MT(マニュアル・トランスミッション、マニュアル車)と、AT(オートマチック・トランスミッション、オートマ車)。
日本では一部の例外を除いて圧倒的な少数派となってしまったMT車だが、欧州ではまだまだ主流を占める。逆に言えば、輸入車として入ってくるそのクルマたちにも、ATとMTを選べるクルマが多いということ。
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選べたら選べたで結局は悩んでしまうものだが、でも選択肢があるのはいいことだ! ということで、MT車とAT車、どちらも選べる輸入車8台をピックアップ。自動車ジャーナリストの斎藤聡氏、岡本幸一郎氏の2人に、それぞれの比較を行ってもらった。
※本稿は2018年8月のものです
文:斎藤 聡、岡本幸一郎/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2018年9月26日号
■ポルシェ911カレラ
(TEXT/斎藤 聡)
今やポルシェはおしゃれなスポーツクーペの気配が濃くなった。そんなポルシェに乗るなら迷わず7DCT(デュアルクラッチトランスミッション)でしょう。速く走るという意味でも7DCTは強い味方となる。なにしろ最高峰である911GT3でさえミッションはDCTを採用しているくらいなのだから速く走るならこっちだ。
ではなぜ7速MTが用意されているのか。7速MTに乗るとポルシェの印象はガラリと変わる。ほかと変わらず3速と4速間にニュートラル位置があり、思いのほか7速MTは使いやすい。それよりクラッチを踏み、回転を合わせてシフトダウンし、ひとつ下のギヤと噛み合わせ、再びクラッチをつないで駆動力を後輪に伝え、適切なアクセル量で過不足ない駆動力を路面に伝える。速さよりもそうしたクルマのメカニズムと向き合い、使いこなす面白さがある。ポルシェ911こそMTを選ぶべきだ。
■シボレーコルベット
(TEXT/斎藤 聡)
ふつうに考えたらATだよね、8速ATだし。なにしろコルベットでびっくりなのはその正確度の高い操縦性にある。誰がアメ車は大味だと言ったのか。
いやいや、実際かなり大味なクルマが多かったワケだが、近年のアメ車はびっくりするくらい操縦性がいい。なかでもコルベットは傑出している。操縦感覚はスーパースポーツカー。 V8、6.2L DOHCがひねり出す466ps/64.2kgmというド迫力のパワー&トルク。
実は大排気量、大トルクエンジンで厄介なのは、シフトアップ。3速へのシフトアップで簡単にホイールスピンするクルマを片手で抑え込む難しさときたら……と思っていたら、最近のエンジンマネージメントと電子制御の出来は秀逸。頑張れば扱えるくらいの難易度にはなっていると思う。
となれば、やはり男は(女も)黙ってMTだろう。
■BMW 320i
(TEXT/斎藤 聡)
BMWの8速ATの出来はとってもいい。シフトショックが少なく、滑らかな加速が味わえる。しかもロックアップ感がしっかり出ているので、アクセル操作に対して駆動力のダイレクトな反応が得られるのもいい点だ。
交通法規をきっちり守ると(当然ですね)、ATの8速が高速道路でもあまり役に立たないことは内緒だったりするのだが、クルマのよさを引き出すATになっているのはさすがと思わせる。
だからMTなんていらないと思われるかもしれないが、ギヤの位置をいつも意識し、あるいはシフトノブの位置で確認して適切なギヤを自ら考えて選び走らせる楽しさは、抜群の前後重量配分と素直な操縦性を持ったBMWの魅力をグッと深いものにしてくれる。トップグレードの340iに劣るパワーとトルクが(あまり)気にならないのもMTだからだろう。
■BMW M2クーペ
(TEXT/斎藤 聡)
最後のピュアスポーツクーペかもしれない。FRと前後重量配分にこだわり、精巧精緻な操縦性を作り出したうえで、扱い切れるぎりぎりのパワー(トルク)を備えたエンジンを搭載。エンジニアの情熱と執念すら感じさせる究極の走りのスポーツクーペだ。
6速MTにするか7速DCTにするかは悩ましいところ。ツインクラッチ式のセミマニュアルランスミッションは、シフト操作をミスなく正確に行えるという点で、MTをしのぐ。すべての性能を引き出し、そのパフォーマンスを全部味わいたいと思うのなら7速DCTかも。
でも、つたない己の技術にイライラしながら、それでもクラッチを踏み、息を止めてヒール&トゥを使い回転を合わせ、できるかぎりその性能を引き出そうとチャレンジする面白さと達成感はMTでこそ味わえる醍醐味。やはり濃さと深さはMTになるだろう。
■ルノールーテシア
(TEXT/岡本 幸一郎)
ベーシックグレードの「ZEN」に、EDC(エフィシエント・デュアル・クラッチ)と呼ぶ6速DCTと5速MTが15万円の価格差で選べ、しかも同じグレードなのに、なぜか搭載しているエンジンが違って、そのほかの装備も微妙に異なるという世にも珍しい設定。EDCには118psの直4、1.2L、MTには90psの直3、0.9Lがそれぞれ搭載されている。
ただ、せっかくMTが選べるとはいえ、非力なうえギヤ比がワイドで、エンジンレスポンスも眠く、特に回転落ちが鈍いのがネックになる。あまりそのあたりにこだわらず、とにかくMTに乗りたいという人向けで決してスポーティに走れるワケではない。
これに対し、EDC搭載車は常用域のトルクがあり、6速のギヤ比も適切なので軽やかに加速して、気持ちよく走れる。どうしてもMTがイイという人でないかぎり、EDCを選んだほうが賢明だ。
■ジャガーFタイプ
(TEXT/岡本 幸一郎)
いつのまにかワイドバリエーションになったFタイプだが、V6、3Lスーパーチャージドエンジンを搭載する高性能版の「P380」(※スポーティな「Rダイナミクス」ではない)の2WDモデルに8速ATとともに設定されている。価格はMTのほうがだいぶ安い(クーペで106万円、コンバーチブルで39万円安い)
MTに乗りたい人向けにあえて用意したという印象で、V8や直4には設定がない。
さすがは高級スポーツカーのMTらしく、シフトフィールは申しぶんない。ショートストロークで節度感も高く、MTを操ること自体が楽しみになるほどだ。
スロットル特性もMTに合わせて最適化されていて、ノーマルモードでは扱いやすく、ダイナミックモードではすべてが豹変して過激になる。MTの勝ちとしたいところだが、実は8速ATの出来も非常にいいので、引き分け。
■アバルト595
(TEXT/岡本 幸一郎)
ベーシックモデルとホットバージョンの「コンペティツィオーネ」で、いずれも5速のMTと「MTA」と呼ぶシーケンシャルトランスミッションが選べる。
このMTAはアバルトにおけるひとつの特徴的で重要な装備といえるものだが、世に出た当初は発進のもたつきやシフトチェンジの駆動抜けなどなにかと気になる点が多々あったのは否めず。その後にずいぶん改善されてあまりストレスを感じることもなくなったとはいえ、MTに比べるとどうしてもいろいろ遅れるのは否めず。
クラッチ操作が機械まかせなので、MTのように意のままにはいかず、クルマを自分の支配下に置くことのできる感覚に乏しいところが残念に思う。
一方のMTは依然として5速というのが泣きどころではあるが、AT限定免許ではない人にはMTをオススメしたい。
■DS3
(TEXT/岡本 幸一郎)
カブリオを含む1.2L 3気筒の「シック」には6速トルコンATが、高性能版の直4、1.6Lの「スポーツシック」には6速MTが組み合わされる。
ちなみに、あえてDS3を選ぶ趣味性の高いユーザーは、やはりMTを選ぶ傾向が高く、一時期にはDS3全体で半分近くをMTが占めたそうな。そのMTは狭いスペースにABCペダルを詰め込んだため足元が窮屈なのが気になる。
シフトフィールはまずまずなものの、1速と2速のギヤ比が離れていて、2速のカバーする範囲が広いのはよいのだが、どこでも2速で走れてしまう感じで、それではせっかくのMTの意味がないというところが気になる。
ATに組み合わされる1.2Lエンジンは、音はショボイが加速はパンチが効いていてATとのマッチングも申しぶんなし。総合的にはATの勝ちかな。
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