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驚くほど明快なクルマだった──新型トヨタ・クラウン試乗記

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驚くほど明快なクルマだった──新型トヨタ・クラウン試乗記

トヨタの新型「クラウン」に設定された2.4L デュアルブーストハイブリッドシステム搭載モデルに今尾直樹が試乗した。2.5L シリーズパラレルハイブリッドシステムの違いはいかに?

文明開花したクラウン・ロイヤル

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新型クラウン・クロスオーバーのスポーティ・モデル、新開発の2.4リッター・ターボ・ハイブリッドを搭載した、グレードでいうと「RS」の出荷開始のタイミングをとらえ、トヨタが秋の箱根で試乗会をあらためて開いた。

これでクラウン・クロスオーバーのふたつのパワートレインが出揃った。どっちも力作だ! と、筆者は思った。モリゾウこと豊田章男社長が、「これ、クラウンだね」と動画で語っていたことばの意味がわかる気もした。新しい。でも、クラウンだったのである、新しいクラウンは。

試乗は2.5リッター直4とモーターを組み合わせたトヨタ方式のハイブリッドを搭載するGからだった。「つくり込みの関係」で先に投入されていたわけだけれど、筆者にとってはこちらも初体験。正直申し上げると、Gのほうがビックリ度は大きかった。やっぱり、初モノのほうがインパクト大だし、なによりクラウン・クロスオーバーG、試乗車はその最上級仕様の“アドバンスト・レザーパッケージ”は、ドライビング・フィールがフランス車を思わせたからだ。

225/45R21という、特大の直径で、比較的扁平率の高いタイヤを装着しているのに、ふわふわの乗り心地で、パワーは控えめ。山道を走りまわっていると、自動車にとってエンジンはあればいい。しなやかな乗り心地、深いロールこそドライビングの楽しみである。という境地に至った。

少々気になるのは、2.5リッター直4のアトキンソン・サイクル・エンジンが2000rpmから上でガーガー、電気掃除機のような音を発することだ。ただ、このガーガー音は慣れる。出なければ、電気掃除機も、これほど普及しない。そもそも、「アクア」と同じ、でも搭載量は異なるバイポーラ型ニッケル水素バッテリーの出力が大きいので、一般道をフツーに走っていると、ほぼほぼEV走行に切り替わる。だから、とても静かで、クラウンの名にふさわしい。

クラウン・クロスオーバーは、フツウのセダンよりちょっぴりリフトアップしている。同じGA-Kプラットフォームの兄弟車でいうと、SUVの「ハリアー」、レクサス「RX」と、セダンの「カムリ」、レクサス「ES」のクロスオーバーしたところにいる。

筆者が不思議に思ったのは、乗り心地はストローク感たっぷりで、凸凹路面でふわりとしたあと、すぐさま収束する点だ。ピッチングが残らない。それはもう不思議なほどで、リフトアップしたクルマでこんなことをどうやって実現しているのか、開発担当者に質問したところ、「スウィングバルブショックアブソーバー」を使っているから、ということだった。レクサスESから使い始めた微振動を吸収するダンパーである。

さらに、タイヤ・メーカーに乗り心地のいいタイヤを、とリクエストし、数値ではなく感性で選んだものを装着している。骨太のところではリア・サスペンションにGA-Kプラットフォームとしては初のマルチ・リンクを採用、ボディのリアが沈み込むのを抑えている。このマルチ・リンクは、開発担当者氏によると「FRに使っても遜色のないもの」で、まもなく国内にも登場するレクサスの新型RXと共用している。

電子制御関係では、標準装備のDRS(ダイナミック・リア・ステアリング=後輪操舵)と、ブレーキを、操縦安定性ではなく乗り心地に使っている。ヨーの出始めにロールを抑える制御というのだ。もちろん、後輪をモーターで駆動する4WDであることも、リアの落ち着きにつながっている。

それでいて、よく曲がる。基本的にアンダー・パワーだから、ということもあるのだろう。いわゆる、シャシーがエンジンより速い。コーナーと速度、状況によっては深々とロールする。そのロールはゆっくりじんわりと起きる。だから落ち着いていられる。中低速コーナーが連続する上り坂だと、パワーを全部使い切っている気分に浸れる。遅いけど、楽しい。傾いたフロント・ガラスから前方の風景を見ながら、筆者はこのとき、シトロエン「C3エアクロス」を思い出した。

クラウンがフランス車っぽいなんて! と、思われるかもしれない。思い出してほしい。ふわふわの乗り心地は、つい最近までロイヤル系クラウンの持ち味だったことを。1955年の初代クラウンから長いこと、アメリカ車の小型版だった、といってもよい。

一方、フランス車はフランス車で、アメリカ車の快適性を目標にしていたという説もある。代表例がシトロエン「DS」だ。1950~1960年代はアメリカ車の黄金時代だから、アメリカ車が世界の基準になっていた。つまりクラウンとフランス車はアメリカ車を介してつながっている。といえないこともない、と筆者は思う。

あるいは、今回、開発担当者に聞こうと思って聞きそびれてしまったのですけれど、新型クラウン・クロスオーバーはスタイリングも含めて、もしかしたらフランス車っぽくしよう…….

いや、たとえそうであっても、そうではなくても、問題はそういうことではなくて、クラウンの開発者たちはとにかくエンジン横置きの、前輪駆動用のプラットフォームを使って、自分たちが考えるクラウンに仕立てるべく奮闘した。その結果が、僕たちの前に現れた新型クラウン・クロスオーバーGであり、文明開花したクラウン・ロイヤルなのである。

なんといってもエンジンがいい本題はここからである。

新型クラウン・クロスオーバーG“アドバンスト・レザーパッケージ”から同RS“アドバンスト”に乗り換えて、一般道を走り始めた直後は、なんだか違和感があった。ボディがちょっと重い。乗り心地も若干硬い。なんとなく座面も高い。シート座面の横にあるスイッチに手をやって、押したり引いたりもしてみた。座面はすでにいちばん下になっていた。

いまから考えると、筆者の身体が高性能車に乗っているみたいに感じたのだろう。これは着座位置がもっと低いほうがしっくりきそうに思えた。この違和感はRSに身体が馴染むにつれ、いつの間にか消えてしまった。申しあげたかったのは、RSはなんとはなしに高性能車の気配を醸し出している、ということだ。

なんといってもエンジンがいい。やっぱり自動車はエンジンである。という境地に至った。アクセルを踏み込む。そうすると、2.4リッター直列4気筒ガソリンターボ・エンジンが快音を発しながら、スムーズに回転を積み上げる。タコメーターがないのは残念だけれど、じつに小気味よく吹け上がる。2.5リッター直列4気筒みたいに、2000rpmから上でガーガーいったりしない。静かである。トルクがたっぷりしているから、回さなくても十分速い。

2.4リッター直列4気筒ガソリンターボ・エンジンは昨年発売されたレクサス「NX350」用と基本的に同じユニットである。ただし、単体での最高出力は272ps/6000rpm、最大トルクは460Nm/2000~3000rpmと、NX350用より7ps控えめながら、トルクは30Nm増えている。加速の際には、82.9psと292Nmを発するフロントのモーターと、80.2ps、169Nmのリアのモーターが助太刀する。

RS “アドバンスト”は装備てんこ盛りで、車重は車検証の数値で1950kgもある。先に試乗したGより160kg重い。こんなに重量差があるのに、RSはけっこう速い。それは、Gの2.5ハイブリッドのシステム最高出力が234psなのに対して、RSの2.4ターボのハイブリッドは349psと100ps以上強力だからだ。

おまけに、2.4ターボのハイブリッド・システムは、同じハイブリッドでも方式が異なる。2.5は従来のトヨタ方式である「シリーズ・パラレル」で、2.4ターボはトヨタにとっては初となる「パラレル」式を採用している。

「デュアル・ブースト・ハイブリッド・システム」と名づけられたこの方式は、エンジンと6速ATのあいだにモーターを1基はさんでいる。つまり、エンジン~モーター~6ATと横一列に並んでいる。トヨタ方式は、エンジンの動力を遊星ギアで分割して、発電用のモーターと動力用のモーター、ふたつのモーターに送る複雑な機構だ。

新方式はエンジン、トランスミッションのあいだにそれぞれクラッチが設けてあって、このふたつのクラッチをつないだり離したりすることで、モーターは前輪を駆動したり、エンジンを助太刀したり、あるいは発電したりする。ターボラグを埋めるべく、アクセルに対して俊敏に反応し、エンジンだけでは望めないレスポンスを実現してもいる。エンジンが発生するトルクを予想してモーターを動かすという複雑な制御を、サラッとおこなっているのだ。

スタートからしばらくはEV走行するけれど、電気式無段変速のトヨタ方式とは異なり、6速ATを備えていて、変速ショックもある。ピュア内燃機関車に近い味わいがあり、2.4リッター・ターボのよさをストレートに感じることができる。

ちなみに、従来のトヨタ方式に、この2.4ターボを搭載することも検討されたという。ところが、それを実現するためには、理論上、エンジンの高出力化に合わせてモーターの能力を上げなければならず、そうするとモーターのサイズが大きくなって、エンジン・ルームに入らない。そこで、もともと商用車用として検討していたパラレル方式を採用したのだそうだ。

サスペンションは電子制御のAVS(アダプティブ・ヴァリアブル・サスペンション・システム)が奢られており、コンソールにあるドライブ・モードのスイッチもGのエコ、ノーマル、スポーツの3段階に対して、エコ、コンフォート、ノーマル、スポーツS、スポーツS+、カスタムの6段階に増えている。バネを硬くしているのは、重量が増えているからで、その重量増は2.4ターボ・エンジンが重いからだという。

RSの場合、リアのモーターはGの54.4ps、121Nmより、馬力でおよそ25ps、トルクで48Nm、強力になっているだけではなくて水冷化されている。そうすることでモーターの加熱を防ぎ、常時使えるようになっている。Gは空冷なので、常時パワーを出していると、必要なときに出せなくなる。そのため、直進時はお休みする。その代わり、ステアリングを切ったときには高μ路面でもアシストしてくれる。モーターで後輪を駆動するE-Fourであることはおなじだけれど、Gのシステムがスタンバイ4WDだとすると、RSはフルタイム4WDにあたる。

時間がないことが幸いした?本年7月に世界初公開された新型クラウンは、1955年登場の初代以来、縦置きだったエンジンが横置きになり、デザインは四角から流線型に、尾張名古屋は城でもつ、といった雰囲気のグリルは消え去った。しかも、このクロスオーバーが第1弾として、スポーツ(ハッチバック)、エステート(SUV)、それにセダンとボディが4つもある。

あまりに斬新なデザインだったので、これはもともと国際商品として開発されていたXというモデルを、クラウンという名称に途中で切り替えたのではないか? と筆者は推理した。クラウンというトヨタの大看板の名前を残すために、である。この推理をせっかくのチャンスなので、開発陣に確認してみた。

答は、きっぱり、最初からクラウンとしてスタートした、ということだった。新型クラウンは世界展開するといっても、いちばんのマーケットは国内だという。セダン市場がシュリンクしていることもある。だから、筆者の推理は完全にハズレだった。

新型クラウンの開発期間は、どこをスタート地点とするかにもよるけれど、トヨタ最短だった。試作検討車ができたのは2020年の夏か秋だった。秋だったとしても、箱根での試乗会までわずか2年。余計なことをやっている時間がなかった。

新型クラウンがかくも明快なクルマに仕上がったのは、時間がないことが幸いした。時間というのはまことに不思議なものである。

ただ、開発陣のみなさんがひとつの方向に向かっていけたのは、それがクラウンだったから。ということはいえるにちがいない。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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