燃焼室の形状に影響して熱効率が変わってくる
カタログの主要諸元という表の中には、いろいろな数値が並んでいますね。とても重要な数値から、あまり意味のない数値まで、幅広く表示されています。エンジンのスペックの中に、ボア×ストロークという数値がありますね。エンジンのシリンダーの内径をボア、ピストンの上下移動量をストロークと呼んでいて、つまりエンジンの排気量が決まるスペックなんですね。計算式でいえば、(ボア÷2)^2×π×ストローク×気筒数=排気量となります。(ボアとストロークをcmの数値にすると、排気量はccになります)。
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例えば同じ2リッター4気筒でも、各社いろいろなボア×ストロークになっていますね。92.0mm×75.0mmといったボアが大きいものから、84.0mm×90.0mmのようにストロークのほうが長いもの。そして86.0mm×86.0mmと、きっちり同じ値のものもあります。ちなみにこれはすべてスバルの現行エンジンで、それぞれEJ20、FB20、FA20のものです。そして、このボアとストロークの関係から、ストロークが長いものをロングストローク、同じものをスクエア、ボアが大きいものをオーバースクエア、あるいはショートストロークと呼びます。
スバルの場合水平対向なのでストロークを伸ばすとエンジンの幅が長くなってしまうので、つい最近まではごく一部の例外を除いてオーバースクエア一辺倒でした。水平対向はエンジンの幅が大きなハンデになってしまうので、少しでも幅が狭いほうが都合がいいのです。それが最近になってスクエアやロングストロークのエンジンを登場させるようになっています。ボア×ストロークを変えるということは製造だけを考えても大変なのですが、どうしてスバルはロングストローク傾向へと変わっていったのでしょうか?
ボア×ストロークが変わると何が変わるのか? それは燃焼です。エンジンにとってもっとも大切なのは燃焼なので、ボア×ストロークはそれを左右する大切なスペックということになります。シリンダーの中に入ってきた空気・混合気を圧縮し、そこに点火して膨張させる、というのがエンジンの燃焼です。目標となる性能を出すために、エンジン設計者は燃焼を考えてボア×ストロークを決めているはず、と言いたいところですが、じつはいろいろな社内の都合がある可能性が高いですね。
オーバースクエアのエンジンでは燃焼室が偏平になります。燃焼室の容積が同じだとすると、同じ排気量でロングストロークのエンジンは、ボアが小さいわけですから燃焼室が高くなります。燃焼が始まる点火プラグから、もっとも近いピストン中央部と、もっとも遠いピストンの端までの長さの差が重要なのです。
オーバースクエアでは燃焼室が偏平ですから、長さの差が大きくなります。ロングストロークでは燃焼室が立体的で膨らんでいるので、その差が小さいわけです。その長さの差は、そのまま燃焼のタイムラグになってしまうわけです。燃焼を高度にコントロールしようとすると、オーバースクエアのタイムラグが悪さをします。
また、燃焼というのは高温高圧です。一般的に2000℃、200気圧というのが概念です。そのままではエンジンの内部が融けてしまうので、冷却水やオイルで冷却します。しかし冷却するということは、熱エネルギーを捨てることなので、熱効率が悪化します。それを低く抑えるために、エンジンの燃焼室表面に伝わる熱量を小さくする必要があるので、燃焼室の表面積を小さくしたい。表面積が大きいとそれだけ放熱してしまい、ピストンに伝えるエネルギーが小さくなるのです。
容積に対して表面積が小さい形状は球なんですが、エンジンの燃焼室を球にすることは、もちろん不可能です。しかしピストン側を無視すれば、半円球型の燃焼室が都合がいいということになります。その半円球型の燃焼室にするためには、ロングストローク化して燃焼室の高さを作るしかないのです。
たとえばマツダのバンケル型ロータリーエンジンは燃費が悪いのが定説ですが、その原因のひとつはバナナ型の燃焼室形状です。燃焼室の容積に対して、とても表面積が大きいので放熱量が多いのが大きな要因です。つまりどんなことをしても、あの燃焼室形状を根本的に変えない限り、燃費は良くならないのです。
というわけでエンジンの効率を考えるとロングストロークになっていくのです。この効率というのは、燃焼を良くした結果なので、基本的なエンジンとしてのポテンシャルが高いということです。つまりパワーを出したい、燃費を良くしたい、重量車に使いたい、といったようなキャクラターの変更についても、しっかりと性能が出せるんですね。
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