■前後重量配分に優れたミッドシップはスポーツカーの証
クルマの構成部品で重たいものといえばエンジンとトランスミッションが挙げられます。それらの重量物をクルマの前後輪の間に配置することで、前後重量配分を最適化するレイアウトが「ミッドシップ」です。
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重い部品がクルマの中心付近に寄っていることで、前後タイヤのグリップ力がバランス良く発揮され、運動性能を高めることに繋がります。
F1マシンなどレーシングカーでは一般的なレイアウトですが、市販車でもスーパーカーやスポーツカーで採用されることが多く、ミッドシップは高性能車の証ともいえます。
そこで、国産車のなかからミッドシップを採用したクルマを5車種ピックアップして紹介します。
なお、ミッドシップはフロントとリアの2種類がありますが、今回はリアミッドシップに限定しています。
●トヨタ「MR2」
トヨタ「MR2」は、1984年に初の国産量産ミッドシップ車として登場しました。
上位グレードは高回転型の1.6リッター直列4気筒DOHCエンジン「4A-G型」を横置きに搭載。横置きとしたのはFFの「カローラ」のドライブトレインを流用したためです。
軽量な車体と相まって軽快なコーナーリングを楽しむことができましたが、一方で、ミッドシップらしい速さを追求することで操縦性がシビアになってしまうことを避け、比較的マイルドなサスペンションセッティングとなっていました。
そのような性格から車名は「Midship Runabout 2seater(ミッドシップ・ランアバウト・2シーター)」の略で、ミッドシップレイアウトの2人乗り小型車という意味がなり、当時の運輸省の手前過激な表現を避けています。
1986年のマイナーチェンジでは、最高出力145馬力を発揮して、アクセルレスポンスや出力特性に優れるスーパーチャージャー付きエンジン車を追加。
さらに、サスペンションセッティングなどが最適化されたことにより、コーナーリングスピードが向上し、よりスポーツカーらしさが強調されました。
その後、1989年に2代目MR2がデビューし、2リッターターボエンジンを搭載するなど、一気に性能を高めています。
●トヨタ「MR-S」
1999年に発売されたトヨタ「MR-S」は、MR2の実質的な後継車です。これまでと同様に、FF車のパワートレインを流用してリアミッドシップとすることで、部品などの共通化が図られ、コストを抑えました。
また、MR2と大きく異なる点として、ルーフを手動ソフトトップのオープンカーとしたことがあります。したがって、クルマの性格も2代目MR2から比べると、だいぶマイルドになっています。
エンジンは1.8リッター直列4気筒DOHCで、最高出力は140馬力と控えめなスペックです。しかし、2代目MR2よりも大幅に軽量化されたため、心地良い加速感とミッドシップならではの運動性能の高さ、そして手軽にオープンエアドライブが楽しめたことで人気となります。
そして、MR-Sの特徴のひとつとして、国産量産車初の「シーケンシャルマニュアルトランスミッション(以下、SMT)」が採用されたことが挙げられます。
SMTは2ペダルのセミATと呼ばれるトランスミッションで、クラッチ操作が自動で変速はシフトレバーを前後に動かしておこない、レーシングカーをイメージさせていました。
MR-Sは国内のスポーツカー市場の縮小もあり、販売不振が続いたことで2007年に生産を終了しました。後継車はなく、現在、MR-SのポジションはFRの「86」が担っています。
●ホンダ「NSX」
ホンダのスーパースポーツ「NSX」は1989年に発表され、翌1990年9月に全国のべルノ店(当時の販売チャネル)を通じて発売。
バブル景気とあって、価格は800万円から(消費税含まず)と高額にも関わらず発売前から注文が殺到し、発売時ですでに3年分のバックオーダーを抱えていたといいます。
シャシは世界初となる軽量なオールアルミ製モノコックとし、自然吸気ながら280馬力を発揮する3リッターV型6気筒DOHCエンジンをリアミッドシップに横置きで搭載。低い車高に「くさび」のような鋭いデザインと、まさに和製スーパーカーというべきクルマに仕上がっていました。
開発に当時の現役F1ドライバーだったアイルトン・セナ氏や中嶋悟氏を起用していたことも、当時は大きな話題となります。
「NSX」は卓越したハンドリングとハイパワーというだけでなく、普段使いも問題なくできる高品質のスーパーカーとして開発され、後にフェラーリやランボルギーニといった老舗のスーパーカーメーカーの開発方針に、大きな影響を与えたといいます。
初代NSXは2006年に生産を終了しましたが、2016年に新型NSXが発売されました。現在のNSXは、最高出力507馬力を発揮する3.5リッターのV型6気筒ツインターボエンジンを、リアへ縦置きに搭載し、3基のモーターを組み合わせた「SPORT HYBRID SH-AWD」で、システム最高出力581馬力と、まさに日本を代表するスーパーカーであり続けています。
■軽自動車には過激なミッドシップがあった!?
●マツダ(オートザム)「AZ-1」
1992年にデビューしたマツダ(オートザム)「AZ-1」は、軽自動車唯一のガルウイングドアを持つ2シーターのスポーツです。
スズキ「アルトワークス」に搭載されていた、最高出力64馬力の660cc直列3気筒DOHCターボエンジンをリアミッドシップに横置き搭載し、外装にFRPを多用した720kgの軽量ボディを活発に走らせることができました。
さらに、ステアリングのロック・トゥ・ロック(左右にステアリングを回した際の最大回転数)が2.2回転と、国産車では類を見ないほどのクイックステアで、「公道を走るゴーカート」とも呼ばれます。
しかし、過度の軽量化とFF車用パワートレインをリアミッドシップに配置したため、極端なリア荷重となったことからフロントタイヤの接地荷重が低く、クイックな分だけアンダーステアに陥りやすかったようです。
また、リアサスペンションのセッティングの甘さからオーバーステアに転じて、スピンを喫してしまうドライバーも多く、「面白いけど危険なクルマ」といわれるほどじゃじゃ馬な性格でした。
一方で、軽自動車のピュアスポーツカーというキャラクターが好まれ、1995年の販売終了後から中古車価格が極端に下がることもなく、現在では海外のコレクターたちも狙っているため、状態の良い物件は新車価格の倍以上の金額で取引されることもあるほどです。
●ホンダ「ビート」
1991年に登場したホンダ「ビート」は、ミッドシップ量産車として世界初のフルオープンモノコックボディを採用した2シータースポーツカーです。
本格的スポーツカーのNSXと同じリアミッドシップであることから、「ミニNSX」と呼ばれることもありましたが、ホンダはビートを「ミッドシップ・アミューズメント」と呼び、純粋なスポーツカーとはアピールしませんでした。
一方で、軽自動車としては少数派の四輪独立懸架のストラット式サスペンションや、軽自動車初の4輪ディスクブレーキが標準装備され、フロント13インチ、リア14インチの前後異径タイヤの採用など、スポーツカーといって間違いない内容でした。
リアアクスルの直前にマウントされた660cc直列3気筒SOHCエンジンは、同時期の「トゥディ」や「アクティ」などに搭載されていたものとベースは同じですが、独自のチューニングに独立3連スロットルの吸気システムとすることで、軽規格の自然吸気エンジンでは唯一の最高出力64馬力を発揮。
スロットルレスポンスに優れていますがトルクの出方が緩やかで、ハンドリングも安定志向だったことから、AZ-1のような気難しい面はありませんでした。
ビートは1996年に生産を終了したので、絶版となってからすでに四半世紀近くが過ぎていますが、販売台数の多さから中古車価格は高騰しておらず、手軽にミッドシップカーを味わいたいならおすすめの1台です。
※ ※ ※
昭和の少年を夢中にさせたスーパーカーブームの頃、人気を二分していたのがランボルギーニ「カウンタック」とフェラーリ「365GT4BB」です。
どちらも正統派のミッドシップカーで、日本にミッドシップという言葉を広めたのも、この2台だったのではないでしょうか。
カウンタックも365GT4BBも45年ほど前にデビューしたのですが、当時の国産車と比べると、まさに夢のようなクルマだったといえるでしょう。
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