3台で1番重いM240i xドライブ
ポルシェ718ケイマン PDKは、BMW M240i xドライブ・クーペより着座位置が低く、ボディサイズはひと回り小さい。より運転に対し真摯で、外界からの隔離感という点ではBMWに及ばず、ロータス・エキシージへ近い。
【画像】FRをキープした2シリーズ・クーペ 718ケイマン、AMG CLA 45Sと写真でも比較 全90枚
対してM240i xドライブには、スリムさに欠ける印象が漂う。知的な四輪駆動とクイックな変速を披露するZF社製の8速ATが組み合わされているが、車重が1690kgもあるためだろう。
このモデルの前身といえる、2014年のM235i xドライブは1525kgしかなかった。先代のM4 コンペティションでも、2基目のターボと大きなボディサイズを備えつつ、1595kgに留まっていた。
718ケイマンの車重は、重さが増すPDKでも1365kgと軽い。メルセデスAMG CLA 45S 4マティック+ クーペでも、4ドアボディにトルクベクタリング機能を備える四輪駆動システム、20インチのアルミホイールなどを装備しつつ、1695kgへ留めている。
BMWもホイールベアリングを軽量化したり、サスペンションやボディへアルミニウムを積極的に用いている。それでも軽いとはいえない。これが、走行フィーリングへも明確に表れているようだ。
M240i xドライブのドライビング体験は、コンパクトなスポーツクーペというより、小さなスーパーサルーン的。理想とは少し違うかもしれないが、刺激的で充足感は高い。
とても正確で、機敏に身をこなす。しかし718ケイマンの、前後アスクルが完璧にシンクロするように回頭していく印象とは異なる。
微塵の不満もない直6ターボの動力性能
ステアリングホイールを切ると、反応にまとまりを感じる。フロントノーズが引きずられる様子はなく、意欲的にコーナーへ食らいつく。コーナリング中は、リアサスペンションの引き締まった感触が伝わってくる。
限界まで攻め込んでも、M240i xドライブは俊敏なまま。リアタイヤに主軸が置かれたパワーデリバリーを活かし、アクセルペダルの操作で姿勢を調整していけるという、懐の深さもある。
2モードから選べるダンパーは、殆どの区間をコンフォートでも充分に処理可能。ボディは流れるように滑らかに制御され、感触が薄い電動パワーステアリングの若干心もとない印象を、巧みに補うようでもある。
動力性能には、微塵の不満もない。B58型と呼ばれる3.0L直列6気筒エンジンは、 373psを5500rpmから6500rpmの間で、50.9kg-mを1900rpmから5000rpmの間で発揮する。殆どの回転域で、最高出力か最大トルクのどちらかを得られる。
その加速力は、間違いなく甚大。シフトアップもシフトダウンも、ごく僅かな時間で完了する。トラクションも、打ち破ることが不可能にすら思える。
それでいてドライバーが望めば、コーナーでテールを外側へ降り出すことも難しくない。次のストレートめがけて、確かなスタビリティも担保されている。
BMWは、M240i xドライブの操縦性を見事に調律したといっていい。グリップとスライドとを、直感的に操れるクルマは極めて少ない。黒子として効果的なxドライブと、巧妙なチューニングのスタビリティ・コントロールも、素晴らしい仕事ぶりといえる。
何かが宿るようなステアリングホイール
サウンドは、合成音が強め。エンジン自体の音は少しドライバーから遠い位置にある。それでも、この価格帯でこれほどリッチな重奏を楽しませてくれるモデルは、他にないだろう。4気筒の718ケイマンにも、備わらない。
AMG CLA 45Sと718ケイマンは、M240i xドライブにはない長所を備え、短所もある。より直接的な比較対象になり得る718ケイマンには、及ばない部分も少なくないが、長所として勝るところは明らかに強い。
2.0L水平対向4気筒エンジンの最高出力は300psで、サウンドはBMWの直列6気筒と比べてしまうと実務的。アイドリングは重苦しそうだし、吹け上がりも鋭いとまではいえない。
7速デュアルクラッチAT(PDK)のギア比はロングすぎる。ボディが軽いとしても、パワーとトルクの山を活かすことが簡単とはいえない。
今回の718ケイマンには、シンプルなGTスポーツ・ステアリングホイールが備わっていて、握り心地は良好。一方でノーマルのシートは小ぶりで、M240i xドライブのMスポーツ・シートと比べるとサポート性ももの足りない。
ロードノイズは大きい。車載テクノロジーや運転席からの視界も、新しい2シリーズ・クーペには届いていない。
ところが、アクセルペダルに力を込めて発進させれば、それらの印象は一気に薄れていく。ステアリングホイールは、BMWよりはるかに豊かな情報をドライバーへ伝えてくる。まるで何かが宿っているかのように。
この続きは後編にて。
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