クルマ趣味は我慢の今だからこそ、思い切り楽しめる時に備えておきたいもの。そこで、アフターコロナに改めて味わいたい、この1年で印象に残ったクルマ達を紹介。ひと時、ともに楽しい妄想の世界に浸っていただければと思う。
エモーショナルという言葉を使いたくなる
「コロナに負けるな」特別企画──勝手にジュネーブモーターショー2020【マクラーレン編】
取り敢えず、誰にも咎められることなく自由に旅することができるようになった今、改めて乗りたいと思ったクルマの中に、マツダ3がある。日本車の中で希少な、エモーショナルという言葉を使いたくなるクルマだ。光の反射が動きを生み出すデザインにも、人間の慣性に忠実な動きが得も言われぬ一体感に繋がっている走りにも、心を揺さぶる何かがある。
個人的な理想は5ドアボディのファストバックにSKYACTIV-Xの組み合わせ。今や機能性で選ぶならSUVという選択肢もあるだけに、マツダ3ファストバックは、まるでクーペのようなフォルムをまとい、パーソナルカーとしての色彩を強調していて、まずそこに惹かれる。そしてSKYACTIV-Xは、スペック的にはさほど驚くようなものではないが、とにかくアクセル操作に忠実な、意のままになる走りが心地良い。眺め、そして乗って、気分が活性化される。そんな存在なのだ。
オーディオにまでパーソナルカーらしさが浸透
いや、単にアゲてくれるだけではない。ひとしきり走りを楽しんだ後、ペースを落としてゆっくり走らせると、静粛性が非常に高く、一転とてもリラックスできるクルマであることに気付く。
聞けばマツダ3、高剛性化されたボディは二重壁構造の採用、接着接合の多用、モノコックの穴や隙間の徹底的なカバーなどによって一層、騒音や振動を断っているのだという。但し、目指したのは無音の空間ではない。運転に必要な情報はしっかり耳に届く一方で、気に障るような音のしてこない、心地よい音響空間というもので、実際そう聞いてから改めて乗ると、至極納得できる。
そんな空間だから、自分にしては珍しく車内で音楽を楽しみたくなる。そして実際、このサウンドが目を瞠るものなのだ。
とは言え、重低音が響くとか、オーケストラホールに居るようだというのとは、ちょっと違う。その走りと同じく、サウンドは一聴する限りは、ごく自然な印象。しかしよく聴けば、音の分解がとても良く、低音はしっかり輪郭が出ているし、中音域以上も定位がしっかりしていて、音場に奥行きが感じられる。オーディオの専門家ではないのでこのぐらいの言い回しになるが、スッキリとしていて嫌味が無く、立体的なサウンドが心地良く、いつの間にか聴き込んでしまう。
実はこれ、オーディオシステムだけ優れているからではない。マツダ3は低音域のスピーカーを余計な振動に繋がるドアではなくボディ側にマウント。中高音域のそれはドライバーの耳の位置に近づけ、余計な反響無くクリアに音が届くようにしている。そう、実はボディ設計の段階からオーディオのことまで考えられているのである。ここまで徹底的に音響空間を創り上げているクルマは、このクラスではそうは無い。
しかも、誰かと乗る時のためのALLモードに加えて、タイムアライメントによって音場を運転席に寄せるドライバーモードも用意されている。ひとりのリラックスしたドライブの時には、最高の環境でリスニングできるのだ。その差は歴然で、まさに至福である。
マツダ3のデビューの際、開発責任者の別府耕太氏は「静かな環境でリラックスして心のしがらみを解き、ピュアな自分を取り戻す。パーソナルカーですから車内をそういう空間にしたいと考えました」と話してくれた。最初に記したパーソナルカーらしさは、デザインや走りだけではなく、こうしてオーディオのような部分にまで浸透しているのだ。
単なる数値ではない“気持ち良さ”に価値がある
思えばSKYACTIV-Xには、ガソリンやディーゼルより値段はうんと高いのに、パワーも燃費もさほどでもないといった評価が少なくない。けれど、それもこのサウンドと同じこと。あらゆる要素が調和して、妙な引っ掛かりが無く、自分の意図に対して速過ぎも遅過ぎもせずジャストで応えてくれる。それが全身あらゆる要素に貫かれたこのクルマの気持ち良さであり、スペックの数値ではなくこの気持ち良さには、対価を支払うだけの価値は十分にあると思う。
刺激がウリのクルマは、一度乗れば大体わかるし、すぐ飽きる。すでに何度もテストしているのに、また改めて乗りたいと思わせたマツダ3は、色々な意味でじわじわとあとをひくクルマなのだ。
文・島下泰久 写真・マツダ 編集・iconic
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みんなのコメント
昨日も赤のマツダ3見かけて、見惚れました。