ユニークな二重床構造を採用した、超コンパクトな初代Aクラスが登場したのは1998年のこと。それから数えて4代目に当たる現行Aクラスは、スポーツコンパクトと呼ばれているものの、全長4420~4440mm、全幅1800mm、全高1420~1440mmへとサイズアップされている(先代Aクラスは全長4300~4360mm、全幅1780mm、全高1420~1440mm)。それでもメルセデスのラインナップのなかでは最小のモデルだ。
そこに最近ディーゼルターボエンジン搭載モデルが加わって、日本でも発売を開始した。A200dという車名のとおり、排気量2リッターのディーゼルターボエンジンを搭載したもので、Aクラスがすべてそうであるようにパワーユニットはフロントに横置きされる。
BMWのフラグシップは、なぜスポーティ?──ディーゼルでもBMWらしさ健在! 740d試乗記
このエンジン、すでにCクラスやEクラスに搭載されているクリーンディーゼルの横置きバージョンで、最新の排ガス処理システムを投入して2020年施行予定のEURO6d NORM規制をいち早くクリアしている。それに加え、CやEよりコンパクトなAクラスに搭載するに当たってパワーやトルクの数値も見直されている。
その結果、1950ccの排気量から150ps/3400~4400rpmのパワーと320Nm/1400~3200rpmのトルクを発生、8段デュアルクラッチトランスミッション=DCTを介して前輪を駆動する。日本仕様の車重は未公表だが、ディーゼルエンジン搭載車の常で、1.3リッターガソリンモデルの1360~1430kgより重いのは間違いないだろう。
実は当方、新型Aクラスに乗るのは始めてだったが、その第一印象は、“スポーツコンパクト”と名づけたメーカーの意図とは逆に、マイルドなクルマに感じられた。しかし、それはネガティブな意味ではない。Aクラスが属するCセグメントのクルマとしては、落ち着きのある乗り味が感じられた、という意味だ。
まず乗り心地がそれを実感させた。特に良好な路面では、もうひと回り大きいクラスのメルセデス、例えばCクラスを思い出させるような、ある種の重厚さを感じさせる乗り心地を味わわせてくれる。新型Aクラスのユーザーには女性が増えているというが、この乗り心地もその要因のひとつではないだろうか。
ただし、大き目の凹凸や舗装の継ぎ目など、路面の荒れたところでは印象がちょっと変わってくる。標準の16インチに対して、試乗車が18インチのAMGスタイルホイール+225/45R18タイヤを履いていたこともあって、そういった場面ではサスペンションを使い切る印象があり、バネ下からの突き上げを感じる。
一方、このクルマがサイズのわりに大人っぽい印象を与えるもうひとつの要因は、パワートレーンにあると思う。前述のように、CクラスやEクラス用を横置き仕様に仕立て直した2リッター4気筒ディーゼルターボは、必要にして充分以上の動力性能を発揮するものの、そのトルクやパワーの発生感がマイルドなのだ。
それに加えて、ディーゼルエンジン独特の音や振動も非常に軽く、通常の大人しい走行ではガソリンエンジン搭載車でないことを意識させられる機会はほとんどない。さらに8段DCTによる変速がスムーズなことも、その印象を強調していると思う。このあたりも、女性に好まれる要素のひとつかもしれない。
このクルマの試乗の舞台は都内だったが、実はその当日、東京はめったにないような暴風雨に見舞われ、クルマを走らせるのにまったく向いていない日だった。そんな悪条件のなかでも、わりとリラックスしてドライビングすることができたのは、A200dの挙動が落ち着いていたからだと思う。とはいえ、「ハイ、メルセデス!」とクルマに声を掛けて、カフェを探したりする気分にはなれなかったけれど。
このクルマは、エンジン、トランスミッション、ステアリングアシストなどに変化を与えるダイナミックセレクトを備えている。例えば標準設定の「コンフォート」ではステアリングは軽く、ちょっと路面感覚が物足りない印象をうけるが、その場合は「スポーツ」を選ぶと手応えが増すという効果がある。
最後にパッケージングについて触れておくと、スタイリングはいかにもルックス優先という印象をうけるが、リアシートに座ってみると大人が不足なく寛げる空間が確保されていることが分かる。つまりA200d、普段は1人もしくは2人で乗るとしても、必要な時にはフル4シーターとして使えるクルマ、ということである。
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