なぜ日本車だけCVTを採用しているのだろうか? ATに比べるとつながりがギグシャクしている……、CVTはアクセルを強く踏み込んでも音が騒がしくてなかなか思うように前に進まない……、というCVTに対する不満はまだまだ多く聞かれる。
そんな不満の声とは裏腹に、CVTは日進月歩の勢いで進化を遂げている。
長く乗る人はやはり気になる! クルマはどれだけ走ると壊れる?
大きいほど性能がいいとされるレシオカバレッジの数値は、レクサスUXやトヨタRAV4、ハリアーに搭載されたダイレクトシフトCVTは7.555、さらに新型レヴォーグとフォレスタースポーツ(1.8Lターボ)はついに8を超え、8.098と、8速AT並みの数値となった。
ここで改めて、CVTはなぜ日本ばかりが採用するのか? CVTよりもATのほうがいい(特にスポーツモデル)という声が多いのに日本車は頑なにCVTを使い続けるのか? 自動車テクノロジーライターの高根英幸氏が解説する。
文/高根英幸
写真/ベストカー編集部 ベストカーweb編集部 トヨタ 日産 スバル ダイハツ
【画像ギャラリー】これはスーパーガラパゴス!! 日本のCVTの超絶進化を見る
■日本車だけ、なぜCVTはガラパゴスなのか?
新型レヴォーグもCVTを採用し、8速ATクラスのレシオカバレッジを叩き出している
CVTが燃費性能を高める変速機であることは、もはや疑いようがないだろう。そうでなければ日本の自動車メーカーのほとんど(マツダはOEM車だけだが)が採用している理由が見当たらない。それでも欧米でもアジアでも、CVTは嫌われ者の変速機だ。
今では軽自動車のトランスミッションほぼCVTであり、S660やコペンといったスポーツカーでもCVTが搭載されて、それなりに支持されている。
スバルのWRX S4といった300ps、400Nmものトルクを誇るスポーツセダンでもチェーン式CVTが採用されているのだから、日本国内でCVTの勢力が大きいことは変わっていない。
それには、CVTだけがもつメリットが、理由としてはやはり大きい。ATならば7速以上でなければ達成できない変速比幅(レシオカバレッジ、通称レシカバ)を備えているのは、多段ATはとても重量とコストの両面で使えない軽自動車にとって、魅力があり過ぎるのだ。
CVTは変速機としてのコストとスペース性、軽量性の面で、まずは優れている変速機なのである。
では逆にCVTが抱える問題点、デメリットとは何だろう。変速比を変える機構がそのまま駆動力を伝えるために、どうしても伝達ロスが大きくなるのが最大のデメリットだ。
しかしベルトを挟み付けるために強力な油圧を必要としている構造ながら、プーリーの油圧室の構造などを改良することで必要な油圧を低減して、油圧ポンプの損失を減らす工夫も続けられていった。
それでも、ラバーバンドフィールと言われたエンジン回転数を維持したまま、徐々に減速比を下げて車速を伸ばすという、伝達効率の悪い領域を使ってしまうことで生じる加速Gの緩慢さはどうしても避けられなかった。
■CVTのメリットを活かし、弱点を克服した日本メーカー
RAV4のダイレクトシフトCVTのシフトレバー
CVTは変速による減速比の変化量が大きいことが、最大の武器だ。2つのプーリーに掛かっているベルトが、プーリー幅の変化により接触する位置を変え、実質的なプーリー径を変えることによってシームレスで幅広い変速を実現している。
CVTには、ほかにもいろいろな構造の種類があるのだが、クルマの変速機として使われるのは、金属のプーリーで金属製のベルト(あるいはチェーン)を挟むベルトプーリー型だ。
アイシンやジヤトコ、ホンダ(内製)などCVTを開発、生産しているメーカーは、基本的には同じ構造の金属ベルト式CVTを採用していながらも、そのプーリー幅制御などに独自のノウハウを持っている。
オランダのヴァンドーネが開発したベルトプーリー型CVTは、金属エレメントと薄板を組み合せたスチールベルト式CVTとなって日本の変速機メーカーが熟成させたことで、今につながったのだ。
他国のメーカーが変速フィールの鈍さや、耐久性を問題視して熟成を諦めていった中で、日本だけが辛抱強く開発を続け、小さな改善の積み重ねで信頼性や燃費性能、加速フィールなどを改善していったのである。
言い換えれば、日本のドライバーがCVTを許容しなければ、今のような状態にはなっていないと思う。壊れなくて、燃費が良ければいいというズボラなオーナーがCVTを選んで、乗り続けてくれたからこそ、CVTは存続して進化することができたのだ。
それくらい、CVTのフィーリングは人間の感性にそぐわないものであったが、近年はそれも随分改善された。それはCVT単体での改良だけでなく、エンジンなど周辺機械の改良による影響も少なくない。
どういうことかというと、昔はエンジンの燃費性能が高くなかったためにCVTで燃費を稼ぐ比率が高かった。
そのため加速時にも負荷を抑えるために減速比を大きくして、徐々に減速比を小さくしていく制御を取っており、全負荷の全開加速時にもそんな制御だったことから、エンジン回転に対して車速の上昇が緩慢で、運転していて違和感やストレスを感じたものだ。
しかし最近のCVTは、どれも制御が見違えるように良くなった。加速時もいたずらに変速比を変えることなく一定以上の加速時には減速比を固定することで、エンジンの回転上昇にあった加速Gを感じさせる。
これはエンジンの燃費性能が向上したことにより、変速機側で頑張り過ぎなくてもよくなったことも大きい。結果的に燃費への悪影響を抑えながら、加速フィールも良くなったのだ。
■副変速機付き、発進ギア/巡航ギア付きなど発展型CVTも
ダイハツのD-CVTの解説図
CVTは変速機としてはシンプルな構造ながら、単純にレシオカバレッジを拡大したり損失を低減するだけでなく、新たな機構を追加することで、より燃費性能を高める工夫も盛り込まれている。
日産はジヤトコと共同開発して、リバースギア用に組み込まれていた遊星ギア機構にクラッチを追加することで、2段変速機構を兼ねさせ、副変速機付きCVTとしてレシオカバレッジをさらに拡大させている。
これはスズキの軽自動車にも採用されているものだが、副変速機が作動する時には、プーリーは逆に動作するなど、制御が複雑で緻密だからこそ、実現できた機構だ。
さらにトヨタは発進ギアを別に設けて、プーリー比が最大となる領域をカットすることで、損失を低減した発進ギア付きCVTをアイシンと開発して搭載している。
ダイハツは逆に、巡航時に固定ギアに駆動力伝達を切り替えることで、駆動損失を低減するCVTを開発、量産車に採用している。
チェーン式は基本的に縦置き変速機用でジヤトコは横置きCVTにチェーン式を開発しているが、コストと騒音の問題から普及には至っていない。
ベルト式は連続的にコマがプーリーに当たっているため、静粛性が高いのだが、チェーン式はチェーンのピンが断続的にプーリーに当たるため、どうしても歯打ち音のようなノイズが発生してしまうのだ。
さらに金属ベルト式が改良によって、チェーン式に匹敵する伝達トルク容量を実現してしまったから、なおさら出番が無くなってしまった感がある。
劇的に進化したといえるのがスバルのリニアトロニックCVTだろう。先代レヴォーグのレシオカバレッジは6.422だったが、新型では8割の部品を刷新し、8.098に拡大。
レシオカバレッジを拡大したことにより、発進時のダイレクトな加速、高速巡行時の燃費が向上したほか、CVT独特の金属音も低減。
さらに8速のマニュアルモード変速も可能となった。変速ショックのない滑らかな加速とリニアなレスポンスが光るこのCVTはATでいうと、8速AT以上の実力を持っているといっていいだろう。
■欧州では低人気のためリスク回避で未導入
フォレスターのような大型SUVでもCVTを採用している
それほどまでに完成度の高い変速機となったCVTだが、相変わらず日本国内だけで使われている感が強い。他にATを持たないスバルのチェーン式CVT(アウディも以前は採用していた)は別として、金属ベルト式のCVTは世界では少数派だ。
メルセデス・ベンツは先々代のAクラス/BクラスにCVTを搭載させたがわずか6年、1代限りで見切りをつけ、通常の遊星ギア式7速ATに切り替えている。
現在販売しているモデルについても、例えばトヨタはRAV4の国内のガソリン車は、2LのCVT搭載モデルを販売しているが、欧州や米国向けのガソリン車は2.5Lの8速ATを販売している。それは、海外ではCVTを搭載しているだけで売れなくなるというリスクを避けるためだろう。
米国ではアクセルペダルを踏み込んだ瞬間に反応する大トルクによるクルマの反応が求められ、欧州では伸びやかな加速フィールが重視される。そのどちらにもCVTの特性はそぐわなかったのだ。(少なくとも10年ほど前までは)。
現在のCVTの大半は、かなり出来の良い変速機なのだが、欧州市場にはCVTアレルギーのようなものを感じる。
欧州の場合、たとえ変速ショックが少し出ようとも、加速感を感じられる通常のATの方が好まれるのだ。MT車の比率もまだ高い市場だけに、古典的なクルマの走行フィールに安心感を得るユーザーが多いのだろう。
ただし欧米市場でも唯一認められているCVTがある。それはトヨタのハイブリッド車に搭載されている電気式CVTだ。
これも無段変速機という意味ではCVTなのだから、大々的にアピールすればCVTのイメージ改善に役立つかも知れない。そして実際に金属ベルト式CVTの最新モデルに乗ってもらえば、いかに加速フィールが良くなっているか、実感してもらえると思うのだが。
しかし欧州市場はライバルメーカーたちがEV化に舵を切っている以上、今のタイミングでは欧州にCVTを投入することは、あまりメリットにつながらないだろう。そういった意味では、今後CVTが存続していけるかは、微妙なところだ。それは国内専用モデルをいつまで用意するか、という問題と極めて似ている。
その国内市場ではまた様子が違ってくる。スズキはAGSとフルハイブリッドを組み合せたMTベースでシームレスな2ペダル車を作り出したが、価格面でユーザーに受け入れられず、1代限りで姿を消している。バッテリーのコスト低減次第でまた復活する可能性はあるが、国内ではCVTの優位性は当分続きそうだ。
日産はデイズをフルモデルチェンジした際にCVTも見直し、副変速機を廃止して実質的なレシオカバレッジを縮小している。これだけだと時代に逆行しているように思われるが、軽自動車の場合は副変速機による駆動ロスや制御の複雑さは無視できない。
そこでエンジンを新設計してトルクアップしたことと、マイルドハイブリッドによるトルク補完も利用することで、CVTのレシカバが小さくなっても、先代以上の走りと燃費を実現したのだ。
つまり電動化になっても、CVTは活躍することができる。むしろより燃費性能を高めるためには、マイルドハイブリッドの積極利用とCVTの組み合せに期待したいところだ。
■いいCVT、悪いCVTの指標
新型レヴォーグのインパネ。CVTでありながら8速AT搭載車クラスのレシオカバレッジを持つ
本企画で何度も出てきた言葉、レシオカバレッジ。最後にこのレシオカバレッジとはなにか、これまで聞いたことがなかった、という人のために、説明しておきたい。
レシオカバレッジとは、変速機の変速比幅(適用可能な変速比の範囲)とも呼ばれ、最も低速のギア比を最も高速のギア比で割って求める値だ。
この値が大きいほど、エンジンが低回転のままで走ることができる車速の幅が広いことになり、燃費が良く、静粛性に優れるという評価につながる。CVTの場合は、最も低速(ロー)のプーリー比を最も高速(ハイ)のプーリー比で割った数値になる。
4速ATで4程度、6速ATで6程度、8速ATでは8程度、9速ATでは9.8、10速ATでは8.23となっている。CVTは一般に5.5~6程度。 巻末で各社の主な車種のレシオカバレッジを紹介しているので、いいトランスミッションの指標としてみてほしい。
CVTの場合、変速用プーリーの大径化の制約があるため、多段ATよりも変速比の幅を広げられなかったが、日産とジャトコが2009年に実用化したCVTは副変速機をつけて、乗用車としては当時最も広いレシオカバレッジを7.3とし、後に8.7にまで広がった。
いっぽう、トヨタは2018年12月、レクサスUXから採用したダイレクトシフトCVTは、CVTに発進用1速ギヤを組み込み、ベルトをハイ側に設定できたことで、レシオカバレッジ7.555を実現した。
つまり副変速機と発進用1速ギヤを組み込むことで、発進、加速時にはギア比をロー側へシフトし、力強い駆動力を得ることと、高速巡航時にはギア比をハイ側へシフトし、静かで燃費の良い走りを両立させている。
スバルの最新モデル、1.8Lターボを搭載した新型レヴォーグと、1.8Lターボを搭載するフォレスタースポーツのレシオカバレッジはついに8を超え、8.098を実現した。
レヴォーグは先代の6.442、フォレスターは2.5Lの7.031からの進化。これは6速ATが8速ATに進化したレベル。副変速機を持たないCVTとしては世界最高クラスだ。
このレシオカバレッジの数値が大きいほど、いいAT、CVTなので、参考にしてほしい。ちなみに過去の車種の数値を比較してみると進化の幅がわかるだろう。
主なCVT搭載車のレシオカバレッジ
主なAT搭載車のレシオカバレッジ
主な過去の車種のレシオカバレッジ
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ラバーバンドフィールでアクセル踏んでも回転数が高まるだけでちゃんと加速せず運転して気持ち悪くなる!クリープ現象もない、日本のモード燃費のためのガラパゴスミッション!!