2024年シーズンで9年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。ヨーロッパラウンドに入ってから入賞が遠のいていたハースだったが、今シーズン最初の3連戦では一気に20ポイントを獲得。コンストラクターズ選手権においても、一度は追い抜かれたアルピーヌを逆転し7位に浮上した。
さらにイギリスGPの前には、2025年よりオリバー・ベアマンを起用することを正式に発表した。今年すでにフェラーリからF1にデビューし、高い評価を受けているベアマンだが、小松代表はこの19歳の若手をどう評価しているのだろうか。3連戦の週末を小松代表が振り返ります。
ヒュルケンベルグ6位「アップデートで向上。チームとして5番手を狙える位置に」RBに迫るハース、その差は4点
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2024年F1第10戦スペインGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選16番手/決勝17位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選13番手/決勝11位
第11戦オーストリアGP
#20 ケビン・マグヌッセン スプリント予選11番手/スプリント9位/予選9番手/決勝8位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ スプリント予選17番手/スプリント19位/予選12番手/決勝6位
第12戦イギリスGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選17番手/決勝12位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選6番手/決勝6位
3連戦の最後、イギリスGPの前に、2025年からオリバー・ベアマンを起用することを正式に発表しました。オリーはイギリス出身の19歳で、2021年の11月からフェラーリドライバーアカデミー(FDA)のメンバーとして経験を積み重ねてきました。今年はプレマ・レーシングからFIA F2に参戦し、2年目のシーズンを迎えているドライバーです。
オリーがどんなドライバーかと言えば、ナチュラルな速さと才能を持っていている上にとても頭のいいドライバーだと思います。タイヤのマネージメントに関してもいい感覚を持っていて自分から積極的に追及していくタイプです。もちろん今の時点ですべてをわかっているわけでもできるわけでもありませんが、とにかく自分からやろうとする姿勢があって、いい感覚を持っているので吸収も早く、エンジニアから言われたことに反応して修正する能力も高いです。
僕のなかで大きな評価ポイントになったのは、チームが今何をしなければいけないのか、このセッション、このランで何をするべきなのかを考えた時に、自分が果たさなければならない役割をしっかりと理解して貢献できるところです。ルーキードライバーがFP1を走ると、自分の能力を示そうとしたり、速く走ろうとして毎周予選アタックみたいな走り方をするようなドライバーもいるのですが、彼はそうではありません。
人柄もポジティブで、この人と仕事をしたい、一緒に仕事をしていて楽しいと思えるような人間です。昨年のメキシコシティGPのFP1でオリーを起用して以来、現場に来る彼の父親とも話すのですが、彼の両親はオリーにしっかりした人間に育ってほしいと考えて、きちんと学校に通わせていたため、レースではあるレベルまではイギリス国内の選手権のみに出場させていたようです。最初に会った時から、オリーがきちんとした環境で育ってきたのを感じましたし、ご両親のそういう育て方が彼の今の人柄・態度にも繋がっているのは確かです。
オリーに関しては、今年のF2の成績が振るわないことについてもよく聞かれますが、僕はあまり心配していません。というのも、僕たちにはF2の成績以外にオリーを評価できる材料があるからです。もし彼のことをまったく知らず、F2の成績だけで判断しなければならないとしたら難しいと思いますが、僕たちは昨年のFP1、シーズン終了後のテスト、そして今年のFP1と何度もオリーをうちのクルマに乗せているので、彼のことをよくわかっています。どういう状況でどんなラップタイムを出したのか、どう学んでいるのか、何がよくて何が悪かったのか、ハースでのことはきちんと把握しているので総合的に判断することが可能です。
もちろんF2の話も聞きますし、今年レギュレーションが変わってプレマがどんな問題を持っているのかも知っていますが、それでもすべてを把握することはできません。ですからオリーのF2の成績だけで正当な評価をするのは難しいので、ハースで一緒に仕事をした時のことを主に判断材料としています。
■アップデート成功は“繰り返しのプロセス”ができる成長の証
さてヨーロッパでの3連戦を終えて、スペインではポイントを獲れなかったものの、オーストリアとイギリスの2戦で20ポイントを獲得することができました。3連戦が始まる前には選手権でひとつ上のRBとの差が開いてしまったなという感じで、RBに追いつくよりもアルピーヌやウイリアムズに抜かれないようにと後ろを見て危機感を持っていました。そもそもアルピーヌには一度抜かれていますからね。それが連戦が終わってRBと4ポイント差のところまでくることができたので嬉しいです。
最後のイギリスではクルマのアップデートも行いました。リストを見ると数は多いですが、特に一度にたくさんのアップデートをしようと思ってこうなったわけではないです。以前のアップデートを解析し、うまく結果が出ていなかったところを次の開発のヒントにしてやってきて、それが今回のアップデートに繋がりました。
モナコGP後のコラムでは、中国GPから3戦続けたアップデートが想定の6~7割ほどしか機能していなかったと振り返りましたが、それの解析もうまくやることができて、今回は風洞やCFDでの結果もよかったのでいいアップデートになるだろうというものができたんです。僕はこのチームを、反省点や学んだことを活かして開発を行う繰り返しのプロセスができるチームにしたいと考えているので、こういう結果に繋がったことを嬉しく思いますし、僕も含めてチームの自信にもなります。シーズン中にこれほどクルマを改善できたことは、ハースの2016年からの歴史のなかでも初めてです。
FP1ではニコにオーストリアまでの従来のクルマに乗ってもらい、FP2ではアップデート版に乗って比較をしてもらいました。FP2の最初のランのラップタイムはすごく遅かったものの、ガレージに戻ってきたニコから「クルマはすごくいい」と最初からポジティブな反応を聞けたんです。タイムが遅かった理由は、クルマが改善されて絶対的なグリップは上がったものの、バランスが悪い方向に変わってしまったからです。ですからバランスを修正してやればタイムもよくなるという感触がありました。
実際にバランスを修正して臨んだソフトタイヤでの予選練習では4番手タイムを記録しました。これにはチームのみんなもびっくりしていましたね(笑)。ちなみにニコは予選6番手でしたが、あのラップではコンマ3秒ほどロスがあったので、それがなければ4番手くらいだったと考えるとすごくポジティブな結果ですよ。
僕はいつも、ドライバーがプレシーズンテストの最初の数周を走っている時が一番怖いんです。なぜか。それはこのレベルのドライバーになると、ほんの数周走ればこのクルマがいいのか悪いのかを判断できるし、それで1年の結果が決まってしまうこともあるからです。今回のFP2でもやや似たような気持ちだったのですが、ニコが戻ってきてすぐにいい反応をしてくれたので安心しました。
イギリスGPのレースに関していえば、ドライからウエット、またドライに戻る難しいコンディションのなかで、自分で言うのもなんですが完璧なピットストップの判断を下せたと思います。6番手からスタートしたニコをあれ以上ないタイミングでピットに入れてインターミディエイトに交換し、ケビンも入賞を狙えそうな位置だったので、ニコのタイミングが仮に1周間違っていた場合にふたりともに判断を間違えないようにするために1周ずらしました。
2回目のピットストップは、その時点で入賞圏外だったケビンはアグレッシブにいこうということで37周目にピットに入れて、ニコはその翌周にしました。トリッキーなコンディションだったので失敗すれば失うものも多いレースでしたが、ピットウォールのコミュニケーションも問題なかったし、結果的にはこれでよかったと思います。
唯一失敗だったのは、最後のタイヤにソフトタイヤを選んだことです。あの時はソフトタイヤがグレイニングすることよりも、ハードタイヤのグリップ不足で厳しい状況になることを心配していたのでソフトを選んだのですが、後から考えてみると、当時は路面が乾くのがとても早かったし、ハードタイヤを履いたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)やカルロス・サインツ(フェラーリ)の状況を見てもハードにすべきでした。
それでもソフトに交換してからの残り14周、ニコはグレイニングしないようにプッシュもせず、常にギャップを見ながら最後までタイヤを持たせて6位に入賞。ケビンは戦っていたのでグレイニング発生を防ぐことができず、最後はローガン・サージェント(ウイリアムズ)に抜かれて12位でした。紙一重のところでしたけど、ギャップを見ながらどれだけタイヤをマネージメントしながら走らないといけないのかを正確に判断して戦えるようになったのは、チーム力が上がったということです。
カナダGPでニコのピットインのタイミングを間違えたことの反省もありますし、そこから特にストラテジストとのコミュニケーションの改善にも取り組むようになって、毎戦試行錯誤している部分もあります。スペインGPではあるやり方をして、次のオーストリアGPでは少し変えて、というように毎回見直して、そして今回のイギリスGPに臨みこういう結果で3連戦を終えることができました。
次もまた連戦で、ハンガロリンクもスパもまったく特性の異なるコースなのでどこまでパフォーマンスを発揮できるかわかりませんが、今チームは間違いなく前向きな状態にあるので、チームのみんなには自信を持って楽しんでやってほしいですね。
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