クルマ好きの思いとは少しばかり違った
1970年代中盤、熱狂とも言えるスーパーカーブームを作った漫画家、池沢早人師(さとし)先生への取材中、ランボルギーニにまつわる、ある話を聞いたことがある。
マイカーの維持費で負担が大きいものランキング、3位各種保険代、2位車検代、1位は?
「ランボルギーニが創業したいきさつだけど、あれは少しばかり話が違うんだよ」と池沢先生は切り出した。そのいきさつとは「事業で財を成したフェルッチョ・ランボルギーニ(以下、フェルッチョ)が成功の証として憧れのフェラーリを買った。ところがいくつかの欠点を見つけ、エンツォ・フェラーリ(以下、エンツォ)と話し合いたいとフェラーリ社に乗り込んだが、門前払いを食った。それに憤慨したフェルッチョは、1963年にアウトモビリ・ランボルギーニSPAを設立。フェラーリのターゲットユーザー向けて自らが手掛けたスポーツカーを送り込むのが目的だった」という話である。この真偽のほどは定かではないのだが、すでに多くの人たちにとって、伝説として定着している現実だ。
一方で池沢先生は、フェルッチョが亡くなって(93年没)、10年ほど経ってから、ある自動車専門誌の取材でランボルギーニ夫人と会い、真実を確認したという。すると、彼がフェラーリオーナーとなり、いくつかの改善点を見つけたところまでは事実だという。しかし、その先は実に平和的で、お互いに大人の対応を見せたそうだ。フェルッチョは改善点を書簡にしてエンツォに送ったが、その意見の採用を丁重に断られたという。それでもフェルッチオは激高し、根に持つような人ではなかった。ランボルギーニ社を興したのは、商才に長けた彼が、高価なスーパースポーツの将来性を見抜いたから、と夫人が明かした。多少の身びいきはあっても、これが真実であろう。
だが我々にとってランボルギーニは、体制、つまりフェラーリに対する“反逆”であって欲しいと願ってきた。なによりもその方が心浮き立つような面白さがあると、勝手に感じていたのだ。思い込みとはなんともいい加減なものであるが、そんな人々の気持ちを思うと、あの伝説が定着したことも理解できるのだ。以来、ランボルギーニは、望むと望まざるとに関わらず、反逆の象徴であったような気がする。
SUVだからこその気軽さがスーパースポーツへのハードルを下げてくれる
そして今、私はランボルギーニの最新スーパーSUVとしてヒットしている「ウルス」のステアリングを握って、あるライフスタイル誌のロケ撮影に立ち会っている。もちろんウルスは小道具ではなく、ロケの主役である。驚くのはその雑誌が女性ファッション誌であること。シャープでエッジの効いたウルスの横で、ピンヒールの女性モデルが微笑んでいる。断っておくが運転するときは専用のシューズに履き替えるので、ピンヒールというシュチュエーション設定はノープロブレムだ。それにしてもこんなシーン、少し前にはあまり見られなかったと思う。
生粋のランボ・ファンにとっては、ひょっとすると認めたくない演出かも知れない。だが、冷静に考えればこれが現実であり、この先のスーパースポーツの在り方として無視できない事実だと思う。なによりも数多くのSUVが大手を振って世界中の道を走り回っている現在、ランボルギーニの伝説に興味をいだき、その反逆性にロマンを感じる人はあまり多くない。雑誌の編集者やモデル達にとって、ウルスという超弩級のスペックをもったスーパーSUVでさえ「自分のライフスタイルを、いかにカッコ良く素敵に演出してくれる存在なのか」が最大の関心事なのだ。これこそ、スーパースポーツの存在自体が多様化してきた証なのかも知れない。そして驚くのは、そうした要求に対してウルスが見せた懐の深さだ。
トップクラスの実力を与えられ登場したスーパーSUV、ウルスが搭載するのは4ℓ・V型8気筒ツインターボエンジンで、スペックは最高出力650ps、最大トルク850 Nmだ。その走りは0~100 km/h加速が3.6秒、トップスピードは305 km/hというパフォーマンスを誇るのだ。もちろん、この走りは特別なスキルを持ったドライバーだけでなく、女性やビギナーにだって心を開いてくれるのである。これこそ、道や用途を自由に選べるSUVだからこその優位性である。仮にこれが、実用性で多くの制約を受けるミッドシップスポーツのウラカンやアヴェンタドールであれば、ハードルはグッと高くなるからだ。
だがSUVならば特別な覚悟がなくとも、ある程度乗りこなすことが出来る。少々慣れるまでは全長5112mm×全幅2016mm×全高1638 mmというボディサイズはスーパーの駐車場や路地裏などでストレスを感じるときもある。しかし、それでも後輪を操舵することで意外なほど小回りがきくのである。
もちろん甘く見れば必ずケガをする
そしてゴチャゴチャとした煩わしい状況からひとたび抜け出せば、市街地走行からハイウエークルージングまで、シームレスに快適な走りを見せてくれるのだ。ウルスにはセンターコンソールの左側にあるタンブーロと呼ばれるレバーによって「ストラーダ(普段使い)」「スポーツ(ワインディングなど)」「コルサ(サーキット)」、さらにオフロード系の「ネーヴェ(雪上)」、「テラ(悪路)」、「サッビア(砂漠)」など、走行環境合わせて6つのモードの中から選択できる。だが、ほとんどはストラーダで十分である。
別にスポーティな走りでなくともいい。日常的な走りの中であっても高度にチューニングされたエンジンや足回りがゆとりたっぷりに安全で安定した走りを誰にでも与えてくれるのだ。コーナリングでは「アクティブロールスタビライゼーション」というシステムが効果的に働き、ガチッと路面に踏ん張り、車体をフラットに保ちながらなんとも心地よく、駆け抜けていく。高速道路に上がれば、追い抜きも巡航もまさに思うがまま。少しだけアクセルを踏み込んだだけでも交通の流れをリードできるほどの加速を見せる。さらに前後に備わったカーボンセラミック・ブレーキの強力なストッピングパワーによって、驚くほど短い制動距離で正確に減速。ここに高度な運転支援システムが力を貸してくれるのだからなんとも頼もしい。
気が付くと大柄のボディがひとまわり小さく感じるほど、体に馴染んでいることに気が付くのだ。ひょっとするとこんな使い方では持てる実力の10%も使っていないかも知れないが、それでもむずかることもなく、ドライバーの運転に対してレスポンス良く正確に反応する。これを宝の持ち腐れという人もいるだろうが、むしろスキルもないのに、無茶をする人にステアリングを任せるよりズッと安心だ。もちろん、気を許せばドライバーに対して牙をむくし、時として凶器になるから、こういう猛獣こそ、臆病なぐらいの気持ちで乗りこなさなければいけない。そうすれば実に愛おしく頼もしいパートナーとして、日常を豊かなものにしてくれる。
気が付くと、大きな満足を味わいながら、まるで履き慣れたスニーカーのようにウルスをドライブしていた。こうしてじっくりとウルスと付き合い、いよいよテストカーとのお別れが近づいてみると、すっかり従順になった猛牛との別れが何とも惜しくなってしまった。フェルッチョがもし、ウルスを見たらなんというだろうか? 適わないながらも聞いてみたい気分になった。
「追いかけてくるライバルは数知れず。もっともっと良い車にしないといけない」などというだろうか? そして急に、フェラーリが初めて投入するであろうスーパーSUV「プロサングエ(プロジェクト名)」のことが、なんとも気になりだしてきたのだ。
光沢のあるボディカラーにハイグロスブラックのルーフやリヤディフューザー、スポイラーリップなどを組み合わせた2トーンを採用したカスタマイズオプションPearl Capsule。
SUVとして全高は低く、クーペのようなルーフラインとともにスタイリッシュ。
ボディカラーに合わせた2トーンの配色とカーボンパネルをふんだんに使ったインテリア。
「Q-Citura」ステッチと呼ばれる六角形のロゴの刺繍を施したアルカンターラのシート。
スペース的には平均的だが、リアシートのホールド感は良好で快適だ。
赤い蓋を開けるとエンジンスタートボタン。その左側に走行モードのセレクトレバーがある。
フルデジタルTFTディスプレイは必要な情報だけをシンプルに表示。
SUVとして世界屈指のパフォーマンスを実現した2基のターボを備えたV型8気筒ガソリンエンジン。
スクエアーな荷室の容量は5人乗り仕様で616リッター。実用性は十分に満足レベルをクリア。
シートバックの表皮にトリコロールと車名の刺繍がアクセントになっている。
ウルス Pearl Capsule
価格:30,681,070円(税込み)
ボディサイズ:全長×全幅×全高:5,112×2,016×1,638mm
車重:2,200kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:AT
エンジン:V型8気筒ターボ 3,996cc
最高出力:478kw(650PS)/6,000rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2,250~4,500 rpm
問い合わせ先: ランボルギーニ:0120-988-889
TEXT : 佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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みんなのコメント
地方銀行の頭取の家だが、乗り出したのが悪名高いバカ息子。
世界で一番不幸なオーナーに当たったウルスだと断言できる。
かわいそうに。