現在位置: carview! > ニュース > ニューモデル > 息子が目撃したグッドウッド・リバイバル 純白のハンスゲン・スペシャル(2) 世界水準の厳しい現実

ここから本文です

息子が目撃したグッドウッド・リバイバル 純白のハンスゲン・スペシャル(2) 世界水準の厳しい現実

掲載
息子が目撃したグッドウッド・リバイバル 純白のハンスゲン・スペシャル(2) 世界水準の厳しい現実

世界水準の厳しい現実へ直面したウォルト

1953年シーズンを、ウォルト・ハンスゲン氏は多忙に過ごした。複数のレースでハンスゲン・スペシャルは好成績を残し、9月19日のワトキンス・グレン・グランプリで、確実な評価を勝ち取ることになる。

【画像】ベースはジャガーXK120 純白のハンスゲン・スペシャル 同時期のスポーツカーたち 全154枚

前年の観客の死亡事故を受け、7.4kmへ短縮された市街地コースは、以前ほどの難易度ではなくなっていた。ハンスゲン・スペシャルは、序盤から3台のアラード・マシンをリード。ところが、残り3周で直列6気筒エンジンの異変を感じ取る。

ウォルトは燃料系を疑うが、原因へ気が取られているうちに、アラードがトップを奪取。最終ラップの22周目に不調ではないとわかり、5度も順位を入れ替えつつ、最終コーナーでトップを奪い返す。僅差で優勝を果たした。

彼がレースへ本格的に興味を抱いたのは、1950年。その3年後には、自らマシンを開発し優勝してしまうのだから、驚かずにはいられない。

1か月後には、アメリカ南東部のジョージア州で開かれた、FIA公認の国際スポーツカー・レースへ。だが、世界水準のマシンとドライバーが集結し、ウォルトは厳しい現実へ直面した。

ハンスゲン・スペシャルは、ストレートを250km/h前後で駆け抜ける、フェラーリ340 メキシコやカニンガムC-5Rへ太刀打ちできなかった。最高速度は206km/hで、ワークスのジャガーCタイプと比べても約30km/h遅かった。

ウォルトは諦めず、402kmを完走してクラス3位、総合10位へ入賞した。だが、より速いクルマへの情熱にも火が付いた。自宅を抵当に入れ、ついに彼はダークブルーのCタイプを手に入れたのだった。

レストアを経てグッドウッド・リバイバルへ

はかなく手放されたハンスゲン・スペシャルを引き継いだのは、レーサー仲間だったポール・ティミンズ氏。フェンダーをダークブルーに塗装し、1954年のレースを戦った。表彰台に登ることはあったものの、その中央に立つことはなかったようだ。

だがティミンズは、1955年3月に交通事故でこの世を去ってしまう。その後はジョージ・スターナー氏が11年間のオーナーになり、週末のドライブを楽しみ、JD.アイグルハート氏へ売却された。

アイグルハートは、ボディをブルーに塗装。ヒルクライム・レースへ挑む時以外は、ワトキンス・グレン博物館の展示車両として貸し出された。

彼から1983年にクルマを買い取ったのが、カーディーラーを営むボブ・ミルスタイン氏。ウォルトの活躍を知っており、保存したいと考えたらしい。

ミルスタインも根っからのレーサーで、純白に塗り直されたハンスゲン・スペシャルで150以上のイベントへ参戦。すべて無事故で切り抜け、31年間状態は維持された。

ジャガーの専門家、テリー・ラーソン氏の仲介を受け、現オーナーとなったのが、スイス在住のクリスチャン・ジェニー氏。ハンスゲン・スペシャルへ魅了され、クラシックカーイベント、グッドウッド・リバイバルへの出場が計画された。

オールラウンダー的なスポーツカー・レーサー

FIA主催のクラシックカー・イベントは規則が厳しく、参戦には小さくない準備が必要になった。これを強力に進めたのが、レストアを得意とするジャガー・マニア、デビッド・ブラゼル氏。技術者として、名誉な仕事でもあった。

ブラゼルは、トランスミッションをオリジナルのモス社製4速へ置換。リアのリミテッドスリップ・デフも、当時のジャガーで用いられていたソールズベリー社製へ交換された。デフのスリップ量の調整で、操縦性が大きく変化することも判明したそうだ。

「ジャガーXK120とCタイプの中間の性能だろうと予想していましたが、そのとおりでした。シャシーは柔らかく、車高も高い。フロントエリアが腰高で、直線スピードで有利とはいえません」。とブラゼルが説明する。

「それでも操縦性は良好。予想通りに回頭し、テールが乱れることもありません。オールラウンダー的なスポーツカー・レーサーです。グッドウッドサーキットを50周ほど楽しんでから、パブに向かうこともできるでしょうね」

Cタイプと並べると、洗練度や品質が劣ることは否定できない。それでも、1950年代の小さなワークショップで作られた、ワンオフモデルとしては完成度が優れる。

ハンスゲン・スペシャルは、ステアリングホイールが寝かされ、座面は高め。見た目はCタイプの方が流麗で、機敏に走りそうに見える。メカニズム的には共通する部分が多いとはいえ、着座位置も低くコーナーでの安定感も勝る。

ウォルトの息子、ラスティ・ハンスゲン氏も目撃

2023年のグッドウッド・リバイバルへ向けて、無事にハンスゲン・スペシャルは整えられた。ステアリングホイールを握ったのは、ベテランレーサーのピーター・ハードマン氏とアンディ・ミドルハースト氏だった。

またとない機会を目撃するため、ウォルトの息子、ラスティ・ハンスゲン氏もアメリカ・テキサス州からの渡英を決めた。彼の孫も。「現役時代、レースを見るには自分はまだ小さすぎました」

「覚えているのはCタイプの方です。サーキットへ向かう途中、どちらが助手席へ座るかで、姉とよく揉めましたね」。とラスティが笑う。

往年の9時間耐久レースを模した、グッドウッド・リバイバルのイベントでは、ハンスゲン・スペシャルは16位でゴールした。「走っている姿を見れて、素晴らしい1日になりました」。とブラゼルが振り返る。

「ハードマンさんは、1分37秒のラップタイムを残しました。オリジナルのCタイプより、僅かに速いタイムです。でもそれ以上に、ウォルトさんのご子孫、ラスティさんがあの場にいたことが何より素晴らしい!」

その日、純白のハンスゲン・スペシャルの周囲が、大きな感動に包まれたことは間違いないだろう。

協力:ペンディン社

こんな記事も読まれています

日産「カクカク“ワゴン”」実車公開! 旧車デザイン×コンパクトボディが超カッコイイ!ウッド内装もオシャレすぎる“斬新キューブ”「SETO」大阪で展示!
日産「カクカク“ワゴン”」実車公開! 旧車デザイン×コンパクトボディが超カッコイイ!ウッド内装もオシャレすぎる“斬新キューブ”「SETO」大阪で展示!
くるまのニュース
[15秒でわかる]世界初のリアウイングライト…テールランプとリアウィングが一体化!
[15秒でわかる]世界初のリアウイングライト…テールランプとリアウィングが一体化!
レスポンス
レアすぎるよ…! 約940万円! ケータハムセブンの[中古価格]が驚愕すぎる件
レアすぎるよ…! 約940万円! ケータハムセブンの[中古価格]が驚愕すぎる件
ベストカーWeb
グループAのころにゃなかったぞ! おじさんファンにはちんぷんかんぷんなイマドキ「レース用語」10選
グループAのころにゃなかったぞ! おじさんファンにはちんぷんかんぷんなイマドキ「レース用語」10選
WEB CARTOP
苦しみ続けるマクラーレンのノリスが予選6番手「良いラップをまとめることが、あまりにも難しい」/F1第22戦
苦しみ続けるマクラーレンのノリスが予選6番手「良いラップをまとめることが、あまりにも難しい」/F1第22戦
AUTOSPORT web
先代「695」と乗り比べ アバルト500e 長期テスト(5) 魅力はそのまま 未来感が凄い!
先代「695」と乗り比べ アバルト500e 長期テスト(5) 魅力はそのまま 未来感が凄い!
AUTOCAR JAPAN
「なんで!? スマートキーが作動しない!?」焦るクルマのトラブル 便利だけど大きな弱点もある理由とは
「なんで!? スマートキーが作動しない!?」焦るクルマのトラブル 便利だけど大きな弱点もある理由とは
乗りものニュース
2列目シートも快適でフラットスペースも広いトヨタ ハイエースがベースのキャンパー
2列目シートも快適でフラットスペースも広いトヨタ ハイエースがベースのキャンパー
月刊自家用車WEB
なつかしすぎて涙。タミヤのRCバギー「グラスホッパー」が誕生40周年を記念し“トミカ”&“ミニ四駆”になった!
なつかしすぎて涙。タミヤのRCバギー「グラスホッパー」が誕生40周年を記念し“トミカ”&“ミニ四駆”になった!
くるくら
タナクがまさかのクラッシュ。ヌービルが悲願のタイトル獲得。トヨタが逆転ランキングトップ/ラリージャパン最終日
タナクがまさかのクラッシュ。ヌービルが悲願のタイトル獲得。トヨタが逆転ランキングトップ/ラリージャパン最終日
AUTOSPORT web
アルピーヌのガスリーが驚きの予選3番手「アグレッシブな低ダウンフォースパッケージを選択。予想外の結果を出せた」
アルピーヌのガスリーが驚きの予選3番手「アグレッシブな低ダウンフォースパッケージを選択。予想外の結果を出せた」
AUTOSPORT web
トヨタ「“2階建て”車中泊仕様」がスゴイ! 大人5人が寝られる「豪華ホテル」風内装! 広さ2倍になる“マル秘機能”も搭載する「謎のハイラックス」とは?
トヨタ「“2階建て”車中泊仕様」がスゴイ! 大人5人が寝られる「豪華ホテル」風内装! 広さ2倍になる“マル秘機能”も搭載する「謎のハイラックス」とは?
くるまのニュース
レクサス『LBX MORIZO RR』やマツダ『CX-80』、最新4車種にブリッツ「OBDモニター」が適合
レクサス『LBX MORIZO RR』やマツダ『CX-80』、最新4車種にブリッツ「OBDモニター」が適合
レスポンス
マジ!? 今が[ベストタイミング]!? 新車は買えなくなったホンダ[S660]を中古で探すぞ!!
マジ!? 今が[ベストタイミング]!? 新車は買えなくなったホンダ[S660]を中古で探すぞ!!
ベストカーWeb
トヨタWRC代表、タイトル獲得に向けラリージャパンで“チームプレー”徹した勝田貴元の「マネジメント力を見ていた」
トヨタWRC代表、タイトル獲得に向けラリージャパンで“チームプレー”徹した勝田貴元の「マネジメント力を見ていた」
motorsport.com 日本版
みなとみらいのヤマハ発信拠点で“外に繰り出したくなる”イラスト展開催 12月11日~15日
みなとみらいのヤマハ発信拠点で“外に繰り出したくなる”イラスト展開催 12月11日~15日
レスポンス
ルクレール、”チームオーダー無視”のサインツJr.を批判「優しくすると、いつも損をするんだ!」
ルクレール、”チームオーダー無視”のサインツJr.を批判「優しくすると、いつも損をするんだ!」
motorsport.com 日本版
F1 Topic:ホテルでも空港でも遊べる“ギャンブルの街”ラスベガス。気になる賭け率とガスリーの躍進
F1 Topic:ホテルでも空港でも遊べる“ギャンブルの街”ラスベガス。気になる賭け率とガスリーの躍進
AUTOSPORT web

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村