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7シリーズの転機はV12気筒エンジン搭載だった!──2世代目・BMW 7シリーズの思い出

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7シリーズの転機はV12気筒エンジン搭載だった!──2世代目・BMW 7シリーズの思い出

BMWのフラッグシップである7シリーズの歴史は1977年に登場した開発コードE23と呼ばれる初代から始まる。7シリーズという名前が付く以前は、1967年に登場した開発コードE3のBMW2500、BMW2800と呼ばれた大型サルーンがその前身にあたる。

BMWは2016年に創業100周年を迎えたが、現在のBMWの発展の基礎を作り上げたのは1960年代においてであった。1961年に発表したBMW1500はノイエクラッセ(ニュークラス)と呼ばれ、新しいスポーティサルーンのカテゴリーを創造した。この直系の後継車は、1972年に登場するE12と呼ばれる初代5シリーズであるが、評判が良かったノイエクラッセには発展系が多く存在する。そのひとつが、1965年登場の流麗な2ドアクーペボディをまとったBMW2000C、2000CSだ。また、1966年に登場した1600-02も発展系のひとつ。このあと1802→2002へ進化し、1975年に登場する開発コードE21のコンパクトスポーティサルーンの初代3シリーズにつながる。

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ちなみに、前述のE3も大型であるもののスポーティサルーンという性格を与えられたように、いまのBMW全ラインナップに共通するフロイデ・アム・ファーレン(駆け抜ける歓び)という開発コンセプトも1960年代より始まった。

これら基礎のもとに開発された2世代目・7シリーズ(E32)は1986年に登場した。初代に比べてややエッジーなモダンなデザインになったが、空気抵抗係数0.32は当時としては小さい数字だった。

フロントストラット、リアはセミトレーニングアーム式のサスペンション形式は当時のBMWの定石だった。また、安全性にも注意が注がれ、燃料タンクは後席クッション下に鞍型のデザインのものがレイアウトされた。衝突したとき1番つぶれにくい場所ということで当時採用されたが、いまではほとんどのクルマの定位置になっている。

後席の3点式シートベルトも、Cピラーからアンカーがでるものではなく、ショルダーベルトを中央側からかけるタイプだった。これは横からの衝突や横転したとき、乗員同士が頭をぶつけないようにするための工夫だった。当時からBMWは走りだけでなく安全性に関しても最大限の配慮をしていたことがわかる。

BMWはそもそもエンジン製造から始まった会社で、BMWという社名じたい「バエリッシェ・モトーレン・ヴェルケ」の3ワードの頭文字から成っており、その意味は「バイエルン地方のエンジン工場」である。そのためエンジン開発にはこだわりを持っていて、次々と最新技術を取り入れた新エンジンを投入するのはいまでも変わりない。

E32もデビュー当初こそ直列6気筒3430ccを搭載した735iのみだったが、1988年からはV型12気筒エンジンを750i/750iLに搭載し、大きな話題となった。なぜならドイツ車として戦後初めて、V型12気筒エンジン搭載したからだ。

エンジンコード「M70B50」のV型12気筒は、SOHCながら4987ccの排気量から300psのパワーと450Nmの最大トルクを発揮し、大型サルーンを無理せずスポーティに走らせることを可能にした。このV型12気筒は単なるパフォーマンスの要求から開発したものではない。大排気量ながら究極の動的完全バランスの12気筒によって、低回転での太いトルクと、高回転での芯が出たコマのような振動のない回転感によって上質な乗り味を提供するためだった。

また、高級車に搭載するV型12気筒エンジンだから故障して立ち往生することがあってはいけない。そのためBMWは各バンクに独立した電気系統と燃料系統を持たせた。つまり6気筒ずつ、2つのエンジンを搭載したかのように電気と燃料を2系統持たせておけば、どちらかが故障しても半分の6気筒は生き残るから、なんとか走って帰ることができる、という贅沢な機構だった。

しかし、燃料切れには対応できなかった、というエピソードを披露しよう。

このV型12気筒エンジンを搭載したフラグシップクーペの8シリーズ(850i)が1990年に登場した。新型が出た当時、BMWの本社があるミュンヘンで850iを借り出しニュルブルクリンクに向かった。このクルマでニュルを走る訳ではなかったが、新しいラグジュアリークーペとV型12気筒エンジンの組み合わせで長距離を走って見たかっただけだ。アウトバーンだけでなく、モーゼル川沿いのワインになる葡萄畑のあいだを走るという寄り道をしながらのドライブだった。往復1200kmを日帰りで走るというと強行軍ではあったが、予想よりも楽に走れたのはV型12気筒の余裕ゆえだったのかもしれない。

しかし、ミュンヘンへの帰り道、まだフランクフルトも通過していないところで、突然アクセルペダルを踏んでも加速しなくなった。エンジンの反応はアクセルペダルを踏んでも戻してもまったくない。約180km/hで走っていたが、徐々にスピードが落ちていくなか、追越車線から一番端の走行車線まで車線変更していった。それでも加速する気配はなく、安全な場所を探してそこに止めた。

燃料計の針はまだ1目盛り残っている。残りの走行可能距離を示すレンジ・メーターは“60km”を示していた。長距離ドライブなので、給油回数を減らして時間を節約して走ろうと思っていたので、燃料タンクはギリギリまで使おうとチェックしながら走っていたので、問題ないと思っていた。

非常時の電話を使ってレスキュー車を呼んだ。ADAC(アーデーアーツェーという日本のJAFに似た自動車連盟)のレスキュー車が1時間ほどで来てくれた。年配のサービスマンは、「これは新しいV型12気筒だね。このエンジンは電気と燃料は左右のバンクで2系統になっているから、故障しても片側は動くはずなんだが……」と、話しながら対応してくれた。彼がセルモーターを回してもエンジンがかかるそぶりも見せなかった。ADACのサービスマンは、「これはぼくの手に負えないからBMWのサービスカーを呼んであげよう」と、連絡した。

それからまた1時間待つと、いかにもベテランと新人といった2人のサービスマンが、銀と白のストライプが入ったBMWのサービスカーに乗ってやって来た。セルモーターを回してもやはりエンジンはかからない。シリンダーヘッドカバーを開けて、かなり大掛かりな作業に入るのかと思ったとき、ベテランのサービスマンが「ガソリンを5リッター入れてみろ」と、新人に指示した。その直前、エンジンルームに入ってくる燃料ホースからガソリンが出ているかチェックしたのだ。イグニッションオンにしても、燃料ホースからガソリンは1滴も出ず、これはガス欠かもしれないと考えたからだ。

この時点でもう1度燃料計を見ると、オレンジ色のランプが点灯し、針は完全にゼロを指していた。そしてレンジを示す数字は消え、「- - -」となっていた。

にもかかわらず、ガソリンを5リッターほど入れるとエンジンはすぐにかかり、安定して回転し始めたのだ! このあと、近くのSAでガソリンを満タンにしたのち、ふたたびミュンヘンまでの帰路についたのであった。

当時驚いたのは、ADACのサービスマンでさえBMWの新しいV型12気筒が、電気と燃料は2系統持っていることを知っていたことだった。さまざまなクルマの面倒をみなくてはいけないから勉強していたのかもしれないし、BMWの宣伝力かもしれない。とはいえ、ドイツ国内でもV12気筒エンジン搭載車は多くなかっただけに、どこで知ったのか興味深かった。

なお、事の顛末をBMWのエンジニアに話すと、「燃料計の針が下がるより速く走ったからだろう!」と、笑ってごまかされそれっきりだった。というわけで、いまだにこのトラブルの真相は判らないままだ。

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