2019年10月5日、早朝。清々しい空気に満ちた岡山縣護国神社。
神社の駐車場にはさまざまなクラシックカーが集合し、オーナーのみなさんが出走準備を進めています。ここからまもなく、クラシックカーラリー「ベッキオ・バンビーノ」がスタートします。このラリーは2日間をかけ、岡山県内を巡るイベントです。
「理想の愛車」を普段使いする幸せ。ルノー ルーテシアR.S. シャシーカップと暮らす、オーナーのケンタロウさんにインタビュー
筆者は、一人の男性オーナーに声をかけました。太田哲二さん・59歳。今回の主人公です。愛車は1967年式のアルファ ロメオ ジュリア スプリントGT(以下、ジュリア)。
太田さんは奥様、息子さんとともに出走されていました。このベッキオ・バンビーノには2014年4月から参加されているそうです。息子さんは毎年このラリーを楽しみにしていて、参加するために勤務先の東京から帰省してくるそうです。
「旅好き」で「人好き」なオーナー・太田哲二さん
後日、あらためてお話を伺うことに。まずはオーナー像にスポットを当てます。太田さんは岡山県在住。電子関係の企業に技術営業として勤務しています。海外出張が多くアメリカやチェコ共和国、アジア各国へ毎回単独で出向いているそうです。
「初めての国に一人で行っても、これまで何とかなってきたので、ある程度のことは“何とかなる”と気楽に考えています(笑)。現地で言葉は通じなくても、ジェスチャーやスマホの画面でコミュニケーションして、いつも楽しい思い出を作って帰国しています。クルマのイベントも、似た感覚で楽しんでいるような気がしますね。人と話すのが好きなんです」
ベッキオ・バンビーノをはじめとしたラリーイベントやイタリア車ミーティングなどに参加するため、ジュリアに乗って県外へも出かけていく太田さん。「旅好き」で「人好き」なオーナー、太田さんのカーライフに注目していきます。
カーライフの歩みを伺います
続いて愛車遍歴を伺います。太田さんの世代といえば、スーパーカーブームの洗礼を受けていらっしゃるのでは?
「漫画の『サーキットの狼』がちょうどブームの頃ですよね。私も大好きでした。やはり、主人公のマシンだったロータス ヨーロッパに惹かれました」
初めての愛車は?
「免許取得後、スズキ フロンテクーペを購入しました。2スト3気筒で、ジウジアーロがデザインした可愛くてカッコいいクルマでしたね」
2台目はどんなクルマを選びましたか?
「テレビCMに惹かれてトヨタ1300/スターレット(KP61)を中古で購入しました。CMのナレーション『私はプロのラリードライバーとして、スターレットを奨めたい。オブ・アンダーソン』がカッコ良くて……」
ライトウエイトな国産スポーツが好きに?
「いいえ、それからバイクにハマって、二輪中心の生活を長年楽しんでいました。バイクレースのひとつ『トライアル競技』に夢中で、暇さえあれば山へ行って練習をしていました。競技は県大会、地方大会を含めて年間10戦以上は出場していたと思います。そんな状況だったので、クルマは自然にトランスポーター用のハイエースばかり3台乗り継ぎました」
トライアル競技は、オフロードで足をつかず、いかに走破できるかを競います。自然を相手にした難易度の高いモータースポーツなのです。異国への一人旅や道なき道を走るのが好きな太田さんは、「冒険好き」でもあるのかもしれません。
ジュリアとの出逢い
二輪中心の生活から、アルファ ロメオのオーナーへ。太田さんは、どのような経緯でジュリアと出逢ったのでしょうか?
「トライアル競技から退いてハイエースを手放したとき、以前から憧れていたアルファ ロメオを手に入れようと思いました」
アルファ ロメオはいつ、何がきっかけで好きになったのでしょうか?
「それが、いつだったか覚えていないんです(笑)。ただ、丸目二灯のヘッドライトに逆三角のグリルというオールドアルファの顔が好きで、いつのまにかイメージにありました」
愛車に出逢ったきっかけを伺います。
「アルファ ロメオ ジュリアに乗るなら『段付き』の『おたふくフェンダー』と呼ばれるオーバーフェンダーにカスタムされた仕様が欲しくて、インターネットで探しまわりました。そして理想的な仕様の個体が1台、静岡にあることがわかったんです。店舗ではなく個人でバイヤーをされているかたが所有していました」
この個体を欲しいと思った決め手は?
「ワンオフのアルミ叩き出しで、おたふくフェンダーの仕様だったことです。これしかないと思って問い合わせてみたところ『理解のある方にしか譲れない』と、オーナーさんから言われました。そこで私は直接交渉するため、静岡まで行くことを決めました。妻には『浜松へおいしいウナギを食べに行こう』と言って連れ出しました(笑)」
ジュリアのオーバーフェンダーは、アルフィスタの間では「おたふくフェンダー」と呼ばれて親しまれています。当時のツーリングカーレースに参戦していたホットモデル、ジュリアスプリントGTAの仕様としてレースカーに装着されていました。太田さんはこのフェンダーを眺めるのが、大のお気に入りだそうです。
交渉時には、どんなやりとりがあったのでしょうか?
「まず、このジュリアが好きだと心をこめて伝えました。それからイタリアのバイクを長年乗ってきたので、自分で整備もできることもアピールしました」
50年前の「旧車」ということで、購入前に不安はなかったのでしょうか?
「壊れたらそのときで“何とかなる”と楽観的でしたね。妻には『床に穴が空いてるけど、イイの?』と言われましたけど(笑)」
主治医・西さんとの縁
太田さんの奥様が「床に穴が空いている」とおっしゃっていたように、このジュリアは内装がほとんどない状態で納車されたそうです。太田さんが手直しして乗っていたそうですが、ブレーキやクラッチなどのトラブルが相次いでいたとのこと。
現在は優秀な「主治医」と縁があり、ジュリアは快調だそうです。
「2014年、ベッキオ・バンビーノへ初めて参加したとき、ブレーキのトラブルが発生して一時走行不能になってしまったんです。そのとき、たまたま見学で来られていた西さん(写真)が、応急処置をしてくれたのがきっかけでした」
太田さんが信頼を寄せる主治医であり、友人の整備士・西栄一さんはレーシングドライバーとしての活動歴のほか、レースメカニックの経歴も持ちます。クラシックカーからフォーミュラカーまで、あらゆるクルマに精通した整備士です。
すべてのメンテナンスを西さんに依頼するという太田さん。2015年にはエンジン・足回り・ミッションを徹底的にリフレッシュ。オーバーホールを行い、クラッチディスク・クラッチカバー・軽量フライホイールはオーエス技研製に交換されています。加えてミッションも、同メーカーのジュリア用クロスミッションに一新されました。
軽量化を目的としたカーボンパーツは、配色も美しく
「旧車は、オリジナルを維持したいというオーナーさんが多数だと思いますが、私はカスタムするほうが好きなんです」
と太田さん。ジュリアにも自らモディファイを施しています。軽量化としてボンネット・トランク・左ドアをカーボン製にし、自作のステッカーラインで装飾しています。真紅のボディとのコントラストも素敵です。
人生を変えた1台
筆者は、ジュリアの助手席に乗せていただく機会に恵まれました。幸せそうにドライブする太田さんへ、このクルマに乗って良かったと感じる点を尋ねてみました。
「乗って大正解でした。 “良かった”しかないですね。シートに座った瞬間から楽しいです。こういうクルマなので、毎回あたりまえにエンジンが掛かってくれるわけではありませんが、そこが良い。あたりまえの操作に、幸せを感じられるようになりました」
さらに、ジュリアが縁で交流がひろがったことも、乗って良かった理由だと話す太田さん。
「イベントはもちろん自動車専門のSNSで、たくさんの友人ができたことがうれしいですね。クルマのイベントだけでなく、食事会やお茶会も一緒に楽しんでいます。さらに西さんのように、故障や修理を通して人の縁がひろがっていくところも凄くて、まるで魔法のようですね。このジュリアのおかげで縁に恵まれて、毎日が充実しています。私の“人生を変えた1台”といえるのではないでしょうか」
最後に、愛車と今後どう過ごしていきたいかを尋ねてみました。
「少しずつ故障も出てくると思いますが、走れるように維持して、長く付き合っていきたいです。これからも一緒に楽しい時間を過ごせる、良きパートナーであってほしいですね」
カーライフを、まさに“五感”で満喫中の太田さん。終始にこやかな太田さんと快調に走るジュリアから「最愛の1台が人生を豊かにする」を感じられた気がしました。
最愛のジュリアと、これからも最高のカーライフを!
[画像提供/太田哲二]
[取材協力/西栄一、ベッキオ・バンビーノ実行委員会]
[ライター・カメラ/野鶴美和]
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