FRPボディのフェラーリ 308GTBは、依然として高値安定中?
自動車エンスー界において毎年8月の恒例行事となっている「モントレー・カーウィーク」では、中核イベントである「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」や「ラグナセカ・モータースポーツ・リユニオン」にくわえて、欧米を代表する複数のオークションハウスが、カルフォルニア州モントレー半島の各地でクラシックカー/コレクターズカーの大規模オークションを開催しています。そんな中、RMサザビーズ北米本社が8月15~17日にモントレー市内で開いた「Monterey 2024」オークションでは、フェラーリ「308GTB」のファーストモデルにあたるFRPボディの最初期型が出品されました。今回はそのモデルのあらましと、注目のオークション結果についてお伝えします。
納屋物件フェラーリ! 事故車でも1000万円オーバーの「308GTBヴェトロレズィーナ」は適正価格なのか?
ピッコロ・フェラーリの隆盛を決定的なものとした傑作とは?
昨今人気の1970年代~1980年代スーパーカーの中でも、フェラーリ「308GTB/GTS」が、クラシック・スーパーカー入門編として世界的に高い評価を得ていることはご存じだろう。
1975年のパリ・サロンにて初お披露目された308GTB。その最初の数年間に生産された車両は、フェラーリ製ストラダーレ(ロードカー)としては特異なFRP製のボディを持つ。そしてこのFRP製の308GTBのことを、イタリアでは「Vetroresina(ヴェトロレズィーナ)」の愛称で呼ぶという。
「ヴェトロ」とはガラスのこと。そして「レズィーナ」はレジン、樹脂を意味する。つまりガラス繊維を樹脂で固めた「グラスファイバー(FRP)」をそのままイタリア語としたニックネームである。
ピニンファリーナのデザインしたボディの架装は、当時フェラーリ社の傘下に収まったばかりのカロッツェリア・スカリエッティが担当することになった。ところが、当時イタリアで吹き荒れていた労働争議の影響を受けて、開発段階で使用を予定していたスチール製ボディパネルの生産が間に合わなくなる可能性が高まっていたため、発売当初はマラネッロ製ストラダーレとして初めての経験となるFRP製ボディが架装されることになったとのこと。しかし、実際に308GTBの生産が軌道に乗ったのち、1977年6月以降の生産分はスチール製(開口部はアルミパネルを併用)に置き換えられることになった。
ちなみにスチール化された当初は、公称データの車両重量はFRP時代から不変とされていた。しかし実際にはヴェトロレズィーナに対して、スチールボディ車両は150kg~200kgほど重くなったとも言われているようだ。
いっぽうミドシップに横置きされるパワーユニットは、バンクあたりDOHCヘッドを持つ90度V8「ティーポF106A」エンジン。1973年に先行デビューしていた「ディーノ308GT4」と共用のものを、同じく横置きされた5速マニュアルのトランスミッションと組みあわせた。
このエンジンの総排気量は2926ccとされ、4基のウェーバー社製ツインチョーク式キャブレターが装着された初期のイタリア本国/EC仕様では255psのパワーを発揮。その結果として250km/h級の最高速度を達成し、「ピッコロ・フェラーリ」と呼ばれながらも侮れないスーパーカーとなっていたのだ。
純正色のレアなボディカラーのおかげ? 3700万円のハンマープライス
このほどRMサザビーズ「Monterey 2024」オークションに出品されたフェラーリ 308GTB ヴェトロレズィーナは、シャシーナンバー「20695」。もともとは旧西ドイツ向けのヨーロッパ仕様として製造され、1977年2月14日に、ヘッセン州ハダマールに住むベルナルド・クマー氏へと、新車で納車されたものとのことである。
カラースキームは、「オーロ・キアーロ(ライトゴールド)」のボディカラーに「タン・レザー・インテリア」の組み合わせ。つまりは現在と同じ仕立てで、カーステレオや純正エアコンは装備されていなかった。
この308GTBは、1980年代にヨーロッパからカリフォルニアへと移り、カリフォルニア州バークレーに本拠を置くフェラーリ・レストアラーの第一人者、パトリック・オッティス氏をはじめ、多くの著名なフェラーリ愛好家のもとを渡り歩くことになる。
2009年、このクルマはカナダに移り、オンタリオ州トロントの「ロックス・オートモーティブ・レストレーション」社に委託されて、新車同様のコンディションに戻すためのフルレストアに着手。308のスペシャリストとして、カナダのフェラーリ界で高い評価を得ているというロックス社は、約1200時間をレストアに費やしたことがわかっている。
そのレストアが完了したのち、2018年にニューヨーク州ワトキンス・グレンで開催された「フェラーリ・クラブ・オブ・アメリカ・アニュアル・ミーティング」に持ち込まれた。そこでは審査で99.5点を獲得し、「プラチナ賞」および「コッパ・ベッラ・マッキナ」を受賞、さらにショーの最優秀「3シリーズ」フェラーリに選ばれたとのことである。
レストア後の走行距離は1000km未満と報告されており、純正ポーチ付きのマニュアル一式、純正ツールキット、ジャッキ、サービス履歴を示すインボイスやレストア前/レストア中の写真を含むヒストリーファイルが付属している。
「ヴェトロレズィーナ」の生産台数は712台と少ない
現在の国際クラシックカー・マーケットにおいて、フェラーリ308GTB/GTSとその発展モデルたちが「クラシック・フェラーリ入門篇」として高い人気を得ていることは、もはや誰もが認めることであろう。
そして、同じ308GTBシリーズの中でもスチールボディに独ボッシュKジェトロニック式インジェクションを組み合わせた「308GTBi」のマーケット相場価格は比較的安価で、スチールボディ+キャブレター仕様の「308GTB」と、気筒あたり4バルブヘッドを与えられた最終型「308GTBクアトロバルボーレ」がそれに次ぐ相場感となっている。
それに対して「ヴェトロレズィーナ」は、わずか712台(ほかに719台説など諸説あり)とレアであること、また、キャブレター仕様のエンジン+軽量なFRPボディを持つことから、一連の308GTBの中でも最もピュアと目されていることも相まって、多くの場合でもっとも高価な308GTBと見なされているようだ。
今回のオークション出品にあたり、RMサザビーズ社営業部門は現オーナーとの協議のもと、20万ドル~27万5000ドル(邦貨換算約2949万円~4042万円)という、昨今の「ヴェトロレズィーナ」人気を物語るようなエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
そして、モントレー市内の大型コンベンションホールを会場に行われた競売では、順当にビッド(入札)が進んだようで、終わってみれば25万7600ドル、日本円に換算すれば約3700万円でハンマーが落とされるに至った。
この落札価格は、昨今の308GTB ヴェトロレズィーナの流通価格と比較しても、ちょっと高め。その理由として推測されるのは、レストアされているとはいえ希少なボディカラー/インテリアの仕立てに、新車時のオリジナルがたしかに残されているという事実が大きく反映していることにあると思われるのだ。
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