あと8年半 様々な現実の課題
執筆:Kenji Sasamoto(笹本健次)
撮影:Daisuke Ebisu(戎 大介)
EUでは、2035年までにハイブリッド車も含めた内燃エンジン車の販売禁止案を発表した。
また、AUTOCAR本拠地がある英国でも2030年までにガソリン/ディーゼル車の販売の中止を打ち出している。
しかし、2030年といえば、あと8年半ほどしか残されていない。
この間に、本当にEVを中心とするゼロ・エミッション車が、充電設備の普及や、内燃エンジン車に比べて短い走行距離の克服といった、様々な課題を解決しえるのか。
あるいは、水素エンジンなどの新たな可能性が浮上してくるのか、といった技術の進歩の状況を、新型車の試乗や新技術の紹介などを通じて継続的にレポートし、読者の皆さんにリアルタイムの情報をお届けしてゆきたいと思う。
EV長距離テスト ルール紹介
まず、このレポートのルールをお知らせする。
まず、現状のゼロ・エミッション車の現状を知るため、それぞれのメーカーの代表的なEVをできるだけ、長期間に亘って試乗し、実際に様々な充電ポイントで充電をおこなうなどして、その実力を見極めたいと思う。
それゆえ、最低でも、1週間、できれば、2週間ほど日常生活の中で試乗をしたいと考えている。
AUTOCAR JAPAN編集長の私の場合、基本的な行動パターンとしては、川崎の自宅を起点とし、東京では、三軒茶屋のACJマガジンズのオフィスに通勤することが週に数回(いまは殆どテレワーク)。
そして、もう1つの事業所である山梨県甲府市の旅館「常磐ホテル」に、最低週1往復、多い時には3往復する、という日常である。
川崎と甲府の間は片道110km程度なので、殆どのEVは、満充電にしてあれば問題なく到達できる距離である。
何らかのタイミングで、自宅で充電ができない場合でも、途中の中央高速のパーキングエリアには、急速充電の設備が整っているので、まず、問題は起きないと思っている。
因みに川崎の自宅には、単相100V/200Vの電源があり、甲府の旅館には、汎用の充電器が2基設置されている。
また、大きな技術の変革の際には、実際に、その技術を詳細に取材し、随時、紹介をしてゆきたいと思う。
アウディeトロン50クワトロ・アドバンスト
記念すべき、この特集の第1回目は、アウディが自信をもって市場に投入したeトロンである。
このクルマは、アウディとして初のEVであり、今年の1月に満を持して発売された。
ボディ・デザインは、もっと奇抜なものを予想していたが、意外にも、オーソドックスなアウディのコンセプトを踏襲したSUVとなった。
僅かにフロントグリルの格子柄で、EVを主張しているだけである。
試乗車は、カタルーニャレッドメタリックという派手な塗色で、Q5とQ7の中間のやや大きめのサイズ(4900×1935×1630)と相まって、かなり目立つ。
アウディらしさを凝縮した重厚な味わいのデザインは、カリスマ性があり所有する喜びを感じさせてくれる。
車両価格は1258万円(税込み)で、このうち、オプションが189万円なので、素の価格は1069万円ということになる。
カタログによると、最大航続距離は、316kmということだが、実際の数値はどのようなものだろうか。
クルマを受け取ったのは自宅のガレージで、この時点でオドメーターは5656km、航続可能距離は267kmであった。
早速、ガレージに装備している単相200V電源と、車載の充電ケーブルを使用して充電を始めると、4時間強で満充電になり、航続距離は312kmとほぼカタログ値に近くなった。
神奈川県川崎市→山梨県甲府市
翌日午後、甲府へ向けてスタート。
最初の印象は、極めて静かなことだ。エアコンのファンの音が聞こえるだけで、殆どタイヤノイズも室内には入ってこない。
操作系で特徴的なのは、オプションで装着されているバーチャル・エクステリア・ミラーで、本来のドアミラーの位置には、カメラが装着されていて、その画像が室内の、カメラの下の位置に映るようになっている。
画像の画角は広く視認性は良いが、本来ミラーのある室外のカメラの位置に習慣的に目線が行ってしまい、その後、画面に目線が移るので、どうしてもワンテンポ遅れてしまう。
これは、ついに試乗が終わるまで慣れなかった。果たして26万円の価値があるかどうかは疑問である。
回生ブレーキの強弱もドライブフィールにかなりの違いを生ずるが、テストなので、できるだけノーマルの状態でドライブするようにした。
中央道の走行も全く快適で、静かで力強い走りが可能だ。無論、アクセルを踏み込めばEVの巨大なトルクで流れを一気にリードすることもできる。
但し、残距離の表示は、登り勾配のせいもあって、意外に早く減ってゆく感じだ。甲府に到着した時の走行距離は101.95km。やはり消費電力は大きく、航続可能走行距離は161kmに減少していた。
中央道の府中-甲府間は、全般的に上りなので151km分の電力を使ったことになる。
後日の逆のコースの走りでは、下りが多いので、僅かに89km分の電力消費に過ぎなかった。
内燃エンジン車の場合は、勾配の有無によってここまでの変動はなく、EVで長距離走行をおこなう場合には、走行ルートの総合的な判断が必要だろう。
実際、川崎-甲府間の場合、川崎市麻生区の海抜は49m、甲府市湯村の海抜は292.3mだが、途中の峠の最高地点である笹子トンネル付近の海抜は600m程度であるから、かなりのアップダウンを経て、最終的には、250mほど上るコースとなる訳で、その分、電力消費も多くなるのは仕方がない。
甲府での充電は、旅館に備え付けの、ごく一般の3.2kWの充電装置を使用するので、最近の高性能EVではかなり充電時間が長くなる。
この時は、約半分の充電量から満充電までに12時間23分かかるという表示が出た。
せめて高性能の6kWの充電器に変えれば、だいぶ短くなるのだろうが、ほぼ補助金で設置した経緯であることや、現在の週に1回程度のお客様の使用回数を考えれば、わざわざ高性能のものにかえるのは負担が大きく、旅館側としては現実的ではないのも事実だ。
地方都市の移動 峠における走り
翌日は、撮影を兼ねて近くの峠を走る。
峠ではスポーツモードを選択し、登りで一気にアクセルを踏み込むと、内燃機関では得られない分厚いトルクで、強烈に加速してゆく。
ジャガーIぺイスの時も感じたが、下りのフルブレーキングでも回生ブレーキが効くため、意外と電力を消費しない。これもEVの面白さだと思う。
峠でのアウディ独特の足さばきの良さはeトロンでも変わらず、EVによる峠走りは、とても楽しかったのである。
甲府のような典型的な地方都市では、市内の用事であちこちに行く程度の使用であれば、殆どコストはかからず、EVのメリットだけが強調される。
毎日、使用した後、充電をセットするのが最初は面倒だが、慣れてしまえばあまり気にはならない。
甲府から川崎への移動は、前述の通り、117kmの距離を走り、89km分の電気を消費した。
中央道は笹子トンネルまでは登りだが、その後は、ほぼ下りであるから、電力消費はごくわずかになるのを証明している。
残距離は185kmであったが、自宅で充電を開始すると、満充電までは11時間3分を要した。
この時の充電後の航続可能距離は295kmで、アクセル開度やブレーキングの程度など、直近の走り方により、表示される航続距離も変わってくるのだろう。
今回、高速道路のパーキングなどに設置されている急速充電は利用しなかった。行程の中では、石川、談合坂パーキングにそれぞれ2基ずつ設置されている。
毎回、立ち寄って込み具合をチェックしてみたが、ほぼ充電しているクルマは無かった。
急速充電自体は、バッテリーに良い影響は与えないので、長距離を走らなければならない時以外は使わない方が良いだろう。
しかし、これから、EVが更に普及してくることを考慮すると、これでは足りないのは明白だ。
総走行距離570kmで見えたこと
7月25日から約2週試乗して、総走行距離は570kmとなった。この間、甲府に2回往復し、ほぼ毎日、充電をおこなっている。
最後の頃には、eトロンとの生活が、違和感がなくなってきていたので、要は、慣れの問題なのだと思う。
eトロンは、アウディのこれまでの商品イメージをしっかりと体現した、よくできたEVだと思う。
価格も、このクラスとしては割高ではない。お勧めできる1台だと思う。
これからEVが普及するためには、インフラの更なる整備が絶対だ。クルマはどんどん高性能になり利便性も増すが、それに対応した高性能な充電設備が数多くできないと、現在のレベルから、更なる普及は難しいだろう。
政府がもっと積極的に対応しないと、日本は世界から遅れるばかりだが、縦割り行政の日本では、最も苦手な部分なのは間違いない。
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