夏休みのドライブに、カーナビがこっそり進化
執筆:Hajime Aida(会田肇)
【画像】VICSセンターの監視センターに潜入【カーナビへの配信を管理】 全15枚
道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)が7月に、カーナビを対象としたプローブ情報活用サービスの実証実験を全国へ拡大したと発表した。
これにより、VICSセンターが提供していたサービス対象路線は、従来の7万5767kmから16万7784kmへと倍増したことになり、カーナビを使った渋滞回避精度が飛躍的に向上する。
このプローブ情報を活用した実証実験は、VICS受信を可能とするカーナビを対象に提供されるもの。
すでに2020年4月からは関東1都6県(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川)で、2022年1月からは札幌エリア、愛知県、大阪府を加えて実証実験として実施されてきており、「利用者からの評価も極めて高かった」(VICSセンター)という。
そもそもプローブ情報は、クルマそのものが端末となって走行した実績から位置、速度、通過時刻などをデータとして収集するものだ。
VICSも一般道では光ビーコンによるアップリンクでデータ収集を行ってきた実績があるが、そのための車載機の普及率が低いこともあって思うようなデータ収集はできていなかった。
そこで、VICSセンターがもともと感知器を使って収集したデータに、各自動車・カーナビメーカーが収集しているプローブ情報を加えて補完・補強することで、データ密度を大幅にアップすることになった。
幹線道路以外の道路も活用できるようになり、これが全国展開されることで、よりスムーズな渋滞回避が可能となるわけだ。
その仕組みは? 転機は大震災の“通れる”情報
各自動車メーカーやカーナビメーカーから提供されるプローブ情報は、会員がクルマで走行することでそのデータがサーバーに蓄積される。
しかも、その収集に際しては感知器などの特別なインフラは必要がなく、車速パルスを持つ車両から発信されることもあって、トンネル内からも情報を発信できる。
また、今回提供されるプローブ情報は対象を乗用車だけに限っており、誤った情報が反映されにくいのも特徴だ。
ただ、実証実験に至るまでは紆余曲折があったようだ。
プローブ情報は各社がユーザーから独自に収集して来ており、それだけに競争領域として互いに融通し合うことはなかったのだ。
それが東日本大震災を1つの転機として、各社はプローブ情報を“通れる道路情報”として無料で公開するという過去にない取り組みを実施した。
そうした実績にもかかわらず、今回の取り組みに対しては「当初、各社の動きは鈍かった」と打ち明けるのはVICSセンターの常務理事 本郷俊昭氏。災害は特別であって、常時提供するサービスとはワケが違うというわけだ。
しかし、「VICSセンターがこの情報を束ねて競争領域から協調領域へと転換し、ビッグデータとして活用することで渋滞解決につながる。東京オリンピック2020でその技術を世界にアピールできる」(本郷氏)との訴えに各社の対応が軟化。
各社と交渉を重ね、ようやく協力を得られることになったという。
自然災害・au通信障害で活きた協調体制
複数の会社から情報提供を受けるメリットは想像以上に大きかった。
まず、災害への対応力が高いこともわかった。台風により停電が発生して感知器が使えなかった時でも、インフラに頼らないプローブ情報の補完により交通情報の提供が継続できたのだ。
また、発表当日を前後して発生したauの通信障害に対しても、auの通信モジュールを使っていたトヨタ車からはプローブデータが収集できなくなったが、別のキャリアを使っている他メーカーのデータを使うことで、渋滞回避に足りる十分なプローブデータは取得できていたという。
auの通信障害を契機に、緊急時のローミングについて議論されているが、少なくともVICS情報についてはこれが実現できていたわけだ。
では、この新たなVICSセンターが提供するプローブ情報は、どうやって受信できるのか?
受信だけなら、VICSに対応したカーナビであればすべて対応できる。
従来のVICS情報は実線で表示され、プローブ情報は破線で表示する(機種によって表示方法が異なる場合もある)。少なくとも表示は可能なので、提供開始日の2022年7月4日以降はいつの間にか「交通情報が増えた!」ことを実感するはずだ。
ただ、このプローブ情報をルート探索に反映するには条件がある。それはカーナビが「VICS WIDE(ビックス・ワイド)」に対応していることが必要なのだ。
変わっていくクルマ 渋滞回避のこれから
「VICS WIDE」は2015年4月から提供されている新世代のVICS情報で、最大の特徴は伝送容量が従来比で約2倍に拡充されたこと。
火山情報・大雨情報など緊急情報の提供もある。
これにより、最も普及しているFM多重放送でも一般道での渋滞回避を実現できるようになったのだ。つまり、今回のプローブ情報を使った渋滞回避も、同じようにVICS WIDEに対応している必要があるわけだ。
一方、近年普及しているディスプレイオーディオ(DA)でこの情報は受信できるのか?
もちろん、DA単体ではカーナビ機能を備えていないので受信できないのは言うまでもない。VICS WIDEに対応しているかどうかは、組み合わせたアプリに依存することになる。
ただ、各社とも独自にプローブ情報を収集していることもあり、情報の精度ははっきりと断言はできないが情報は比較的豊富だ。その意味ではVICS WIDEにこだわる必要はないかもしれない。
「渋滞を回避して目的地に効率よく着きたい!」
これは多くのドライバーにとって永遠の課題解決のテーマであることは間違いない。これまでも様々なトライアルは繰り返されてきたが、中でもプローブ情報は各社が独自に収集してきた、いわば“資産”でもある。
それがVICSセンターの仲介によって、その情報がようやく束ねられることとなった。これによって交通情報の精度は間違いなく向上した。
これから先、展開される自動運転の時代にもこうした取り組みは良い結果をもたらすだろう。今後のVICSセンターの取り組みに期待したい。
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