはず。それを踏まえた河野なりの青写真だった。

 宣言どおり、河野は1周目のアドバンコーナーでARTA NSX GT3をパスして2番手に浮上する。目の前はポールポジションスタートのSUBARU BRZ R&D SPORT山内英輝。ここからじつに30周にもわたりコンマ差でBRZを追う神経戦となるのだが、河野は冷静さを保ち続けていた。

「使っているタイヤもほとんどおなじはずなので、(グリップの)落ち方は似てました。そのなかでも向こうはセクター3が速く、こっちはセクター2が良かった。なのでヘアピンとB(ダンロップ)コーナーで何度か仕掛けたんですが、山内選手も非常にうまいブロックで……。ただ、抜いたとしても引き離せないような気もしたし、自分たちのピット作業も信頼したので、抜けないけど焦らずに行こう、と」

 唯一、河野の心が乱れたのは1回目のフルコースイエロー(FCY)が導入されたときだ。

 ちょうど、アウトラップのGT500が前方に見えたタイミングだった。BRZがGT500をパスし、それに続いて河野もGT500を追い抜く。ここまでは問題なかったが、タイヤが温まったGT500が抜き返してきたタイミングで、ちょうどFCYボードが出され追い越し禁止となってしまったのだ。GT500と横並びとなった河野は、「どっちが前なんだ?」と躊躇。結果的にここで約5秒を失ってしまう。そのまま第1スティントは終了となった。

 ピット戦略の違いにより第2スティントでは順位を下げたSYNTIUM LMcorsa GR Supra GTだったが、今度は吉本が追い上げる。スティント終盤には河野が抜きあぐねたBRZをパスしたことで、同じダンロップを履くライバルに対して決定的な一打を放った。翌周、ライバルとともにピットに飛び込んだ。

 この同時ピットで、SYNTIUM LMcorsa GR Supra GTは順位を守った。迎えた第3スティント、河野はまたしてもBRZ山内とコンマ差のバトルを演じることとなった。今度は河野が押さえ込む番だ。第1スティントで失った5秒、それを取り返したい気持ちもあった。

 背後にピタリとつけられる展開ながら、河野はここでも至って冷静だった。それはトップを走行する埼玉トヨペットGB GR Supra GTが駆動系トラブルにより戦列を離れ、「残り6周、トップを守る」立場となっても変わらなかったという。

「52号車は見えてきていて、毎周タイム差も無線で聞いていたので『絶対に追いついてやる』と思ってました。ライバルがいなくなったことで勝てたけど、そこまでしっかり攻めて走ることができていたのは事実ですし、トップに立ったあともこの順位を守ってやろうという気持ちでした」

 強心臓ぶりを見せつけトップチェッカーを受けた河野は、「スタート、そして2スティントを走るという責任重大な役を任せてくださった吉本さんとチームに感謝しています。去年の自分だったら『吉本さんお願いします』と言ってたかもしれませんが、そこを『はい』と言えたのは良かった」と振り返る。

■「セクター1だけで3秒遅かった」テストからの巻き返し
 飯田章監督は「今年、チームがクルマとタイヤを思い切って変えてくれたので、結果が残って本当によかった」と安堵の表情を見せる。

 また、吉本と河野のコンビについては「若手と若手を組ませるのもいいと思うけど、こういう形でドライバーを育てるのもありだと思っている。シュンはテクニックはあるし、経験もそこそこ積んでいるけど、これからは“臨機応変”っていうのをもう少し学んでいくだろうね。自分に頼るところと、言い方は悪いけど人に頼るところ、それをうまく使い分ければ、もっともっといいドライバーになれると思う」と語った。

 GT300においては、ある種の名物とも言える“師弟コンビ”。結成2年目の吉本・河野組が結果を残したことで、侮れない実力を備えた注目コンビが誕生したと言えそうだ。

 飯田監督のコメントにもあるように、LM corsaとしては車両をRC FからGRスープラに変更し、タイヤをミシュランからダンロップに再変更して、2戦目での優勝。GRスープラ、ダンロップともに昨年のGT300では強さを見せているため、2戦目でのスピード優勝もうなずけるところではあるが、“生みの苦しみ”はあった。

 小藤純一エンジニアによれば、3月下旬の富士での公式テストまでは部品の不都合などもあり、富士で居残りのテストをしても「60%くらいの出来」だったという。公式テストでは、同じGRスープラ勢である埼玉トヨペットGB GR Supra GTに「セクター3だけで1秒、置いていかれていた」と語る。

 開幕戦岡山ではQ1トップタイムをマークするなど速さの片鱗は見せたが、まだまだGRスープラをものにできていなかった。そこで開幕戦後に改めて計測や計算をして、セットアップに「ビッグチェンジを施して」富士に乗り込んできた。

 吉本も「走り始めてみるまで全然分からなかった」と言うが、このビッグチェンジは成功しており、岡山までと比べるとマシンの感触は格段に良くなったという。セクター3での遅れも取り戻すことができていた。

 今回優勝したことで、SYNTIUM LMcorsa GR Supra GTは第3戦で69kgというサクセスウエイトを積むことになる。(第2戦時点での)BoP重量と合わせると1319kg。

「テストでは1330kgでも走っているんですが、1300kgを超えると極端にウエイトが効いてくる。だから、次からは結構厳しくなるんじゃないかと思っています」(小藤エンジニア)と、今後は高速コーナーを武器にしつつ、重量とうまく付き合う方法を見つける必要がありそうだ。

「今回は52号車がストップしたから勝てたけど、もっとチームを強くして、クルマも開発して、ガチンコで52号車やほかの強豪チームにもに勝てるようにしたい。ますます強くなっていきたい」と吉本は意気込む。「ますます強く」なれば、タイトル争いに名乗りを上げる存在ともなりそうだ。

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