アウディの新型「Q6 e-tron」に、小川フミオがスペインで乗った。新しいプレミアムEV(電気自動車)の実力に、ひと足はやく迫る。
まるでコンセプトカーのように新鮮
アウディが新型Q6 e-tron(イートロン)というバッテリー駆動のSUVを2024年3月に発売。さっそく6月初旬、スペイン・バスクのビルバオでテストドライブの機会を得た。大変乗りやすく、エッジの効いたデジタル技術満載の、印象的なモデルだ。
Q6 e-tronは、日本にもすでに導入されている「Q8 e-tron」と「Q4 e-tron」 のギャップを埋めるモデル。全長4771mm、全高1648mmのボディを2899mmのホイールベースを持つシャシーに載せている。
シャシーはアウディ(というかフォルクスワーゲングループ)が「PPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)」と、呼ぶ上級バッテリー車専用に開発されたもの。ポルシェが24年1月に発表した新型「マカン」(すべてエレクトリック)と共用だ。
ビルバオで実車を観たとき、フロントマスクを中心に、ボディデザインに目をうばわれた。新世代のシングルフレームグリルは濃い色で塗られ、それをボディパネルが抱き抱えているように見える。まるでコンセプトカーのように新鮮だ。
先頃フェイスリフトを受けた「e-tron GT」も同様のフロントマスクになったように、最新のスポーティさを表現する。力強さのあたらしい提案だ。特に明るい色の車体色を選ぶと、デザイン表現の妙味が際立つ。
私が乗ったのは、Q6 e-tronは床下に100kWh(ネットで94.9kWh)と大容量のプリズムタイプのバッテリーを搭載し、前後1基ずつのモーターを使う全輪駆動だ。
一充電走行距離は625km。とりわけ今回は270kWの高速充電が使えるようになっていて、255kmの走行レンジを確保するのに10分。10から80%の充電にかかる時間は21分という。
Q6 e-tronは285kWの最高出力と、フロント275Nm、リア580Nmの最大トルクを持つ。足まわりにフルエアサスペンションをそなえた(おそらく最上級)仕様だった。日本に導入されるかどうかわからないようだが、パッシブダンパーをそなえた仕様も用意される。
走ってまず印象に残ったのが、正確なステアリングをはじめとする操縦姓の高さだ。全幅は1939mmあるので、ビルバオから70kmほど離れたサンセバスチャンの目的地に向かう、まるで長野の山道のように幅員の狭い道路でも、時にはゆっくり走る必要があったものの、車体の大きさを持て余すことはなかった。
高速では、静かで、乗り心地がよく、そのためといってはなんだけけれど、速度感が希薄だったのも事実。速度が上がるのも速く、たびたび焦った。遵法を意識するためには、車両の速度コントロール機能を使ったほうがいいかもしれないと思ったほどだ。
Q6 e-tronは、足まわりがややソフトめで、高速での車体の動きは路面の影響を受けやすい。そしてカーブに入っていくときのボディのロールも、やや大きめ。過大ではないし、すぐ慣れるので、操縦姓の面でこれが欠点にはなっていない。
ポルシェのeマカンとの違いは、大きいようで、「プラットフォームを共用するといっても、アウディ独自の乗り味をしっかり追求しています」と、シャシー開発を担当したオスウィン・レーダー(e-tron GTなども担当)は話していた。
Q6 e-tronの印象は、アウディの開発者が語るように「ファミリーで快適に乗っていられる」というものだ。ガソリンタンクも駆動系のプロペラシャフトもないため、室内は広い。後席空間も、レッグルーム、ヘッドルームともに余裕がたっぷりある。クッション性もホールド性もよいシートによる乗り心地のよさも魅力的だ。
スポーツ性を好むひとのためには、このあとRS Q6 e-tronが控えていると聞いた。バッテリー駆動のスポーツEVは、ひとつのトレンドともいえ、アウディがどんな仕様を見せてくれるのか。それも楽しみだ。
もうひとつ、ユニークなのがデジタル技術を、インフォテインメントに惜しみなく使っている点。ひとつはパノラミックディスプレイという、新しいデザインテーマを持った、ドライバー用ディスプレイを使って、充電中にゲームが楽しめること。
もうひとつは、助手席専用のモニタースクリーン。ドライバーからは見られらないマスク機能を持ち、走行中に(こっそり)ビデオなどを楽しめる。ヘッドレストにオーディオスピーカーが埋め込まれた仕様もあり、個々の席のパーソナル化が進んでいるのも、“技術による先進”を、スローガンに掲げるアウディらしいといえる。
日本への導入は「未定」と、日本法人のアウディジャパン。欧州と北米での発売は24年中というが、日本ではその先になるかもしれない。価格もやはり未定というが、Q6 e-tronでも1000万円台になりそうだ。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)
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