アストンマーティンの2プラス2モデル「DB11」のV型12気筒エンジン搭載モデルに小川フミオが試乗した。素晴らしき贅沢かつスポーティな移動手段とは?
すばらしいエンジンフィール
“個性”を極めた結果──新型ジープ・グランド・チェロキーL試乗記
アストンマーティンDB11の12気筒モデルに乗ると、すばらしいフィーリングにホレボレとするはずだ。
デビューしたのは、2016年。2018年に「DB11 AMR」(12気筒)に取って代わられたあと、2022年に、AMRはなくなり、「DB11 V12」に名称変更された。ツインターボチャージャーをそなえて、470kW(630bhp)の最高出力と、700Nmの最大トルクを発生する。
DB11というと、4.0リッターV型8気筒が主力の感もあり、12気筒はより上位の「DBS」にイメージ的に結びついていた(私にとって)。12気筒を載せたDB11、2022年3月初頭に東京で乗って、すばらしいエンジンフィールに、いきなりヤラれた。シュンシュンとスムーズにまわるうえに、コクピットに響いてくる音色がみごとだ。
ぶ厚いトルクだから、マニュアル変速機だとあっというまにクラッチ板が擦り減っちゃうんだろう。700Nmのトルクは1500rpmから発生するので、ごく低速、あるいは高いギアでの低いエンジン回転域でも扱いやすいのだけれど、がーんっと高い回転まで引っ張って乗りたくなる。
いまさら12気筒なんて……と、思うだろうけれど、もしふところに余裕があるなら、このクルマに乗ってごらんになるといい。そう言いたくなるほど、ぶっとぶような気持ちのよさが堪能できる。
12気筒の真価
アストンマーティンがたいしたもんだ、と思うのは、いまの世のなかにあっても、12気筒エンジンをこうして大切にしている点だ。以前は6.0リッターの自然吸気式だった。5.2リッターはおなじく60度のバンク角をもち、主要部品のいくつかは改良を施されて流用されている。
最大の特徴は、ターボチャージャーを各バンクに1基ずつそなえたこと。同時に、CO2排出量も削減されたそうだ。DB11に搭載されてデビューしたときは600英馬力(bhp)だったのが、AMR(アストンマーティンレーシング)になったときに、630英馬力に引き上げられ、今回のV12に引き継がれた。
エンジン回転が3000rpmを超えると、12気筒は真価を発揮。静止から100km/hまでが3.7秒しかかからないというだけあって加速はウルトラ的にするどい。いっぽう、数字にならないフィーリングの部分で、みごとな出来映えを感じさせてくれるのだ。
アクセルペダルの踏みこみに敏感に反応してしゃーんっといっきに上の回転域までまわるときの、瞬間的な加速感と、ドライバーの耳に飛び込んでくる吸気や排気などからなるエンジン音、それに、ステアリング・ホイールを握る手と足に伝わってくるバイブレーション。かすかだけれど、シリンダー内の爆発をイメージさせてくれるのがしびれる。
今回は時間がなくて、都内のわずかな区間だけのドライブに終始してしまったのが心残りだけれど、このクルマで高速コーナーが連続するようなワインディングロードとか、サーキットを走れたら、もう心残りはない、と、思うんじゃないだろうか。
工芸品のような出来映え
ポルシェ「911」もすばらしくよく出来たスポーツカーであるが、あえて気筒数のちがいや価格帯など無視して較べさせてもらっちゃうと、ポルシェはダイレクト感が身上。こちらのDB11は、ドライブしていて“スアーブ(suave)”という英語が頭に浮かんだ。ワインを評価する際に、口あたりがいいとか好感度の高さを表現する単語だ。
12気筒のシュンシュンと回るフィーリングを感じながら、意外なほどの乗り心地のよさを味わっていると、からだがとろけそうになる。私はもう降りたくない、と、思った。
シートはレザーで張られたスポーティなものだが、いっぽうで、装飾的でもある。紳士靴でよく知られた「ブローギング」という装飾と、多色づかいのステッチが、エレガント。
12気筒のエンジンをフロント(前車軸うしろ)に搭載した後輪駆動という成り立ちは、スポーツカー好きには特別だ。フェラーリともまたちがうキャラクターで、ゆったり走っても気分がよい。
工芸品のような出来映えを味わえるのはいつまでだろうか……
アストンマーティンラゴンダでは、V12の未来について、いまのところなにも言及がないようだ。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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