BMWの新型EV(電気自動車)「iX」が日本に上陸した。実車を見た今尾直樹の印象とは?
BMW初のSUVタイプのEV
BMWの新時代を告げるピュアEVモデル、iXが1台だけ東京に上陸している。
ということで見学に行ってきた。お台場にあるBMWグループの旗艦ショウルーム、BMW GROUP Tokyo Bayで、7月3日(土)から7月25日(日)まで、iXのエクスクルーシヴ・プレビューなる催しがおこわれていて、申し込んだ希望者の、さらに抽選で当たったひとたちだけに白いついたての奥で密かに披露されているのだ。
見物希望者の募集は7月12日(月)午前中で終了し、しかも抽選に当たらないとiXは拝めない。こうした制限が設けられているのは、ひとつには東京がいま、緊急事態宣言下にあることもある。そこで、読者諸兄に代わり、GQ JAPANがかけつけてきたというわけです。
それは7月某日のことで、BMW GROUP Tokyo Bayの北側は、東京2020のビーチ・バレーやスポーツ・クライミングなどが開かれる仮設スタジアムとなっていて、塀の向こう側にパイプを組んでつくられた観客席がチラリと見えた。
というようなことはさておき、バイエルンのエンジン製造会社は、2030年までに世界販売台数の少なくとも半数をピュアEVにする、と本年5月に公にしている。BMWは2021年、つまり今年からすべての生産拠点を完全にネット・カーボン・ニュートラルにする、と宣言すると同時に、循環型経済において先駆的な役割を果たすつもりである、という決意表明をしてもいる。まことに立派である。と申し上げるほかない。
BMW iXは、この宣言後に発表された量産BEV(バッテリー・エレクトリック・ヴィークル)で、BMWのテクノロジーの旗艦とも位置づけられている。SUV、BMW流に申し上げるとSAV(スポーツ・アクティヴィティヴ・ヴィークル)の、BMW初のEVということにもなる。
斬新さに満ちているキドニー・グリル
ボディ構造はアルミニウム製スペースフレームを基本に、CFRPを屋根やサイド部分に用いて、高剛性と軽量化の両立を図っている。リチウム・イオン・バッテリーをホイールベース間のフロア下におさめ、低重心化と前後重量配分の最適化を図るのは、いまどきのEVづくりの文法通りだ。電気モーターを前後アクスルに1基ずつ配置する4WDであることも、またしかりといえる。
航続距離は最長で630kmと、これまた最近の高級EVのトレンド通りで、そのための電池を搭載する必要もあって、ボディ・サイズはかなりでっかい。全長×全幅×全高=4953×1967×1695mm、ホイールベースは3000mmもある。存外コンパクトに見えることも事実で、これはBMW X5より、2cmほど長いけれど、4cmほどスレンダーで、75mm背が低いことによるものだ。
iXには、性能の違いで2種類のモデルが設定されている。システム最高出力523hpのiX xDrive50は、0~100km/h加速4.6秒の俊足と630kmの航続距離を誇る。システム最高出力326hpのxDrive40は、それぞれ6.1秒と425kmで、これまた十二分に速くて、十二分に長い足を持っている。展示車両はxDrive40で、オプションの22インチという巨大なホイールを装着している。
エクステリア・デザインは、基本的にBMW初の量産EVであるi3と、BMW初のSAVであるX5を足して2で割ったような感じだし、2018年のコンセプト・カー、「BMWヴィジョンiNEXT」の市販モデルという側面もあるから、筆者のように初見でもたまげることはない。
展示車両がミネラル・ホワイトという純白のボディ色だったこともあって、とくにリア・スタイルは「スター・ウォーズ」のストームトルーパーを思わせる。コーホー、コーホーという呼吸音とともに、ダース・ベイダーのテーマ曲が流れてきたら、グッと気分が盛り上がりそうである。まことに「スター・ウォーズ」が現実社会に及ぼした影響は計り知れない。ま、これがストームトルーパーだと思うのは筆者だけかもしれませんけれど。
おそらく、誰が見ても違和感を抱くはずの箇所が、フロントのキドニー・グリルである。カタチは4シリーズですでにお馴染みだけれど、餅網のようなグリルは、絵に描いた餅ならぬ、絵に書いた餅網。ツルツルのパネルにプリントのステッカー、プラモデルでいうところのデカールを貼ったようなことになっている。エンジンほど冷却の必要がないEVならではの、いかにも異化作用と呼ぶにふさわしいグリル風装飾で、内燃機関にあらず、と思わせる斬新さに満ちている。
よく見ると、グリルの模様が描かれたパネルの中央の一部に熱線が貼ってある。内側に、運転支援用のレーダーが隠されており、レーダー波が積雪等に邪魔されるのを防いでいる。iXは最新の運転アシストや5Gのコネクティヴィティ・システムを備えた、BMWのテクノロジーの旗艦とも位置づけられているのだ。
フロントのボンネットの下には、高圧バッテリーの制御システムが搭載してあり、ボンネットは基本的に資格をもったひとしか開けられない。青と白のBMWの丸いマークは、押すとポコッと開き、そこからウィンドスクリーンのウォッシャー液を補充できるようになっている。このように、あえて機能を隠すデザインを、ハイテクならぬ、「シャイ・テク(Shy tech)」とBMWは名づけてい
運転感覚はどうなるのか?
キャビンは、日本仕様と異なるため、展示車両の撮影は禁止だったけれど、たいへん広々としていて快適だった。ホイールベースが3mもあって、全高がたっぷりとられているから当然ともいえるけれど、EV専用設計ということもあるにちがいない。
4WDとはいえ、前後の駆動は独立したモーターがそれぞれ引き受けているから、プロペラ・シャフトは必要ない。なので、後席もフロアがフラットで、スッキリしている。
デザインは、リビング・ルームのリラックスした雰囲気を持ち込んだi3の延長線上にあるけれど、スポーティ度は濃くなっている。スポーティネスを醸し出しているのは間違いなくスポーツカー風のシートである。丸型ではなくて、ほぼ横四角型のステアリングホイール(ホイールと呼んで、よいのでしょうか?)、その向こうに広がる横長のスクリーンを眺めていると、コンピューター・ゲームの世界とリアル・ドライビング世界の境界が曖昧になっていく……ような心持ちがする。
完全電気自動車のiXがどんな運転感覚をもたらすのか? 本国での生産開始が2021年秋からなので、もうちょっと待たねばならないわけだけれど、おそらくその成り立ちからしてポルシェ・タイカンが参考になるのではあるまいか。
タイカンがポルシェの内燃機関車そっくりのドライビング・フィールを提供していたように、iXもまたBMWの内燃機関車そっくりに仕立てられている。と、筆者は予想する。その証拠に、いや、証拠とはいえませんけれど、iXにはエア・サスペンションやインテグレイテッド・アクティブ・ステアリングという名称の4輪操舵システムがオプションで用意されている。よりパワフルな600hpのiX M60なるMモデルの存在を予告してもいる。
EVといえども、BMWは「シーア・ドライビング・プレジャー(混じり気のないドライビングの喜び)」を手放さないだろう。そして、内燃機関車のファンにとって幸いなことに、2030年にいたっても世界販売の半分をEV以外でまかなうと宣言してもいるのだ。
なお、現在ネットでのみ販売中のiX xDrive40ローンチ・エディションは1155万円、同50ローンチ・エディションは1373万円で、どちらも売れ行き好調だそうである。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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