電動化と同時にAWD化も果たした急先鋒
誕生以来一貫してロングノーズの下にエンジンを収めてきたアメリカン・スポーツカーの代表、シボレー・コルベット。2020年にデビューした8代目となる現行モデルはついにこれまでの慣習にメスを入れ、ミドシップ・レイアウトを採用している。今回は新たにラインナップに加わった電動化モデルに試乗する機会を得た。『E-Rayクーペ3LZ』である。
E-Rayという車名がエレクトリックのEと伝統的なスティングレイの呼称にかけた造語であることは容易に想像がつくはずだ。この派生モデルの最大の特徴は電動化とともに、コルベット史上初のAWDモデルとなっている点だろう。345幅の超極太リアタイヤを最高出力502psのスモールブロックV8(LT2)エンジンで駆動し、対するフロントは162psを発揮する1基のモーターが駆動している。
似たような機構をもった前例を我々はいくつか知っている。2代目ホンダNSXがそうだったし、フェラーリSF90や、つい先ごろ日本上陸を果たしたランボルギーニ・レヴエルトもそう。だがコルベットのそれが特徴的なのは、フロントにシングルモーターを置くだけという、シンプルな構成である点だろう。
ライバルたちはフロント2モーターでコーナリングを補助するベクタリングを行いつつ、リアにも1基のモーターを置いている。だから少し意地悪な見方をすれば、コルベットは後ろ半分を既存モデルのまま、前半分だけお手軽に電動化した? 実際に試乗してみるまではそんな印象を抱いていた。
明らかに動的質感が高められた
以前、8代目コルベットに初めて触れたとき気になったのは、エンジンがドライバーの背後に引っ越ししてしまったあとの、フロントからのフィードバックが薄くなっていたこと。スポーツモードでダンパーを引き締めても、減衰が足りない、ふわふわした感じがあったのだ。だが今回、E-Rayと同じタイミングで試乗できたコンバーチブルでは年次改良の成果もあってか、フワフワ感はほとんど感じられなかった。AWDとなったE-Rayではどうか?
標準モデルより明らかに拡幅されたボディを纏ったE-Ray。箱根のワインディングで試したそのドライバビリティに”前電動、後ろエンジン駆動”という、機械的な連携がないことによるちぐはぐな感じは一切なかった。
体感的なパワーはリアタイヤ、つまりV8エンジンが圧倒的なのだが、感心させられるのは上手に気配を消しているフロントの方。モニターの電力消費を見ていると、僅かとはいえ前輪に安定した駆動力が入っていることが分かる。そのおかげでステアリングの初期応答がリニアになっているし、90kgほどの電動化システムの重みがフロントアクスルに掛かることで、結果的にステアリングフィールに重厚感がプラスされているのである。
ゆっくり走っていても飛ばしていても、E-Rayはノンハイブリッドの標準モデルより明らかに動的質感が高められた1台といえる。これまでZ06のようなパフォーマンスを追求したモデルはあっても、走りの質感をここまで高めたコルベットは初ではないだろうか?
進化と伝統が混ざり合ったE-Rayこそ本筋?
0-100km加速がブガッティ・シロンよりコンマ1秒遅いだけと聞くと尻込みしてしまう。だがそんな加速性能を電子制御可変のアシ、マグネッティック・セレクティブ・ライドコントロールが見事に抑え込んでいる。スタビリティが理解できると、ハイパワーのミドシップ車だからと構えることなく、スロットルを踏み倒せるようになってくる。
そう、E-Rayは機構的には以前よりはるかに複雑でパワフルだが、絶えず乗り手をリラックスさせ楽しませてくれるという点では、歴代コルベットの延長線上にあるといっていい。そんなスタビリティの源泉になっている電動化は、FRレイアウトでは実現が難しかったはず。そう考えるとE-Rayは派生ではなく8代目の本筋なのかもしれないと思えてきた。
実用の部分ではボディ前後のラゲッジスペースが広大というのもコルベットらしい部分だし、大きなサイドミラーのおかげで斜め後方の視界が良いのもうれしい驚きだった。
残念なのはEV走行のモードが始動前にしか選択できないことと、レーンキープ等の車線維持支援システムが付いているにもかかわらず、クルーズコントロールがアダプティブではないという点だった。
だがそれよりも重要な事実は、今回E-Rayをドライブしたことで、時代が求める要件を取り込みつつ、しかし歴代モデルの延長線上にあるという、コルベットの最新の立ち位置が確認できたことなのである。
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