魅力たっぷりの電動コンパクトSUVがまもなく上陸へ!?
そう遠くないタイミングでの日本市場にも上陸するとウワサされているヒョンデのコンパクトSUV「インスター」。すでに韓国や欧州で販売がスタートしていますが、街乗りにジャストなボディサイズとおしゃれなデザインで高い評価を獲得しています。
【画像】「えっ!…」全長3825mmのコンパクトSUVまもなく上陸!? これがヒョンデの力作「インスター」です(30枚以上)
果たしてこのコンパクトBEV(電気自動車)は、どんな実力の持ち主なのでしょう? ひと足先に本国・韓国の公道で試乗してきました。
2022年に日本市場へ再参入を果たした韓国メーカーのヒョンデは、「BEV/FCEV(燃料電池車)のみのラインナップ」、「オンライン販売のみ」という大胆な販売戦略を採っているものの、2023年の販売台数は489台。「現在は台数うんぬんよりもブランドの認知拡大に重きを置いているフェイズだ」と彼らはいいますが、もう少し台数を伸ばしたいというのが本音でしょう。
日本ではすでにさまざまなBEVが販売されていますが、それらは大きく分けて「航続距離400km以上のSUV」と「航続距離200km前後の軽自動車」に二分されています。
なかでも軽自動車のBEVは、近距離が中心という“使用パターン”、1台でまかなうのは厳しいけれど2台目なら、といった“好奇心”、さらには、補助金を活用すれば比較的安価といった“価格面”などから、日本におけるBEV普及の切り札のひとつともいわれています。
ただ筆者(山本シンヤ)としては、取り回しの良いサイズと、1台あれば事足りそうな300~350kmくらいの航続距離を備えたモデル……つまり、B~Cセグメントのコンパクトモデルが欲しいのです。
それに一番近いのは日産「リーフ」とBYD「ドルフィン」ですが、本記事でフォーカスする「インスター」は、同カテゴリーにヒョンデが投入する新たなモデルです。
「インスター」のエクステリアは、2021年に発売された韓国版の軽自動車「キャスパー」(内燃機関モデル)のデザインをベースとしており、全長(プラス230mm)とホイールベース(ぷらす180mm)を拡大。
といっても、全長3825mm、全幅1610mm、全高1575mm、ホイールベース2580mmと、トヨタ「ヤリス」くらいのコンパクトサイズです。ちなみに日本市場向けは、ルーフレールを取り外して全高を1550mmに抑えてくると予想します。
全体的なデザインはベースモデルである「キャスパー」と共通(パッと見た印象は、スズキの「ハスラー」や「クロスビー」にも似ている!?)ですが、コロッとした雰囲気の「キャスパー」に対し、ロングホイールベース化と大径タイヤ(205/45R17のオールシーズンタイヤ)&専用アルミホイールの採用などにより、小さいけれどドシっと構えた、落ち着いた印象に見えます。
ちなみに、前後のライト類は「インスター」独自のアイテムで、「アイオニック5(IONIQ 5)」で採用されたポリゴンデザインを水平展開することで、BEVらしい近未来感を上手にプラスしています。
インテリアは、奇をてらわないオーソドックスなインパネレイアウトのカジュアルなデザインですが、ステアリングにはエクステリアと同様、ピクセルのグラフィックがあしらわれています。
メーターはフル液晶(10.25インチ)で、コックピット中央にナビつきのインフォテイメントタッチスクリーン(10.25インチ)を採用するなど、カジュアルだけど先進的な雰囲気。
装備は上級車顔負けの充実ぶりで、運転支援機構(アダプティブクルーズコントロール+ステアリング制御)、パドルシフト(回生量コントロール)、電動パーキングブレーキ&ホールド機能、ステアリングヒーター、シートヒーター&空調、ワイヤレス充電機能などを装備しています。
フロントシートは左右独立式ながら、ベンチシート仕様でウォークスルーも可能です。全幅が1610mmしかないのでさすがに左右席の間隔は狭めですが、前後方向はコンパクトサイズと思えない広さ。
特にリアシートは、ロングホイールベース化とシートスライド機構を活用することで、身長170cmの筆者のフロントシートポジションでも後席乗員の足元にはこぶし2.5~3個の余裕があり、大人も足を組んで座れるレベルです。シートアレンジは多彩に用意されていますが、操作に少々コツがいるのはちょっと残念なところです。
パワートレインは、「スタンダード」と「ロングレンジ」の2種類が用意されます。今回の試乗車はロングレンジで、フロントに積まれる最高出力115ps(84.5kW)、最大トルク147Nmのモーターで前輪を駆動します。床下には、47.0kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。WLTPモードでの航続距離は370km(15インチ仕様)/360km(17インチ仕様)で、最大120kW級の急速充電にも対応しています。つまり、街乗りだけでなく中長距離もカバーするコンパクトBEVとうわけです。
プラットフォームは、内燃機関車である「キャスパー」と同じ“K1プラットフォーム”を採用していますが、BEV化に伴うホイールベース拡大に加え、床下へのフロアメンバー追加でバッテリー搭載による重量増に対応。それに伴い、ステアリング系のギア比変更や取りつけ剛性アップ、サスペンションのバネやショックアブソーバーの最適化などもおこなわれています。
さらに、二重シールやアコースティックガラス、補強されたラゲッジボード、アンダーカバーなどの採用により、風切り音やロードノイズを抑制するなど静粛性アップも図られています。
当たり前のことが当たり前にできている走り
そんな「インスター」の走りはどうだったのか? 今回は2日間に渡り、韓国の一般道や高速道路を走りましたが、コンパクトカーとは思えないドライブフィールにビックリ。試乗前は「韓国の軽自動車から派生したBEVなので、走りには割り切りが必要かな?」と勘ぐっていましたが、いい意味で予想を裏切られました。
ステアリング系は、取り回し重視の軽めの設定ですが、手ごたえがシッカリしているのでフワついた感じはありません。
コラム式の電動パワーステアリングは若干フリクションが感じられ、なめらかなフィールとはいかないものの、ドライバーの操作には忠実な印象です。
フットワークは、バッテリー搭載による低重心化と前後重量配分の適正化、さらに、ロングホイールベース化が大きく効いています。
直進時は全幅1615mmであることを忘れてしまうほどドッシリしており、ステアリングに軽く手を添えているだけでビシッとまっすぐ走ります。
ハンドリングは、スポーティやワクワクといった過度な演出は一切なく、操作した分だけ素直に曲がってくれるピュアな印象です。
応答性や挙動変化を含めたコーナリング一連の流れはおだやかながらダルではなく、旋回時はまるでトレッドが拡大されたかのような安定感と前輪駆動らしからぬ4輪を効果的に使った姿勢で曲がり、そして、ちょっと無茶な操作をしても基本は安定方向……などの乗り味を実感しました。要するに、当たり前のことが当たり前にできている走り、というわけです。
快適性は、オールシーズンタイヤ特有の硬さを感じない、といえばウソになりますが、ストローク感の強いサスペンションによる快適性は多くの人が「乗り心地いいね」と感じることでしょう。
ちなみに、韓国の一般道や高速道路のサービスエリアなどには、スピードを落とすためのバンプがいくつも設置されていますが、それを乗り越えるときのショック/や振動も上手に減衰され、乗員にはあまり伝わってきません。
ただそれがゆえに、高速道路の大きなうねりではショックの収まりの悪さが少々気になりました。ヒョンデの他のモデルは、日本仕様に専用のセッティングが施されていますが、「インスター」の日本仕様はどうなるのか? 個人的にはもう少し操縦安定性重視の仕立てになると予想しています。
静粛性は、BEV化に伴うボディ剛性アップによる振動低減、アコースティックガラスや2重シール、ラゲッジボードやアンダーカバーの採用などにより、ロードノイズに不利なオールシーズンタイヤ、風切り音に不利なボディ形状ながら、それらが気にならないレベルにまで抑えられています。ちなみに、低速走行時は車両接近警報音が最も気になるくらいの静かさでした。
パワートレインは、スペック以上の力強さを実感。韓国は日本よりもドライバーの運転がアグレッシブ(⁉)なので瞬発力が求められますが、そんなシーンでもへっちゃらで、交通の流れをリードできます。ただし、アクセルペダルを踏んだときのトルクの“立ち上がり”は強いものの、そこから先の“伸び”はいまひとつかな……と。
ドライブモードは3種類(ECO/ノーマル/スポーツ)が用意されていますが、「ノーマル」でも加速の立ち上がりが少々元気すぎる感じがしたので、日本仕様は「ECO」と「ノーマル」の間くらいになると好ましいでしょう。
BEVで気になる電費は、高速7割、一般道3割くらいを何も意識せずに走らせても8.5~9.0km/kWhを記録。走行前の航続距離とトリップメーター+残りの航続距離の誤差も少ないため、おそらく実用での航続距離は350km前後までいけるのではないかと思います。
* * *
さて、そろそろ結論とまいりましょう。
「インスター」はある意味、“日本車よりも日本に最適なBEV”といえるのではないかと感じました。
もちろん、韓国車に対してはさまざまな感情を抱く人もいると思いますが、少なくともハードウェアに関しては、日本車もウカウカしていられないレベルにあると思います。
気になる価格は、海外メディアが「欧州で2.5万ユーロ以下を約束」と記しています。日本では、兄貴分となる「コナ」が400~500万円であることを踏まえると、フル装備で消費税込300~350万円くらいとなることを期待しています。補助金を活用すれば、多くの人にとってかなり現実的な選択肢になることでしょう。
ひとつ気になる点を挙げるとすれば、「ヒョンデを選んだ」といううれしさが感じられにくいことです。もちろん、工業製品としてはとても優れているのですが、クルマという商品の魅力は? と問われると、残念ながら“いい人”で終わってしまうのです。
実はこの辺りの印象は、ヒョンデの他のモデルでも抱いてしまいがち。思わず“指名買い”したくなるような決め手に欠けるのが、残念なところです。
個人的には、ハードウェアが優れているからこそ、しっかり味をプラスして“らしさ”をより強く表現できれば、ヒョンデはもっと化けるだろうと思っています。
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