ASTON MARTIN DB11 V8
アストンマーティン DB11 V8
アストンマーティン DB11のV8とV12を比較試乗。「GT」と「スポーツGT」の明確な違いとは? 【Playback GENROQ 2017】
アストンマーティンの心臓にAMGが加わる
伝統を今に受け継ぐアストンマーティン“DBシリーズ”。その最新作、DB11にAMG製V8ユニット搭載車が加わった。すでにラインナップされる自社製12気筒モデルがあるため、一見すると単なる廉価版のように思えてしまうだろう。しかし、そこには明確なキャラクターの違いと狙いがあった。V8モデルとV12モデルを海外試乗で確認したふたりのモータージャーナリストが、それぞれのインプレッションを語る。
山崎元裕「AMG製V8を搭載したことにより、V12モデル以上に一体感を感じる」
アストンマーティン伝統のGT=グランドツアラー、DB11シリーズ。その最新型であるDB11に新たにV8モデルが加わった。アストンマーティンには、かつてDB7で直列6気筒とV型12気筒の両エンジンを搭載したことがあるが、この時は同時に2タイプのエンジンを選択可能としたわけではなかった。DB7のさらなる進化型として新たに“ヴァンテージ”のサブネームを掲げた、より高性能なDB7が登場したというのが正確な経緯になる。
DB11の誕生に先行して、アストンマーティンはメルセデスAMGとの技術提携を発表していた。この提携の核となるのは、4.0リッターV型8気筒ツインターボエンジンの供給。それは当然ながら、よりコンパクトなサイズのスポーツモデルである、次世代のヴァンテージに搭載されるものというのが一般的な予想だった。
だがアストンマーティンは、まずこのV型8気筒エンジンをDB11から採用することを決断した。DB11にはすでに、アストンマーティンの自社開発となる5.2リッターのV型12気筒ツインターボエンジンが搭載されていたが、市場によっては税制などの関係で、よりコンパクトなエンジンを搭載したDB11を望む声は確実に高まりを見せていた。今回のアストンマーティンの決断は、表面的にはこのリクエストに応えるためのものと考えることもできる。
「V型8気筒エンジンのコンパクトさは印象的だ」
DB11のV8モデルは、そのようなマーケティングの観点で誕生したものなのか。そうでないことを確信できたのは、その開発コンセプト、そしてメカニズムの全貌が明らかになった時だった。走りの報告を始める前に、まずは簡単にV8モデルの構成を解説しておくことにしよう。
ダーク・ヘッドランプ・ベゼルや、よりシンプルなデザインとなったボンネット、あるいは専用のホイールなど、V8モデルには独自のディテールがあるが、エクステリアデザインの基本は、V12モデルと変わるところはない。それはインテリアに関しても同様だ。前作のDB9からさらに機能的になったキャビンには、例のメルセデスAMGとの提携を象徴するかのように、メルセデス・ベンツとの共通性を感じるデザインがいくつも見られる。
フロントに搭載されるエンジンは先にも触れたように、4.0リッター仕様のV型8気筒ツインターボ。Vバンク中央にツインターボのシステムをレイアウトする“ホットインサイドV”の手法はそのまま継承されているが、インテーク&エキゾーストシステム、ECUのソフトウエア、そしてウェットサンプの潤滑システムなどは、アストンマーティンによって独自に開発されている。実際にエンジンルームを覗き込むと、やはりV型8気筒エンジンのコンパクトさは印象的で、サイズのみならず全体のウェイトもV型12気筒比で115kg軽量化されているという。組み合わせられるトランスミッションは8速AT。V12モデルと同様に、それをリヤにレイアウトするトランスアクスル方式を選択したことで、49対51という前後重量配分を実現した。
「レスポンスの素晴らしさは、最も穏やかな制御のGTを選択しても感じられる」
サスペンションのチューニングも一新されている。可変式のダンパーはさらに制御の幅が広がり、スタビライザーやジオメトリー設定、さらにはブッシュ類も一新された。パワーステアリングの制御も改められ、ブレーキもわずかではあるがストローク量が短縮されている。これらのチューニングとV型8気筒エンジンのパフォーマンスは、どのようにDB11の走りを変えるのだろうか。
アストンマーティンの手が加わったことで、メルセデスAMG製のV型8気筒エンジンが奏でるサウンドは、より魅力的なものになった。ステアリングホイール上のスイッチで、パワートレイン、そしてシャシーのモードを「GT」、「S」、「S+」に、各々に独立して変化させることができるのは、これまでのV12モデルと変わらないが、S以上のモードではエキゾーストノートはさらに官能的な響きになる。エンジンの回転はトップエンドに至るまでスムーズのひと言。ツインターボによる過給が行われていることなど微塵も感じさせないナチュラルなパワー&トルクのキャラクターと、レスポンスの素晴らしさは、最も穏やかな制御となるGTを選択しても感じられる。
510psの最高出力と675Nmの最大トルクは、V12に対して98ps&25Nmのハンデとなるスペックだが、前で触れたエンジン本体での115kgを始めとするダイエットによって、体感的にこのハンデを感じることはまずないだろう。実際に0-100km/h加速と、最高速の両データを比較してみても、V8モデルは0.1秒と21km/hほど控えめな数字を掲げるに過ぎないのだ。むしろシリーズ内でのヒエラルキーを保つためには、この差が存在することは絶対的な条件だったはずだ。
「V8モデルはマン・マシンの一体感がV12モデル以上だ」
GTモードで、DB11のそもそものコンセプトであるグランドツアラーとしての快適さを味わった後に、S、そしてS+モードでの走りを試してみた。驚くべきはハンドリングの軽快さで、とりわけS+モードを選択すると、ステアリングの動きに対する反応は、一気にリニアな印象を強めてくるから、より積極的にワインディングでの走りを楽しみたくなる。サスペンションの動きも実に素晴らしいものだ。ワインディングでは、やはり最もスパルタンなS+のセッティングを使いたくなるが、SやGTで感じるジェントルで穏やかな動きもまた、DB11というモデルのコンセプトには、マッチしているのではないか。
V8モデルをドライブして常に感じたのは、マン・マシンの一体感が、V12モデル以上に強く感じられたことだった。つまりアストンマーティンは、DBシリーズという伝統のGTに、さらにスポーツという新たなスパイスを加えることでV8モデルを成立させたともいえるのだが、ドライブを終える頃には、さらにもうひとつの推理が生まれていた。
V8モデルには、あるいはDB11をさらに魅力的なプロダクトへと導くための、正常進化型としての役割が与えられているのではないか。今回V8モデルで採用された、新たなサスペンションやESPなどの電子制御デバイスのチューニング。それらはV12モデルにおいても同様に必要とされるものなのだから。V8モデルで得たノウハウは、今後のDB11をどう進化させるだろうか。
野口 優「断じて階級で選択するべきではない。望むスタイルで選ぶのが最善だと思う」
DB11にV12とV8エンジンの2種類がラインナップされたことによって戸惑うカスタマーがいるかもしれない。過去の例からいえば、この手のGTカーの場合、どちらかといえばその多くがV12の方を選択するというデータがある。
その理由は、まずステイタス性。単純にいえば、“V12の方がエライだろう!”という階級的な意識の元で選ばれているのがほとんどである。具体的な例をあげるなら、ベントレーのコンチネンタルGTやフェラーリのGTC4ルッソの2モデル。いずれもDB11同様に、V12とV8の2種類のパワートレインを用意し、多くのカスタマーを取り込もうというのが狙いだが、やはり高級車市場というのは、富裕層の心情からすれば上昇志向が強いだけに、よりハイグレードモデルを選ぶ傾向があるのは確かだ。
とはいえ、最近では真逆な方向性が見られるようにもなってきているのもまた事実。例えば、ハイエンドカーを乗り継いできたベテランドライバーでも、“もう12気筒はいいかな・・・”という後退(交代?)的な考えが芽生え、年齢的にもそれほど飛ばさないし、長距離ドライブにも出かけることが少なくなってきているから、敢えて8気筒を選ぶ人がいる。もちろん、その一方で、8気筒で十分! という考えもあれば、次こそ12気筒と思って購入に至る人もいるなど、時代の流れとともに購入側の意識も変わり、必ずしもステイタスばかりを求めているとは限らない傾向も見受けられる。
「V12は“GT=グランドツアラー”、一方のV8は“スポーツGT”の位置づけ」
では、このDB11の場合は、どうなのか? 結論から言ってしまえば、自身のライフスタイルと重ねて考えていただければ明確だ。つまり、アストンマーティンもそれを意図して差別化している。
アストンマーティンは、DB11をリリースするにあたって、2種類のパワートレインを用意すると同時に、そのコンセプトに対して明確なターゲットを定めた。V12は、これまで通りに“GT=グランドツアラー”、一方のV8に関しては“スポーツGT”としている。これは、実際に乗り比べるとよく分かる。
「ちょっとしたワインディングなど、楽しませてくれるのは間違いなくV8」
V12は基本的に優雅なドライブを促すのに対して、V8はGTを基本としつつも、スポーツカー的な味付けを与え、走行性に幅を持たせているのが主な違いだ。もちろん、気筒数の差による絶対的なパフォーマンスの違いはあるものの、少なくとも最終的なフィーリングは如何様にでもできる時代だから、こうした差別化は戦略的にも重要である。
例えば、ドライブに行った先で、ちょっとしたワインディングを通過しなければならない時など、楽しませてくれるは間違いなくV8のほう。やはりV12だと、わずかならもノーズの重さは気になるし、コーナーの立ち上がり方も穏やかで俊敏性には欠けてしまう。これがV8だと違う。同じS+(スポーツプラス)モードを選択してもエンジン特性はもちろん、シャシー関連などの動きはスポーツ性を持たせているとあって、意外にも機敏な動きを見せる。さすがにリアルスポーツカーのようにはいかないが、それでも基本GTカーというコンセプトで造られていることを思えば、この適度なスポーツ性でも十分に満足するはずだ。
「V8のDB11は“若々しいGT”、V12は“真の大人のためのGT”」
とはいえ、高速での移動では真逆の印象となる。息の長い加速や豊かなトルクから生まれる、ある種の余裕的なところは、言うまでもなくV12のほうだ。特に加速する際、アクセルを一気に開けた場合でも品の良さを匂わせ、ジェントルでマナーの良さが際立つ。これがV8の場合は、たとえノーマルモードでも、ある程度の優雅さはあるものの、どちらかといえば、“パワーを使わせたい”ように感じる。これはV8ツインターボエンジンの特性からくる“パワー志向”によるところが理由だが、それでもメルセデスAMG GT Sほどの凶暴なフィールではない。実際、DB11に積まれるV8ユニットは、同じAMG製でもGT S用ではなく、C63 Sの方をベースとしている(GT Sはドライサンプ式、C63 SとDB11はウエットサンプ式)。
これをひと言で例えるなら、V8のDB11は“若々しいGT”、V12は“真の大人のためのGT”と表することができる。
「何を望むのか、そしてどう使うのかが選択の鍵となるのは間違いない」
とはいうものの、これは対象年齢による差別化ではないことを感じ取っていただきたい。つまり、たとえ還暦を過ぎた方でも、まだまだ走りたい! と思うならV8を選択した方が後悔しないような気がするし、比較的若い、いわゆるヤングカスタマーでも、ジェントルマン思考が強いならV12を選んでも決しておかしくはないと思う。
いずれにしても何を望むのか、そしてどう使うのかが選択の鍵となるのは間違いないだろう。
REPORT/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)、野口 優(Masaru NOGUCHI)
PHOTO/ASTON MARTIN LAGONDA LIMITE
【SPECIFICATIONS】
アストンマーティン DB11(V8)
ボディサイズ:全長4750 全幅1950 全高1290mm
ホイールベース:2805mm
車両重量:1705kg
前後重量配分:49:51
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
圧縮比:10.5
最高出力:375kW(510ps)/6000rpm
最大トルク:675Nm(68.9kgm)/2000-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前400×36 後360×32mm
タイヤサイズ(リム幅):前255/40ZR20(9J) 後295/35ZR20(11J)
最高速度:301km/h
0-100km/h加速:4.0秒
車両本体価格:2193万8900円(税込)
アストンマーティン DB11(V12)
ボディサイズ:全長4739 全幅1940 全高1279mm
ホイールベース:2805mm
車両重量:1770kg
前後重量配分:51:49
エンジンタイプ:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5204cc
圧縮比:9.2
最高出力:447kW(608ps)/6500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1500-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前400×36 後360×32mm
タイヤサイズ(リム幅):前255/40ZR20(9J) 後295/35ZR20(11J)
最高速度:322km/h
0-100km/h加速:3.9秒
車両本体価格:2428万4900円(税込)
※GENROQ 2017年 12月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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