勝負の分かれ目となるタイヤの性能 詳細なチェックと大胆な決定が下される
7月2日に開催されたトヨタ86&スバルBRZのワンメイクレース「TOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Race 2017」第4戦(岡山県岡山国際サーキット)。 アマチュアドライバーが参戦するクラブマンシリーズで、タイヤに対するひとつのジャッジが下された。それはレース規定にある加工を施した(トレッド面を削った)と判断されたタイヤの使用禁止が、厳格に運用されたのだ。その結果、使うはずのタイヤが使えないという事態に。これが原因でレースはいつも以上に激しいものとなった。グレーゾーンという言葉がある。白でも黒でもない、はっきりしない曖昧な領域のことだ。 当然白が適法、黒が違法、グレーは適法なのか違法なのか、中間的なポジションということになる。 あらゆるルールは常に完全ではない。ルールは、しょせん人間が作ったものだからチェックし続ける必要があり、適宜更新するべきものである。未来永劫不変なルールなど、存在させてはいけない。 当然モータースポーツのレギュレーションにも不完全な部分があり、グレーゾーンも存在する。86/BRZ Raceでは、そのひとつがタイヤだった。
使用するタイヤはストリートラジアル 加工次第でグリップ力も耐久性も異なる
86/BRZ Raceはナンバー付きワンメイクレースである。使用するタイヤは市販ラジアルタイヤとなり、スリックタイヤやSタイヤといったスポーツタイヤは認められない。 ここに、サーキット路面に向いていない市販ラジアルタイヤでレースをするというアンマッチがある。 日本のサーキットの路面はアスファルト粒子が粗く路面μが高いので、それがタイヤを発熱させやすく、熱によるタレが起きやすくなってしまう。 海外のサーキットでは路面が通常のアスファルトに近いものもあり、例えばニュルブルクリンクはそのひとつだ。日本のサーキットでは安全性の面からも、路面μが極めて高く設定されていて、そのため市販車のテストに向いていないのも不幸だ。
そのアンマッチを解消するために、市販ラジアルタイヤを使用する場合は、一般的にはタイヤのトレッド面を削り、ブロックの高さを低くする。削ったタイヤのメリットは、速さと耐タレにある。 ブロックが低くなることでブロック剛性が高くなり、コントロール性やトラクション性能が良くなるので、タイムが速くなるのだ。 またブロックが低いのでブロック自体のヨレが小さく、トレッド面の発熱が抑えられるので、タイヤの熱によるタレも小さくなる。 つまり、削ってやれば予選が速いだけでなく、決勝レースでは後半になってもタイムの落ちが少ないということになる。逆に溝が浅くなるので、雨が降った時に排水性が悪く、グリップが低くなってしまうデメリットも生じる。 86/BRZ Raceでは、2014年から優勝ドライバーが使用したタイヤを、レース後にじゃんけん大会などで他のドライバーにプレゼントしている。 実際にそのタイヤを使ったドライバーによれば、1レース使用後にも関わらず普段よりもグリップ感が高く、タイムも向上したという。 タイヤを削ってから上手く熱を入れることで、タイヤのコンパウンドが適度に硬くなり、それが良い結果を生み出すようだ。いいタイムが出るだけでなく、耐久性も優位になり、1レース後でもまだ高い性能を維持しているわけだ。 削るだけでなく、熱を入れることによって、タイヤを作ることで、ライバルに差を付けることができる。
そもそも市販車のタイヤを削るという作業は、ごく普通に存在していた。 それはフルブレーキを踏んだ時に発生するフラットスポットを解消するためだったり、アライメント不良などで偏磨耗したタイヤを正常に戻すのが目的だった。そのためタイヤを削るための道具が存在している。タイヤをホイールごとセットしてモーターで回転させながら刃を押し当てて削る、簡単な構造だ。タイヤの販売店や大手の新車ディーラーには、あるらしい。
アマチュアクラスに毎戦新品タイヤは大負担 ナンバー付き車両レース本来の意義が問われる
2017年シーズンから、プロフェッショナルシリーズではタイヤは新品が指定されている。 車検場にはマシンは自走用のタイヤを装着して向い、本番用のタイヤは台車で運ぶ、というスタイルになっている。つまり削ったタイヤではレース前車検をパスすることができないわけだ。 クラブマンシリーズで、同様な新品指定ができないのは、正当な理由がある。 それはプロフェッショナルシリーズと異なり、あくまでアマチュアドライバーの参加型レースだからだ。大半がキャリアカーでサーキットに運ばれてくるプロフェッショナルシリーズとは違い、クラブマンシリーズではほとんどが自走でやってくる。 レースで新品が指定されてしまうと、その運搬方法が辛くなるだけでなく、タイヤを1セット多く用意することになる。ひとつの目標でもある「サーキットまで自走してレースに出てそのまま帰る」というようなヨーロッパのクラブマンレースのようなスタイルが不可能になってしまう。 ローコストでも参戦してもらいたい。そういった運営側の意図もあり、使用したタイヤでのレース参戦を禁止できないわけだ。
今回の第4戦(岡山国際サーキット)では、レース前車検で削ったタイヤであると判定され、新品タイヤに交換することになったドライバーが、何人も居た。 このレギュレーション適用は、2013年のオープニングレース以来、初めてのことである。 削ったかどうかを明確に判定することは難しいのだが、刃の跡が筋としてトレッド面に残っているようなものを「削ったことか明らか」と判定したようだ。逆にいえば仮に削っていても、刃の跡がなく、表面が角張っていなければ、そのままレース前車検はパスすることができたわけだ。 削ったタイヤで走ることを前提にセットアップしてきたドライバーは、雨でもないのにニュータイヤでレースに参加する羽目になった。 削ったのか、使用して磨耗したのかはともかく、ほとんどのドライバーは溝が浅くなったタイヤでレースを戦った。「タイヤの加工は不可」というレギュレーションを厳格に運用するには、プロフェッショナルシリーズと同じように、ニュータイヤでレース前車検を受けるようにするのが最も近道だ。 ただ、それだとレースのコンセプトが少し変わってしまうし、なにしろ台車でニュータイヤ1セットを車検場に持っていくメカニックも必要になる。この決着は、おそらく難しい。
天候が急激に変化する岡山国際サーキット レース終盤でまさかの降雨が明暗を分ける
今回の第4戦クラブマンシリーズへのエントリー台数は56台。2015年からプロフェッショナルシリーズとクラブマンシリーズに分けられたが、3年目にして初めてフルグリッドの40台を超え、決勝レースが2レース行われることになった。 やはりトヨタ86&スバルBRZのkouki(後期型)が登場し、中古車市場へ流通したマシン(前期型)が増えたため、参加へのハードルが下がったのだろう。
中国山地の中に位置する岡山国際サーキットは、その立地条件に加えて、梅雨時期ということもあり、レースウィークは急な天候の変化が何度かあった。天気予報もまるで当てにならない感じで、そうした天気の読み、あるいは勘のようなものが、レース参戦にも必要になることもある。
予選は28台ずつに分けられて、実施された。予選1組はポイントリーダーである#771菱井將文選手(CUSCO BS 86)が1分53秒817でトップタイム。2番手には開幕戦以来のマシン不調を解消してきた#75手塚祐弥選手(栃木スバルBSBRZ P.MU)、3番手に前戦優勝の#126庄司雄磨選手(OTG AREA 86)が入った。 金曜日までトップレベルの速さを見せていた#500小野田貴俊選手(ネッツ東埼玉ワコーズED86)は、5番手となった。その理由はタイヤが新品だったこと。小野田貴俊選手はレース前車検で削ったタイヤと判定されたひとりで、想定外の新品タイヤの使用でタイムを出すことができなかった。
予選2組は、前戦をトラブルで失った#38神谷裕幸選手(N中部ミッドレススノコ86)が1分53秒759でトップタイム。 2番手には、なんとこのレース初参戦!で、プロフェッショナルシリーズに参戦している蒲生尚弥選手の実兄である#630蒲生真哉選手(ネッツ兵庫☆トミカ86R BS)が入った。兄弟で一緒にカートからレース経験をスタートさせており、スーパーFJに参戦経験もある。 3番手には#84橋本洋平選手(カーウォッチBS86REVO)。彼もまた小野田貴俊選手と同じ理由で、急遽ニュータイヤでのアタックとなったことが響き、前年のポール・トゥ・ウィンを再現できなかった。ただ参考までに、蒲生真哉選手も同じくニュータイヤへの変更を余儀なくされていての予選2位だった。神谷裕幸選手のタイムが菱井將文選手を上回ったのでポールポジション。2組が奇数グリッド、1組が偶数グリッドからのスタートとなった。
決勝レースではスタート直後の1コーナーで多重クラッシュが発生、そのマシン撤去のためにセーフティカーが導入された。その多重クラッシュの影響によって、庄司雄磨選手は19位へ、蒲生真哉選手は22位にまで順位を大幅に落してしまった。 解除されたのは4周終了時点で、そこから残り8周のレースが再スタートした。 ヴィッツレースでシリーズチャンピオンの経験もある神谷裕幸選手と、ジムカーナの現役ドライバーでありレジェンドでもある菱井將文選手。このトップ2台がまず抜け出していった。 菱井將文選手はあえて神谷裕幸選手を攻め込むことをせず、適度な距離を保つことでバトルを避け、3位以下との距離を開ける戦略に出たからだ。3位争いは手塚祐弥選手と橋本洋平選手が激しいバトルを繰り広げたことも、菱井將文選手の戦略を助けた。
レース後半に入ってジリジリと差を詰めた菱井將文選手だったが、そこで雨がパラパラと降り始めてしまった。マシンのセッティングの違いもあり、ウエットへとコンディションが変化していく中では、逆に神谷裕幸選手が差を拡げて、トップチェッカーを受けた。神谷裕幸選手は2013年から参戦してきたが、今回が初勝利となった。 2位は菱井將文選手、3位には橋本洋平選手が入った。 クラブマンシリーズはここまで4戦で、すべて勝者が異なる結果となった。そしてブリヂストンが2勝、ヨコハマタイヤが2勝という、拮抗した戦いとなっている。ここから抜け出すのは誰だろうか??
TOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Race 2017」第4戦(岡山県岡山国際サーキット) クラブマンシリーズ順位表
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