秘境のターミナル駅、備後落合駅に行ってみた
乗換駅と聞いてどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。頻繁に多方面から列車がやってくるターミナル駅や、にぎやかな駅という印象を持つ人が多いのではないかと思います。
しかし広島県にある「備後落合(びんごおちあい)駅」は、芸備線と木次線が接続する乗換駅であるにも関わらず、2025年3月現在で1日に11本しか列車が発車しません。駅員も不在という「秘境のターミナル駅」として、鉄道ファンには知られた存在です。ところが近年、そのギャップで脚光を浴びるようになり、利用客が増加しているとのことです。
そこで筆者(遠藤イヅル)は、どのくらい活況なのかを確かめたく、列車で訪問してみることにしました。訪れたのは青春18きっぷが利用できる時期の平日です(以下、ダイヤの記載は2025年3月改正前)。
備後落合駅は、広島駅から岡山県新見市の備中神代(びっちゅうこうじろ)駅までを結ぶ芸備線の途中駅であり、山陰本線の宍道駅(松江市)を起点に南下する木次(きすき)線の終着駅です。今回は山陰から山陽に抜けるルートを選択したので、スタート地点は宍道駅。まずは山陰本線に乗り宍道駅までやってきました。
木次線は始発駅から「ヤバ…座れない!」
宍道駅発の木次線は1日10本(観光列車「あめつち」を含むと11本)が設定されていますが、掲出されている時刻表をよく見ると、備後落合行きは11時台と14時台の2本しかなく、残りは木次駅か出雲横田駅止まりです。
しかも11時台発の列車は、途中の木次駅から備後落合駅まで工事運休する日もあるため、そうなると宍道駅から備後落合駅まで移動できるのは1日1本、ということになります。
筆者は11時18分発の備後落合行き1447Dに乗るのですが、2両編成のキハ120形ディーゼルカーが入線する前から、宍道駅の木次線ホーム(3番線)は1つのドアにつき5~10人ほど並んでいます。閑散区間を抱えるローカル線に乗るイメージでいたため、思った以上の盛況にびっくりです。しかも平日……!
列に並ばないで車両を撮影していた筆者は、「しまった、これではボックスシートには座れないな」と思いました。
しかも1両は「途中切り離し!」
その予感はあたり、車内に乗り込んだ時にはもうロングシートしか空席は残っていません。キハ120形は16m級で車体が小さく、この日使われていた200番台はクロスシートを備えるものの、座席数はわずか16名分のみ。2両編成では32名分ありますが、この列車は後ろ1両を出雲横田駅で切り離してしまうのです。
筆者はクロスシートに座り車窓を眺めながらのんびり駅弁でも食べよう……などと考えていたのですが、その願いも叶わず。しかも地元客らしい乗客は、ほぼいない様子。これは備後落合駅までクロスシートでは移動できない、ということを暗に示すものでした。
とはいえ朱色5号、いわゆる「タラコ色(首都圏色)」に塗られたキハ120形は国鉄時代を思わせる風情を放っており、座り心地の良いロングシートでの旅やよし、という気分なのは確かです。
木次線は路線距離81.9km、駅数は18駅ですが、1147Dはこの区間を3時間7分もかけて走ります。平均速度はなんと約26km/hという足の遅さです。木次線の主要駅である木次までは6駅で、所要時間も40分かからずに到着しますが、ここから備後落合までは約2時間半の長丁場となります。
とはいえ、出雲横田駅での10分以上の停車や、出雲坂根駅でのスイッチバックなどもあって、その時間はあっという間に過ぎて行きました。なお出雲横田駅で1両編成になったあとは、座席がほぼ埋まるほどに車内は混んでいました。
2023年における出雲横田駅~備後落合駅の平均通過人員(人/日)は72名というデータがあるのですが、この列車でその半分を賄う勢いです。
そして14時21分。大雨だった宍道駅から一転して薄日が差す中、1447Dは定刻通りに備後落合駅の1番線へ到着。予想通り、乗客はほぼこの駅までの乗り通しでした。
1日1回「備後落合のゴールデンタイム」到来!
筆者は備後落合駅から西の広島方面に向かうため、14時40分に2番線を出発する芸備線三次(みよし)行きに乗車します。ホームを挟んで向かい側の3番線には、備後落合から東に向かう14時42分発の新見行きもスタンバイしています。
すべての番線に列車が停車するのは、1日を通じてこのわずかな時間のみで、まさに備後落合駅のゴールデンタイムです。備後落合駅がターミナル駅らしい活気をわずかに取り返す瞬間でもあります。
しかし三次行き・新見行き、さらに木次線の折り返し宍道行きが44分に発車すると、次に備後落合駅を発つ列車は17時台までないため、駅には再び静寂が訪れます。
備後落合駅を発車する11本の内訳は、木次線が9・14・17時台の3本、芸備線広島・三次方面が6・9・14・17・19時台の5本、そして芸備線新見方面が6・14・20時台の3本で、14時台以外は接続性が考慮されていないことがわかります。
木次線から来た乗客たちは、三次行き・新見行きが発車するまでの約20分間、駅舎内に掲出されたかつての備後落合駅や芸備線、木次線を偲ばせる写真を見たり、駅構内を撮影したりと、めいめいが楽しんでいる様子。乗客以外にも、クルマやバイクでアクセスしてきた人も多いため、ターミナルとはいえ狭い駅舎内は人でいっぱいで、その賑やかさ、人の多さは想像以上でした。
さらに駅構内では、元国鉄機関士で、備後落合駅でボランティアガイドを務める永橋則夫さんによる解説を聞くこともできます。永橋さんが語る昔日の備後落合駅の話に、多くの人が耳を傾けていました。そのほか永橋さんが駅にいる時間なら、永橋さんが作った往年の備後落合駅を再現したNゲージジオラマの見学も可能です。
現在ではその閑静さがむしろ人を惹きつける備後落合駅ですが、かつては山陰・山陽間の陰陽連絡における重要な役目を担っていました。
かつては確かに“要衝”だった
備後落合駅の開業は1935(昭和10)年。蒸気機関車が現役の時代には、機関区(米子鉄道管理局・備後落合駐泊所)が存在し、ターンテーブル、機関庫、関連する宿泊施設や官舎、詰所が建ち、鉄道マンが100人以上も働く要衝でした。それに合わせて駅前も発展。旅館、理髪店、食堂などを構え、山間ながらも活気溢れる町並みを作っていました。
昭和30年代に入り、蒸気機関車が牽引する列車がディーゼルカーに置き換わって職員数も減ったものの、準急や急行の「ちどり」「たいしゃく」などが発着し、引き続き交通の結節点であり続けました。
しかし沿線人口の減少、“陰陽連絡”の主役が伯備線経由になったこと、モータリゼーションの発達などに伴い次第に衰退。1997年に無人化され、2002年には広島~備後落合間を結んでいた急行列車も廃止されたほか普通列車の本数も漸減。2021年時点での乗車人員は14名にまで減少しました。
現在の駅構内には、開業時に建てられた駅舎とターンテーブル・給炭台などがわずかに往時の姿を伝えるのみ。「眠らない駅」とまで呼ばれた過去が嘘のように静まり返っています。
前出した備後落合駅を通っていた急行「ちどり」は、芸備線・木次線を経由して広島~米子間で運転されていました。広島~米子間を乗り換えなしで結ぶ列車として利用率が高く、1980(昭和55)年まではなんと夜行便も運転されていたほどです。
1972(昭和47)年の伯備線特急「やくも」運転開始、そして1975(昭和50)年に山陽新幹線が全線開通後は次第に乗客を減らし、1990年には木次線への乗り入れを中止して広島~備後落合間に短縮。そして2002年に急行「みよし」に編入されて廃止を迎えています。
もう一つの急行「たいしゃく」は、広島~新見・岡山間を芸備線・伯備線経由で結んでいた列車です。広島~岡山間は新幹線「のぞみ」なら約30~40分で到着しますが、「たいしゃく」は広島~岡山をなんと4時間以上もかけて走っていました。今では考えられない経路です。1972年に新見~岡山間、1991年には備後落合~新見間の運転をやめ、「ちどり」と同じく2002年に廃止されました。
アプローチ困難な駅だが、行く価値は大
ところで、筆者が鉄道旅行を始めた年である1984年の時刻表(7月号)を見てみたところ、備後落合駅を発車する列車は芸備線広島方面が急行「ちどり」「たいしゃく」を含めて12本、新見方面が8本、木次線宍道方面が同じく急行「ちどり」を含め8本あり、合計で28本設定されていることがわかりました。
筆者は1980年代末に備後落合駅へ行った際、駅にはまだ活気があり、ホームで立ち食いうどんを食べたことを思い出しました。
今回、山陰本線側からアプローチして備後落合駅に向かいましたが、岡山方面から行く場合だと、新見乗り換えで備後落合まで行く列車は1日2本しかありません。しかも2本目は備後落合着が19時台で、乗り換え列車がすべて終わっているため乗車は非現実的。実質的には1日1本という状況です。
広島方面からだと芸備線を三次で乗り換える必要がありますが、三次から先、備後落合行きが4本出ており、宍道ルート・新見ルートより比較的移動は容易です。ただし、三次発14時台の列車以外は、宍道行き・新見行きともに備後落合駅で1~5時間待ちという接続の悪さで、移動の際に大きなロスが生まれます(そのロスを楽しむのもまた、鈍行旅の一興ではあるのですが)。春の18きっぷシーズンに備後落合駅に列車訪問したい! と思っている人は、くれぐれも時刻にご注意ください。
※ ※ ※
JR西日本では、芸備線のうち輸送密度が低く、地元の足として機能していない備後庄原~備中神代間68.5kmの「今後」について地元と協議を開始しています。うち備後落合~東城間は、100円の収入を得るのに「1万1766円」(2021~2023年度平均)かかるというJR西日本でズバ抜けた赤字区間となっています。
また、利用客が少なく、豪雪などで運休が多い木次線の出雲横田駅~備後落合駅間も、JR西日本は沿線自治体へ協議を申し込んでおり、予断を許さない状況です。話し合い次第では備後落合駅を通る路線が消滅し、備後落合駅も廃止される可能性は捨てきれません。現状でアプローチ困難な駅ですが、行く価値が大いにあるのは間違いありません。
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みんなのコメント
18切符の時期をはずして行って再度報告してください
このままでは読むだけ無駄な記事です
あの辺りの非電化区間の赤字は知っているから、行くなら18キップではなく正規料金で乗ろう。この記事読んで思った。