8月12日、小林可夢偉がNASCARカップ・シリーズの公式セッションにデビューを果たした。
この日、アメリカ・インディアナ州のインディアナポリス・モーター・スピードウェイのロードコースでは、第24戦『ベライゾン200・アット・ザ・ブリックヤード』のプラクティスと予選が行われ、可夢偉は23XIレーシングの67号車トヨタ・カムリで出走。日本人ドライバーとして初めて、トヨタの車両をカップ・シリーズで走らせた。
チームメイトが小林可夢偉のNASCAR初テストを絶賛「限界に対する感覚には本当に感銘を受けた」
セッション後、現地からのリモート取材に応じた可夢偉は、マシンの印象や13日の決勝に向けた展望を語った。
■予選でジェンソン・バトンを上回る
6月のル・マン24時間で発表された、可夢偉のストックカーレース最高峰カテゴリー初挑戦。その後可夢偉はレースウイークにチームに帯同したり、バージニア・インターナショナル・レースウェイやシミュレーターでのテストを重ね、今週末の実戦デビューに備えてきた。
12日、11時35分から行われたプラクティスでは首位から1.244秒おくれの90秒371を記録し、39台中の31番手でレースウイークをスタートさせた可夢偉は、続く予選ではポールポジションを獲得したダニエル・スアレス(トラックハウス・レーシング/シボレー)から1.109秒おくれの89秒077をマーク。28番手で予選を終えた。
走行時間が限られるカップ・シリーズのレースウイーク初日を戦った可夢偉は、次にように手応えを語った。
「20分の練習、その10分後に予選が15分という短い時間の走行になりました。初めて走るサーキットで、テストでも1日しか乗っていいないクルマでの予選は、正直まだまだいけるという自信はありますが、逆にそれでトップから1秒くらいということは、自分のなかでは非常に手応えは感じています」
「いままで自分が乗ってきたクルマとは大きく異なるとはいえ、たとえばブレーキを強く踏むコーナーであれば慣れていなくても戦えるレベルにあるので、クルマにさえしっかりと慣れれば、結構手応えはあるな、という感じです」
サーキットで実際にカムリを走らせるのはバージニアでのテストに続き2回目となるが、「マシンが重く、結構ロールもするので、直線でさえフラフラするんです」と可夢偉は重量級のカップ・カーに驚いている様子。
「ただ、そんな状態で初めてのサーキットでトップから1秒なら、結構いけるな、というのが正直な感想です」
なお、今大会には昨年来度々カップ・シリーズへのスポット出場を重ねてきている元F1王者のジェンソン・バトン(リック・ウェア・レーシング/フォード)も参戦しているが、予選は31番手。代役参戦しているル・マン・ウイナーのマイク・ロッケンフェラー(レガシー・モーター・クラブ/シボレー)も37番手で予選を終えており、可夢偉は彼ら非レギュラー陣を上回るリザルトとなった。
とくバトンとはプラクティス・予選ともにタイムが接近していたが、「なんとモーターホームの位置もジェンソンの隣。いろいろものが彼と近くて、こんな偶然あるのかな、と思って」と可夢偉。予選後は「クルマ降りて、『俺の方が速かったぞ』って言ったら、とりあえず引いてました(笑)」と、可夢偉の速さにはバトンも驚いていたようだ。
■昼の2時に帰るメカニック
ピットレーンのスピードリミッターがなく、ピットレーン走行中の速度が“手動”(足動?)調整になることや、独特のスタート方法など、スピード以外の部分でも慣れていかなければならない要素はあるとしつつ、「いろいろなことが新しいので、ここまで非常に楽しく来ています」と、可夢偉は変化を楽しんでいる様子。
また、イベントとしての特徴を尋ねられた可夢偉は、「日本のレースとは180度違う」と表現し、その一例としてガレージオープン/クローズの時間が厳格に定められていることを挙げた。
たとえばこの予選日、朝の9時30分にガレージオープンとなり作業が開始されるが、クローズは昼の2時だという。
「信じられます? その時間外で作業していたら失格なので、2時にはもうメカニックも帰る。実際(予選を終えた僕が)着替えて出てきた頃には、メカニックはリュック背負って帰ろうとしてましたからね」と可夢偉は驚きを隠さない。
「要するに何が大事かというと、持ち込みセットなんです。20分のプラクティスやってその10分後に予選。あとは決勝、ですから。その雰囲気はもう、日本のモータースポーツからは遥か彼方のような……『準備してきたことを現場でサクサクっとやる』みたいな感じで、日頃僕らがレースしている環境からすると、正直驚きの連続です」
NASCARでは走行/作業時間が少ない分、ファン対応やスポンサー対応の時間がしっかりと確保されており、「エンターテインメント性が高く、夢のある世界だなと思います」と可夢偉。
「アメリカならではの部分なのですが、モータースポーツをやっているこの場がすごく楽しめる環境ですね。また実際、レベルがすごく高いドライバーがたくさんいて、彼らはオーバルやダートトラック上がりという全然(自分たちと)違うところからステップアップしてここまで来ていて、運転のスキルなども全然違うので、そういったところも楽しいなと思います」
NASCARの世界から見ると“外から来た”可夢偉だが、排他的な雰囲気は感じていない。そして今回の参戦を通じては、日本とアメリカの“架け橋”になることもイメージしているようだ。
「やっぱり僕がいろいろなカテゴリーに乗っていたという部分で、注目度は確かにあるし、NASCARはクローズドな印象もありましたけど、非常にウェルカムな雰囲気で迎え入れてくれています」と可夢偉は言う。
「アメリカの人に『日本ではNASCARの放送がない』と言うと、ビックリされます。ただ、日本人のモータースポーツファンって、NASCARのレースは好きだと思うんです、純粋に。だから今回は、それを伝えに行くというのもありますし、GAORAさんの中継で日本の方が盛り上がってくれば、アメリカの人たちも『日本も可能性があるな』と感じてくれて、昔(1990年代後半)みたいに『また日本に行こうか』なんて考えてくれたらいいなと思います」
普段とは異なる環境のなかで、さまざまな思いを抱えて新たなチャレンジをしている可夢偉。「まだまだ、巻き返すチャンスはあると思っている」という決勝は13日の現地時間14時30分(日本時間14日3時30分)にスタート。日本では、GAORAで生中継される。
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