バブル景気の落とし子「六本木のカローラ」
text:Takuo Yoshida(吉田拓生)
photo:Satoshi Kamimura(神村 聖)1980年代初頭の日本において、輸入車はまだ特別な存在と言えた。
【画像】BMW 320i(E30)/当時のカローラ 全20枚
販売店が少なく、国産車と比べた場合の価格差は現在以上にあり、それでいて信頼性は褒められたものではなかったからである。
それでも1980年代の中盤以降、わが国における輸入車の販売台数は急激に増加していくことになる。有名なバブル景気である。
輸入車の中でも特にドイツ車の人気が高かったが、最もポピュラーな1台が、1982年にデビューした「E30」ことBMWの2代目3シリーズだった。
バブル景気の頂へと駆け上がっていた当時の日本において、E30は「六本木のカローラ」と呼ばれていた。
風変わりなニックネームは1980年代終盤、毎晩のように賑わっていた六本木界隈で、E30がまるでトヨタ・カローラのように群れていたことに因んでいる。
と同時にこのニックネームは侮蔑的な意味合いも含んでいたようだ。
5ナンバー枠に余裕で収まってしまうコンパクトなボディが、平凡な国産車のように見られていたからである。
車格はカローラ、ライバルはマークII?
日本中に広く普及したことで親しまれ、時に軽んじられることもあったBMW E30、3シリーズ。その中身はBMWらしさに溢れた充実した内容を誇っていた。
ベーシックな318iは1.8Lの直列4気筒エンジンを搭載していた。しかし上位モデルの320iや325iはコンパクトなエンジンルームにBMWの伝家の宝刀ともいえるストレート6エンジンを詰め込んでいたのである。
全長4325mm、全幅1645mmというE30のボディサイズを当時の国産車に当てはめれば、トヨタ・カローラを微かに大きくした程度。
だが同年代のE8#型、E9#型といったカローラは1.3Lから1.6Lくらいの4気筒エンジンを横置き搭載した前輪駆動車に過ぎなかった。
対する320iはストレート6、縦置きFRレイアウトだったのである。
国産車でBMW E30、3シリーズに匹敵するスペックを与えられていたモデルの好例はトヨタ・マークII(6代目X80型)である。
同じように直6エンジンとFRレイアウトを与えられていたが、ボディサイズはE30より全長で360mm、全幅で50mmも大きかった。
一方スペック的には似通ったE30とマークIIだが、価格的には大きな開きがあった。
2L直6ツインカム・エンジンを搭載したマークIIグランデの新車価格が205万円だったのに対し、BMW 320iは368万円もしていたのである。
BMW 3シリーズの極めつけ、当時もM3
BMW E30、3シリーズは今日に続くBMWのスタンダード・セダンの開祖といえる。E30は標準的な4ドアセダンの他にも、今日のように多くのバリエーションが揃っていた。
2ドア・クーペ/カブリオレ/ツーリングワゴン、そして車名の末尾にXのアルファベットが追加された4駆といったモデルたちである。
中でも極めつけの1台が、初代のBMW M3である。BMWモータースポーツ社(現在のBMW M Gmbh)が手掛けたスポーツクーペはE30のモノコックボディを核として、ワイドなタイヤを収めるブリスターフェンダーや、当時としては大型のリアウイングを備えていた。
パワーユニットはモータースポーツ直系の4気筒ツインカムが組み込まれていた。
初代M3はグループA規定のツーリングカーレースやラリーに参戦するためのベース車両だった。だがモータースポーツシーンにおける圧倒的な戦績と攻撃的なスタイリングがロードモデルの販売も後押しした。
初代M3の人気は80年代当時からが翳ることがなく、今でも当時の新車価格(650~750万円)を上回る個体があるほどだ。
60年代に誕生したノイエクラッセのメカニズムをさらに洗練させ、80年代から90年代初頭にかけて小型セダンの規範となったE30。
後編では今や30年ものネオクラシックとして再び脚光を集めはじめているBMW E30、3シリーズを現代の眼で試乗、評価してみようと思う。
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