現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 世界の巨人が最も恐れた競争相手? トヨタはなぜ軽自動車を自社開発しないのか

ここから本文です

世界の巨人が最も恐れた競争相手? トヨタはなぜ軽自動車を自社開発しないのか

掲載 更新 36
世界の巨人が最も恐れた競争相手? トヨタはなぜ軽自動車を自社開発しないのか

 トヨタは2011年に、ダイハツ製OEM軽自動車のピクシススペースを発売した。これはダイハツ ムーヴコンテの姉妹車で、これ以降のトヨタは、軽自動車のピクシスシリーズを拡大している。

 しかし、トヨタはその歴史の中で1度も軽自動車を開発したことがない。

【独占】声優レーシングチームVARTに2台目の「ハチロク」出現! そのウラ事情とは??

 今やホンダのN-BOXは日本一売れているクルマとなり、日産も三菱との協業で積極的に軽自動車に関与している。トヨタにしても、OEM車を販売しているということは、少なからず軽の必要性を感じている、と見ることもできる。

 そうした事情があるにも関わらず、なぜトヨタは軽自動車を自社開発しないのだろうか。

文:渡辺陽一郎
写真:TOYOTA、DAIHATSU、編集部、NISSAN

【画像ギャラリー】現在はのべ5台! トヨタのOEM軽自動車 全ラインナップ

ダイハツの軽自動車本格化 実はトヨタとの提携後だった?

1961年に発売されたパブリカ。全長は約3.5mと現代の軽自動車よりやや長いものの、全幅は約1.4mとコンパクトだった

 トヨタが軽自動車を自社開発した経験はないが、過去を遡ると、ほかのメーカーと同じく小さなクルマ作りには取り組んだ。1955年に通商産業省(現在の経済産業省)自動車課が、国民車育成要綱案を発表したのがきっかけだった。

 その概要は、エンジン排気量が350~500ccで乗車定員は4名。最高速度は100km/h以上、燃費は30km/L以上で、価格は25万円以下というものだ。

 この要綱案を検討したところ、最終的には実現不可能と判断されている。特に25万円の価格に無理があった。1955年に発売された軽自動車のスズキ スズライトは当時の価格が42万円、1958年発売のスバル360も42万5000円だったから、25万円は非現実的であった。

 それでもトヨタは、この要綱案に合わせ、1956年に1A型試作車を開発した。ボディは全長が3650mm、全幅は1420mmの2ドアで、エンジンは4サイクル空冷水平対向2気筒698cc。駆動方式はスズライトなどと同じく当時では斬新な前輪駆動だった。

 これを後輪駆動に改めて開発を続け、1961年に小型車のパブリカとして市販している。国民車育成要綱案は廃案になったものの、国産メーカーが小型車を開発する時の指標になった。

ダイハツ初の軽乗用車となった「フェロー」

 そして1967年には、日本政府が資本自由化の基本方針を打ち出し、日本メーカーにも国際競争力が求められた。これによって生じたのが自動車業界の再編で、トヨタとダイハツは同年に業務提携を結んだ。

 ダイハツは、1960年代後半にトヨタと業務提携を結んで今に通じる受託生産に乗り出し、軽乗用車市場にも参入した。つまりダイハツは軽自動車事業も、トヨタと手を組んで本格化させたことになる。

 一般的にはトヨタが軽自動車メーカーだったダイハツを傘下に収め、トヨタグループを強化したように受け取られるが、実際はダイハツが軽自動車市場で成長する時には、すでにトヨタと提携していた。

トヨタは「最も恐れた軽自動車」を仕方なく売った?

ダイハツからのOEM車として2011年に発売されたトヨタ初の軽自動車「ピクシススペース」

 トヨタにとってもダイハツは欠かせない提携相手だから、その主要市場になる軽自動車に乗り出すことはなかった。また1970年に111万台だったトヨタ車の国内登録台数は、1980年に149万台、1985年は168万台、1990年には250万台に達する。

 このように小型/普通車で急成長していれば、1台当たりの粗利が少ない軽自動車を扱う必要はなかった。

 ところが1990年代の中盤以降は、トヨタの国内販売が激変する。

 1995年は206万台に下がり、2000年は177万台、2010年は157万台まで急降下した。1990年から2010年までの20年間で、トヨタの国内登録台数は93万台、比率に換算すれば37%減っている。

 この過程でトヨタが最も恐ろしく感じた競争相手が軽自動車であった。軽自動車の国内届け出台数は、1990年には180万台だったが、1999年には188万台に増えて、2006年は202万台に達した。トヨタ車が37%減る一方で、軽自動車は1998年の規格変更などを経て車種も充実させ、売れ行きを12%増やした。

 しかも、軽自動車の好調な販売を支えるのは、トヨタ車を始めとする小型/普通車からのダウンサイジングだ。軽自動車が急速に増殖して、国内の自社市場を食い荒して行く。

 恐怖を感じて当然だ。背景にはリーマンショックのために、2010年に発売されたトヨタ ヴィッツなどの質感が従来型に比べて著しく低下したことなども影響した。

 そこで2011年に、トヨタはダイハツからOEM車のピクシススペースを導入した。トヨタの顧客が軽自動車に乗り替えるのは避けたいが、説得しても無理な場合、ピクシススペースに誘導して顧客流出を防ぐのが狙いだった。

 このような事情だから、ピクシススペースを扱う当時の販売店からは、

「軽自動車を売っても儲からない。販売会社の受け取る1台当たりの粗利とセールスマンの歩合が、小型/普通車に比べて大幅に少ない。商品をラインナップしながら、積極的に売らないよう仕組まれている」

という話も聞かれた。まさに仕方なく軽自動車を扱った。

人気車ルーミー/タンクは“軽自動車対策”で生まれた?

2020年4月は登録車販売ランキングで8位に入ったルーミー。軽自動車への過度な乗り替えに対する回答としてトヨタが急遽開発したクルマと渡辺氏は指摘

 そして2014年には、トヨタにとって状況が一層悪化した。同年初頭に発売された先代スズキ ハスラーが好調に売れ、ダイハツとの販売競争が激化したからだ。

 販売会社が在庫車を届け出して販売台数を粉飾する自社届け出も活発に行われ、2014年の軽自動車届け出台数は、史上最高の227万台に達した。

 自社届け出もあったから、すべてがユーザーの手にわたったわけではないが、統計上は国内で新車として売られたクルマの41%が軽自動車になった。

 トヨタの国内販売は依然として伸び悩み、2014年は1990年に比べて40%減少したが、軽自動車は26%増えた。小型/普通車のユーザーが、次々と軽自動車に乗り替えるトヨタにとって恐ろしい光景が展開された。

 そこで生まれた商品企画が、トヨタ ルーミー&タンク/ダイハツ トール/スバル ジャスティだ。

 2014年にはハスラーも好調に売れたが、同年の販売1位はダイハツタント、2位はホンダN-BOXだ(両車とも先代型)。いずれも全高が1700mmを超えるボディで車内が広く、後席を畳めば自転車などの大きな荷物も積める。

 これと同様の機能を備えた登録車を作れば、軽自動車への顧客流出を食い止められると考えた。

こちらはダイハツブランドのトール。トヨタのルーミー/タンクと合わせて姉妹車として高い人気を誇る

 ただし、時間がない。そこでダイハツに大急ぎの開発を要請した。ルーミー&タンクの開発者によると「開発に要した期間は2年少々」だから、2016年11月の発売から逆算すると2014年9月頃に開発を始めている。ダイハツ対スズキを軸に、軽自動車の販売合戦が激化した時期だ。

 短期間の開発には無理があった。

 開発者によると「新しいプラットフォーム(今のDNGAの考え方に基づくタイプ)は完成しておらず、パッソ&ブーンと同じタイプを使った。エンジンも同様にパッソと同じ直列3気筒1Lに絞られた」という。

 パッソ&ブーンのプラットフォームは、もともと900~950kgの車両重量を想定したが、ルーミー&タンクは背が高くスライドドアなども装着するから、最も軽いグレードでも1070kgだ。100kg以上重く、全高も1700mmを上まわるから重心も高い。走行安定性と乗り心地に不満が生じた。

 車両重量の増加に応じてターボも用意したが、頻繁に使う2000回転前後のノイズが耳障りだ。開発者に尋ねると「ターボのノイズは開発過程で重点的に対策を行ったが、充分に抑え切れず、時間切れになった」と述べた。

それでも日産・ホンダと異なるトヨタの「軽に対する姿勢」

日産のデイズと三菱のeKシリーズ。開発は三菱主体ながら日産も企画に入り、単にOEM車を売るだけではなく、軽自動車事業に積極的に関与

 もともとトヨタはダイハツの立場を尊重して軽自動車を任せていたが、軽自動車市場の拡大で自社もOEM車を扱い、なおかつ対抗策としてルーミー&タンクも商品化するようになった。

 それでも完全子会社にダイハツがあるため、ホンダのように軽自動車の依存度を極端には高めていない。ホンダでは、2019年度に国内で新車として売られたクルマの内、N-BOXが36%を占めた。軽自動車全体なら52%に達する。

 日産は2002年に、スズキ MRワゴンのOEM車をモコとして発売。当時、日産車ユーザーの22%が軽自動車をセカンドカーとして併用しており、これを日産ブランドのモコに変えれば拡販を図れると考えた。

 この時点で軽自動車の役割は、小型/普通車の販売を支援する脇役だったが、売れ行きが伸びて次第に主役へ変わっていく。

 日産は三菱と合弁会社のNMKVを立ち上げ、2013年には共同開発した先代日産デイズ&三菱eKスペースを発売した。今では日産も、国内新車販売台数に占める軽自動車比率が38%に達する。

 日産、ホンダともに小型/普通車の車種数を減らす動きもあるから、今後はますます軽自動車への依存度と販売比率が高まる。

 この動きが行き過ぎると、軽自動車の税金がさらに高まって高齢者を困窮させたり、販売会社の経営を圧迫する。クルマ好きには選べる車種が減る。

 小型/普通車も軽自動車のように日本のユーザーを見据えた開発を行い、40%近い軽自動車比率を25%程度に抑えるべきだ。

 特にホンダと日産は、トヨタと同様、軽自動車との距離をもう少し離したい。軽自動車のユーザーと商品を守るために、小型/普通車を強化したい。

【画像ギャラリー】現在はのべ5台! トヨタのOEM軽自動車 全ラインナップ

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

全車[EV]化計画を撤回!? ベンツもボルボもEV化減速してるけど…[ホンダ]はどうするん? 
全車[EV]化計画を撤回!? ベンツもボルボもEV化減速してるけど…[ホンダ]はどうするん? 
ベストカーWeb
ホンダが激カッコいいSUV発表! [アキュラADX]みたいなクルマが日本にも必要だろ!
ホンダが激カッコいいSUV発表! [アキュラADX]みたいなクルマが日本にも必要だろ!
ベストカーWeb
[車検]費用が増える? 2024年10月より車検での[OBD検査]を本格運用へ
[車検]費用が増える? 2024年10月より車検での[OBD検査]を本格運用へ
ベストカーWeb
即納って不人気車なの!? なんでそんなに待たなきゃならん!? [納期]にまつわる素朴なギモン
即納って不人気車なの!? なんでそんなに待たなきゃならん!? [納期]にまつわる素朴なギモン
ベストカーWeb
いまさら人には聞けない「ベンチレーテッドディスク」と「ディスク」の違いとは? ブレーキローターの構造と利点についてわかりやすく解説します
いまさら人には聞けない「ベンチレーテッドディスク」と「ディスク」の違いとは? ブレーキローターの構造と利点についてわかりやすく解説します
Auto Messe Web
ラリージャパン2024開幕直前。豊田スタジアムやサービスパークの雰囲気をお届け/WRC写真日記
ラリージャパン2024開幕直前。豊田スタジアムやサービスパークの雰囲気をお届け/WRC写真日記
AUTOSPORT web
メルセデス・ベンツの『GLE』系と『GLS』にオンライン先行受注にて“Edition Black Stars”を設定
メルセデス・ベンツの『GLE』系と『GLS』にオンライン先行受注にて“Edition Black Stars”を設定
AUTOSPORT web
ラリージャパン2024“前夜祭”が豊田市駅前で開催。勝田貴元らが参加のサイン会とパレードランが大盛況
ラリージャパン2024“前夜祭”が豊田市駅前で開催。勝田貴元らが参加のサイン会とパレードランが大盛況
AUTOSPORT web
フランス人スター選手と一緒の気分? 歴代最強プジョー 508「PSE」 505 GTiと乗り比べ
フランス人スター選手と一緒の気分? 歴代最強プジョー 508「PSE」 505 GTiと乗り比べ
AUTOCAR JAPAN
セカオワが「愛車売ります!」CDジャケットにも使用した印象的なクルマ
セカオワが「愛車売ります!」CDジャケットにも使用した印象的なクルマ
乗りものニュース
トヨタWRCラトバラ代表、母国戦の勝田貴元に望むのは“表彰台”獲得。今季は1戦欠場の判断も「彼が本当に速いのは分かっている」
トヨタWRCラトバラ代表、母国戦の勝田貴元に望むのは“表彰台”獲得。今季は1戦欠場の判断も「彼が本当に速いのは分かっている」
motorsport.com 日本版
メルセデスAMGが待望のWEC&ル・マン参入! アイアン・リンクスと提携、2025年LMGT3に2台をエントリーへ
メルセデスAMGが待望のWEC&ル・マン参入! アイアン・リンクスと提携、2025年LMGT3に2台をエントリーへ
AUTOSPORT web
TCD、モータースポーツ事業を承継する新会社『TGR-D』を2024年12月に設立へ
TCD、モータースポーツ事業を承継する新会社『TGR-D』を2024年12月に設立へ
AUTOSPORT web
ウイリアムズとアメリカの電池メーカー『デュラセル』がパートナーシップを複数年延長
ウイリアムズとアメリカの電池メーカー『デュラセル』がパートナーシップを複数年延長
AUTOSPORT web
“650馬力”の爆速「コンパクトカー」がスゴイ! 全長4.2mボディに「W12ツインターボ」搭載! ド派手“ワイドボディ”がカッコいい史上最強の「ゴルフ」とは?
“650馬力”の爆速「コンパクトカー」がスゴイ! 全長4.2mボディに「W12ツインターボ」搭載! ド派手“ワイドボディ”がカッコいい史上最強の「ゴルフ」とは?
くるまのニュース
フェラーリ育成のシュワルツマンが陣営を離脱。2025年はプレマからインディカーに挑戦
フェラーリ育成のシュワルツマンが陣営を離脱。2025年はプレマからインディカーに挑戦
AUTOSPORT web
スバルBRZに新たな命を吹き込む 退役軍人のセカンドキャリアを支援する英国慈善団体
スバルBRZに新たな命を吹き込む 退役軍人のセカンドキャリアを支援する英国慈善団体
AUTOCAR JAPAN
オープンカー世界最速はブガッティ!「ヴェイロン」より45キロも速い「453.91km/h」を樹立した「W16ミストラル ワールドレコードカー」とは?
オープンカー世界最速はブガッティ!「ヴェイロン」より45キロも速い「453.91km/h」を樹立した「W16ミストラル ワールドレコードカー」とは?
Auto Messe Web

みんなのコメント

36件
  • トヨタの伝統的手法でしょうね?軽自動車⇒ダイハツ・スポーツエンジン⇒ヤマハ・ディーゼルエンジン⇒日野・トランスミッション⇒アイシン精機・等…一から醸成するよりも他社の技術を『提携』や『子会社化』して取り入れた方が効率がイイ…そうやって大きくなった会社です。
  • 国内需要しかない上に大して利益の出ない軽自動車をわざわざトヨタが1から開発しても何の足しにもならないからでしょ?
    それならダイハツが作った物をバッヂだけ付け替えてそのまま売る方が効率がいい

    パッソやブーンなんかは東南アジアで売れるし、それを流用してトールやルーミーを作れば国内向けの車も作れるから一石二鳥だし、ダイハツも上手く考えたもんだ
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村