安価で楽しいEV
おそらく、運転して本当に楽しい電気自動車の登場を待ち続けている読者は多いだろう。とはいえ、8万5000ポンド(約1190万円)のポルシェ・カイエンや6万4000ポンド(約896万円)のジャガーIペイス、4万5000ポンド(約630万円)のポールスター2といった、高額モデルの話はもう聞き飽きているかもしれない。
【画像】写真で見るミニ・エレクトリックvsマツダMX-30 全7枚
それならば、今回のテスト車はどうだろうか。どちらも、補助金を差し引けば2万8000ポンド(約392万円)以下で手に入るのだ。しかも、どちらも走りの重要性を理解している点では、定評のあるメーカーが造った商品だ。
それをよく表わしているのが、ミニ・クーパーとマツダMX-5、すなわちロードスターだ。どちらもベストな仕様であれば、われわれが愛する前輪駆動と後輪駆動のスポーツカーの姿を示してくれる。充電ケーブルを抜いて走り出す前から、楽観的でいられる理由がそこにある。
ミニ・エレクトリックは発売からしばらくの時間が経っていて、すでによく知っている。端的にいえば、われわれのお気に入りの一台だ。とくに好ましいのは、急激に立ち上がる27.5kg-mのトルクによる加速や、ミニらしい金魚鉢の中から見るような前方の眺めだ。
また、間違いなく重心が路面をかすめるような感覚と、うまくチューンされたステアリングのレスポンスも挙げられる。それらは、ミニを表現するものとしてしばしば引き合いに出される、ゴーカートのような俊敏さを紡ぎ出す重要な要素だ。
もしもコンパクトなEVが必要で、しかし走りの楽しさを諦められないのであれば、今のところこれが、手頃な価格帯ではベストな選択肢だ。ただし、ウェット路面のラウンドアバウトを走るときなら、ルノー・トゥイジーという例外もあるが。
物足りない航続距離
すでにミニの新車販売において1割ほどを占めるEVモデルだが、ひとつだけ気に入らないことがある。あまりにも乏しい航続距離だ。フル充電で225kmという公称値も物足りないが、現実的にはさらに短くなり、180kmを切る程度だ。
この数字は、コンパクトEVカテゴリーを見回しても不足を感じる。ライバルたちをみてみると、プジョーe-208は332kmの航続距離を謳い、フィアットの新型500でも320kmは走るとされているのだ。
だから、いくらミニEVの走りがよくても、セカンドカーという位置づけから抜け出すことはできない。黄色いトグルスイッチをオンにして走り出す前から、その事実は変えようがないのだ。それで事足りるかどうかは、ユーザーそれぞれの求めるものによるだろう。
そんなミニの航続距離は、マツダMX30にもチャンスを与えるものだといえるのではないだろうか。235kg重く、パワーに劣り、価格はやや高いが、相対的には互角になれるのではないかと。ところが、マツダ初のEVは200kmしか息が続かない。ミニよりも移動範囲の自由度が低いのだ。
そんなMX30を擁護するならば、ライトサイジングなアプローチを主張するだろう。市場のニーズを慎重に検討して、そのスペックは決められたのだ。
マツダは、より大きなバッテリーパックを積むことも可能だったというが、そうしなかったのは価格と、ハンドリングに悪影響を与える重量を抑えるためだ。しかも、一般的なユーザーが日常的に走る距離は一日あたりせいぜい80km程度。となれば、いたずらにバッテリーを大型化しなくてもいいというわけだ。
たしかに、客観的にみれば正しいのだろう。机上の話としては、十分なほど道理に適った話だ。しかし、郊外でのコミューターとして使われることもあるだろうコンパクトクロスオーバーにとってはマイナスとなる戦略だ。CO2規制を切り抜けるためには、欧州でかなりの台数を売らなければならないのだから、得策とはいえない。
GT的なマツダとスポーティなミニ
航続距離は残念な要素だが、少なくとも走らせてみれば、好材料も見つけられる。結局、MX-30の魅力を高めるのは、ミニを上回りそうな運動性だ。これならば驚くほど洞察力があり、マツダ信者というわけではないマツダ車オーナーにもアピールできる。
近くで見ると、20年くらい前のすましたコンセプトカーを思わせる。われわれが思い出したのは、フォード021Cやダッジ・カフナだ。そんなマイナーなショーモデルをご記憶の読者は少ないだろうが、MX-30のシリンダー風ライトや厚ぼったいクラッディング、複雑さを排したボディラインなどは、ミニカーを原寸大に拡大したようなテイストを漂わせる。
キャビンには、冒険的なところはあまりない。観音開きドアや、自社のルーツをたどるように採用したコルクのトリムくらいだ(そう、1920年に東洋コルク工業として発足したマツダは、プジョーと同じくまったくの異業種から転身した自動車メーカーだ)。
運転環境は退屈にも思える昔ながらのエルゴノミクスだが、今となってはそれがむしろ目新しい。それらはまちがいなくいい出来だが、ベースとなるエンジン車から多くを流用していることがその大きな理由だ。
マツダの場合、変更可能な走行モードは用意されず、使い方に迷うようなギミックもない。室内にさまざまな電子音が響き渡り、蛍光色のアクセントや奇妙なディスプレイを備えるミニと違って、マツダのインテリアはトラディッショナルだ。ただし、メーターパネルは左右対象ではなく、解像度が粗いことに驚かされるが。
リムの細いステアリングホイールは、MX-5からの流用かと思わせるもの。メーターはデジタルだが、アナログ調のデザインだ。ファブリックのシートは、モダン家具のカタログに載っていそうな見栄えだが、サポート性に優れ、快適でスポーティだ。
いっぽうのミニは、より身体を包み込むようなシートで、着座位置がうれしいくらい低く、視線がスカットルをかすめるような感覚だ。かたや高級GT的、かたや小さなロケットのよう、とたとえても、どちらがどちらか、すぐにわかるだろう。
とにかくダイレクトなミニ
同じような違いは、ドライビングにも当てはまる。走りは単調なものが多いEVの中にあっては、2台とも並外れたよさをみせる。それは期待通りだ。しかし、どちらもEVとしてはすばらしいニュートラルなバランスを備えているとはいっても、走らせてみるとまったくの別物だ。
184psのミニは、ガソリン車のクーパーSより140kgほど重いが重心は低く、明らかに素早さで上回る。パワートレインもハンドリングも、レスポンスはよりクリーンだ。
どちらも予想通り、乗り心地は滑らか。スプリングレートが、重いバッテリーに対応するべく高められているはずなのだが。ただしミニは、ロールが最小限に抑えられ、グリップレベルは掛け値なしにみごとだ。重量バランスも優れているので、スロットルやステアリングの入力のひとつひとつに対して即応する感覚がある。
ヤンチャなところは、それほどみられない。ただただ強烈にダイレクトで、ゾクゾクするほどだ。脳髄を直撃するような刺激が、いきなりやってきて、いつまでも神経にその感覚が残る。ブラボー、ミニ!
反対に、27.5kg-mのトルクはミニと肩を並べるMX-30は、やや重々しさがある。テストしたのが先行量産車だったこともあるかもしれないが。しかし、本当に速いエンジン車にもそういうところはあるものだ。
ブレーキに関しては、マツダはミニのようなフィールやコンフィデンスをもたらしてはくれなかった。また、効きはじめまでの踏み込み量が多い。そして、ドライビングポジションが高いので当然ながら、ゆったり走るにはとても適しているが、ドライビングの満足感を求めるには向いていない。
明確な各ブランドの個性
たしかに、MX-30の魅力はミニよりも上品なものだが、間違いなく存在する。ステアリングは、電動クロスオーバーとしては完成度が高く、まっとうなスポーツカーが備えていても場違いではないくらいのものだ。
もっとも驚いたのは、ミニのステアリングよりコミュニケーション性に優れていることだった。そして、ギア比の設定とロールレートが完璧にマッチングしている。さすがはマツダだ。
最高に楽しいのは、指先の軽い動きだけで道を縫って走るときだ。なめらかなボディの動きと合わせて、巧みに推進力を維持するようにすれば、結果として電費も稼げる。
ミニのように走らせようとすれば、追い立てられるような運転になり、グリップと動力性能の不足にフラストレーションを溜めることにもなってしまう。むしろ小さくて非力なMX-5と同じような運転をしたほうが、思いがけず優秀なドライバーズカーだとわかることになるだろう。
実際のところ、これら比較的小さく安価な2台のEVは、どちらもこのカテゴリーの進化の明らかな見本とはいえない。だが、どちらも等しく大成功を収めているのは、各ブランドの走りのアイデンティティを、電動モデルにうまく落とし込んでいる点だ。もし目隠しして乗っても、どのメーカーが造ったクルマか秒でわかるはずだ。安心してほしい。
では、どちらがこの対決の勝者か。マツダの控えめな気楽さや巧妙な仕上げは心地いいはずだ。とはいえ、週末を楽しむパートナーに選びたいのは一台だけ。それが答えだ。
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