ミドシップへシフトしたフェラーリ
1920年代以降、各年代の最高速モデルをご紹介する今回の企画。その10台では初めて登場するフェラーリが、1970年代の代表となる365 GT4 BBだ。
【画像】1960年代と1970年代の最速 ランボルギーニ・ミウラとフェラーリ365 GT4 BB 全62枚
最高速度は、フェラーリの主張では時速188マイル(302.5km/h)と、大台を突破していた。また、同社初のV型12気筒ミドシップ2シーターとして、重要な意味を持つモデルでもある。
プロトタイプの365 GT4 BBが発表されたのは、1971年のトリノ・モーターショー。ただし、シャシーの中央に12気筒エンジンを搭載するレイアウトは、レーシングカーで経験を積んでいた。
グランプリマシンのフェラーリ512では、コクピットの直後に12気筒エンジンを配置。シャープな操縦性と優れた空力特性を実現し、確かな強さを証明していた。
しかし、フロントエンジンの365 GTB/4(デイトナ)が、1966年のランボルギーニ・ミウラと比較されることを、フェラーリが無視することはできなかった。1967年のディーノ206と後の246で、ミドシップへのシフトは決まっていたようなものだった。
365 GT4の「BB」は、ベルリネッタ・ボクサーの略。スポーツクーペ・ボクサーエンジンを意味している。
幅の広いエンジンのプロポーションは、そもそもフロント・レイアウトには不向きといえる。反面、ユニットの高さ自体は低く抑えられていたが、トランスアクスルがその下に取り付けられ、365 GT4 BBでは設計上のメリットが充分に生かされていなかった。
その後の512 BBでは、ドライサンプ化。重心位置が落とされている。
ピュアなピニンファリーナのデザイン
365 GT4 BBのエンジンは、バンク角を180度に広げた、広角V型といえる水平対向の12気筒。4.4Lで最高出力385ps/7200rpm、最大トルク41.5kg-m/3900rpmを発揮した。水平対向12気筒を世界で初めて量産したのが、この時のフェラーリだ。
スタイリングを担当したのは、ピニンファリーナ社。シンプルでピュアなデザインは、後継モデルにも派生する要素を備えていながら、最も美しい。
1968年に発表されたコンセプトカー、P6から展開されたデザインは、可能な限り余計な要素が削り落とされている。フロントノーズは低く、内側に傾けられたラジエターが納まり、小さな荷室空間が用意されていた。
365 GT4 BBの特長といえるのが、小さな6灯のテールライトと、左右3本に別れた細い6本のマフラー。これは、プロトタイプでは4灯と4本だった。
ヘッドライトはリトラクタブル式。その手前には、巨大なウインカーがボディ面に沿ってレイアウトされている。サイドには、仰々しいエアインテークは一切ない。
ボクサーエンジンの手前で垂直にリアウインドウが立ち上がり、後方視界を確保している。エンジンカバーの両サイド、フライング・バットレスのスポイラーも、ルーフラインとなだらかに一致。気流を整えつつ、4基のキャブレターへ必要な空気を供給している。
カウンタックと対照的に優しく優雅
今回ご登場願ったのは、1975年のモーターショーで展示された365 GT4 BBそのもの。特別な1台といえる。現代の基準でいっても、ボディはワイドに見える。
ランボルギーニは1974年にカウンタックを発売していたが、直線的で攻撃的なスタイリングと比較して、滑らかで優しくカーブを描く面構成が優雅。均衡も取れている。
シンプルなボディサイドには、ドアミラーがない。ドアハンドルはサイドウインドウ付け根にある小さなレバーで、印象が乱されてもいない。
クラシカルなカンパニョーロ社製アルミホイールを包むのは、当時物の215/70サイズのミシュランXWX。正しい容姿を保っている。
幅の広いサイドシルをまたぐと、ドライバーは車両の中心側に座る。レザーシートに身体を納め、ステアリングホイールを握るには、少し腕を伸ばす。アクセルペダルを踏むには、膝を曲げる必要がある。
この時代のフェラーリらしく、ダッシュボードに並ぶのはメーターとラジオのみ。365 GT4 BBの場合は、合計8枚が整然とレイアウトされている。
エアコンはオプションだったが、ヒーター系とパワーウインドウのスイッチは、レザーでトリミングされたセンターコンソール上。右ハンドル車のこの場合、シフトレバーは助手席側に飛び出ている。
一般的なキーを差し込み、ゆっくり回してエンジンを始動。キャブレターからの吸気音が一瞬聞こえるが、すぐにボクサーユニットのノイズにかき消された。
当時最大の武器といえた余裕のあるパワー
横にはみ出たドッグレッグ・パターンのゲートをなぞるように、1速を選ぶ。アクセルペダルの踏みごたえは重く粘りがある。それ以外の操作系は軽くリニアだ。
車内には光が沢山差し込み、開放的ですらある。ダッシュボードの位置が低く、リアウインドウも広く、全方向に視界は良い。ドアミラーは欲しいところだが。
エンジンオイルが温まるのを待って、ストロークの長いアクセルペダルを踏み込む。キャブレターが勢いよく空気を吸い込み、7600rpmのレッドラインめがけてレブカウンターの針が跳ね上がる。
叫び泣くようにエンジンが吠え、385psに近いであろう馬力が放たれる。テストコースのストレートで160km/hほどまで加速する。フルスロットルは与えなかった。
広いサーキットなら、もっと365 GT4 BBを探れるだろう。ステアリングは軽く手応えは素晴らしい。細身のリームを通じて、アスファルトのニュアンスを逐一教えてくれる。
1960年代のランボルギーニ・ミウラと比較すると、大きな進化を実感する。1970年代に欧州大陸を横断するなら、迷わずこちらを選びたいと思わせる仕上がりだ。
さほど気張らず、バックミラーに映る後続車を蹴散らすことも難しくない。引き出しやすい余裕を感じさせるパワーは、当時最大の武器といえたに違いない。
協力:サイモン・ドラブル・カー社
フェラーリ365 GT4 BB(1973~1973年/欧州仕様)のスペック
英国価格:1万4255ポンド(1973年時)/35万ポンド(約5600万円)以下(現在)
生産台数:387台
最高速度:302km/h
0-97km/h加速:6.5秒
車両重量:1551kg
パワートレイン:水平対向12気筒4391cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:385ps/7200rpm
最大トルク:41.5kg-m/3900rpm
ギアボックス:5速マニュアル
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みんなのコメント
MRとは言えEg位置が高く高速での直安が非常に悪くとても踏めない。がヤタベでの結論だった。
フェラーリ贔屓のカーグラをしてその評価。
推して知るべし
同時代のカウンタックやボ―ラが谷田部では255km程度だったのに対して差をつけて見せた。
後にカ―グラが512BBをテストした際には277kmをマ―ク。
BBは高速域での空力特性は大学の風洞実験の結果をフィ―ドバックしたもので、当時のス―パ―カ―の中では図抜けていた。
見た目の優雅さと実際の空力の両立という面では、実に見事な名作に仕上ったのがBBだった。
惜しむらくは縦置きエンジンに横置きギヤボックスという発明をフェラーリが成し遂げたのが、1975年のF1マシン312Tから。
長大な12気筒エンジンをコンパクトに納める術を365BBの時代のフェラーリは未だ持っていなかった。この辺りが時代の限界でもあった。