いよいよ寒さ本番となってきたが、雪が降る地域に住んでいる、もしくは雪が降っている地域に行くことがある人にとってスタッドレスタイヤは必需品と言えるだろう。
スタッドレスタイヤは全輪に装着するのが普通だが、「チェーンと同じように、駆動輪だけじゃダメなの?」という声を聞くことがある。そこで今回は、スタッドレスタイヤについて話をしようと思う。
国交省も全力で注意!! 間違い使いは超危険!! スタッドレスタイヤは四輪全部装着しましょう
文/今坂純也(DIRT SKIP)、写真/今坂純也(DIRT SKIP)、写真AC
スタッドレスタイヤは駆動輪だけでもOK?
「駆動輪だけじゃだめなの?」という声は、おそらく「チェーンは駆動輪のみに付ければ良い」から来ていると思われる。いや、この「チェーンは~」に関しては、厳密には「クルマの取り扱い説明書に従う」がじつは正しいのだが……。
そして、国土交通省の報道発表資料には「スタッドレスタイヤは全輪に装着することが基本」と明確に記載されている。
スタッドレスタイヤは4輪全てに装着して下さい!!
これはなぜか?
現在の多くのクルマが採用するFF(前輪駆動車)で、フロントのみにスタッドレス、リアに夏用タイヤを装着した場合を考えてみよう。この状態である程度の速度を保ったまま平地のコーナーを曲がった場合、コーナーで遠心力が働くとグリップ力の非常に弱いリアタイヤはコーナーのアウト側に振り出されてしまう。
運転技術の卓越したドライバーならなんとか運転できるかもしれないが、FR(後輪駆動車)での下りコーナーなんか最悪だ。操舵輪であるフロントは夏タイヤ、駆動輪のリアにスタッドレスを履いた場合、下りではフロント側に大きく荷重がかかるのにまるでグリップしてくれないからブレーキは利かない。ステアリングを切っても、グリップ力が希薄でコーナーのアウト側に向かってそのまま突進していくことが容易に想像できる。
うーん、かなり怖い!
現代のスタッドレスタイヤは夏タイヤと大きく変わらない乗り心地・操縦性を発揮するため、速度も「いつもよりは遅め」程度で走行する人が多い。そのため、スタッドレスタイヤと夏用タイヤを前後(もしくはその逆)に装着すると、速度はいつもより少し遅めだが操縦性は前後で大きく変わってしまって事故につながる可能性はかなり大。よって、国土交通省では「全輪に装着」と指導していると思われる。
駆動輪だけの交換はNG。スタッドレスタイヤを装着する時は全輪交換が鉄則だ
走行時の注意点は?
金属チェーン装着時は30km /h以下、ウレタンやゴム製チェーンでは50km /h以下での走行が推奨されるが、スタッドレスタイヤにはほぼすべてのメーカーが速度記号Qを記載しており、160km/h以下での使用を考えられて設計されている。当然、高速道路も「チェーン装着車のみ通行可」の規制さえかかっていなければ走行可能だ。
ただし、雪道や凍結路は通常のドライ路面とは比較にならないほど路面のグリップ力が弱く、圧雪路や凍結路では路面のグリップ力も変化する。よって、専用に設計されているスタッドレスタイヤとはいえ走行時に注意すべき点はあり、簡単に言えば「急発進や急ブレーキ、急ハンドルなど”急”のつく操作は避ける」ことが第一。そして速度を抑えて走ることは言うまでもない。
また、雪の降っていない冬の雨天時は、スタッドレスタイヤの苦手とするところ。
スタッドレスタイヤは夏用とは比較にならないほどやわらかいゴムを使用しており、このゴムには吸水性がある。雨天時はこのやわらかいゴムを使用したブロックが多くの水分を蓄え、路面とタイヤの接地面の間には水の膜が作られる。そのため雨天時は摩擦力が生まれにくくなり、滑りやすくなるのだ。
チェーン規制がかかっている場合は、スタッドレスタイヤであっても走行は不可となる
スタッドレスタイヤの寿命って?
スタッドレスタイヤの寿命は「製造から3~5年」とか「硬くなったら終わり」とか言われるが、ポイントは「ブロックの硬度」と「ブロックの溝の深さ」。
メーカーによるが、新品時の硬度はおおむね45あたり。硬度を測るのは専用の硬度計が必要になるが、60を超えるとスタッドレスタイヤとしての寿命は終わっていると考える。ちなみに、夏用タイヤの硬度は70あたりと言われている。
この硬度、スタッドレスタイヤの保管状況によって大きく変わり、ベランダ保管で太陽の紫外線や熱をバンバン浴びているような状況での保管と、屋根付きガレージなどの冷暗所での保管では硬度に大きな差がついていく。どうしても屋外での保管しかできない場合は、専用のタイヤカバーなどを装着してできるだけ日陰で保管するようにしたい。
スリップサインとプラットフォーム
そして大事なブロックの溝の深さ。
スタッドレスタイヤの溝の深さの判断は夏用タイヤにもあるスリップサインと呼ばれるものがあり、溝に設けられた突起が露出する(残り溝1.6mm以下で露出)とタイヤの寿命終了となる。スタッドレスタイヤにはこれ以外にプラットフォームと呼ばれる突起が溝の中にあり、タイヤのサイドウォールにある矢印の延長上に配置される。
スリップサインが「タイヤとしての使用限界」を示すものであるのに対して、このプラットフォームは「冬用タイヤとしての使用限界」を示すもの。プラットフォームは溝の深さが50%を切ると露出し、約10mmの溝をもつスタッドレスタイヤであれば残り溝5mmとなったということ。よって、プラットフォームが露出してしまうと、冬用タイヤとしての使用は不可。
スタッドレスタイヤの側面にある青丸内の矢印マークの延長線上にプラットフォームがある。ちなみに、赤丸内の三角マーク(△印)はスリップサインの位置を示している
「やわらかさ」が重要!
「ブロックの半分までしか使えないのか!」と思われるかもしれないが、スタッドレスタイヤが性能を発揮するには「やわらかさ」が重要なのだ。これは、ゴム質による素材としての“やわらかさ”とブロックの高さによる構造的な“やわらかさ”のこと。ゴム質によるやわらかさは理解しやすいが……。
例えば歯ブラシを横から見たとき、毛足が長い時はやわらかく動く(路面に追従しやすい状態)。摩耗して毛足がどんどん短くなると、長い時に比べて追従性は落ちていく。なので、プラットフォームが露出した状態とは、「スタッドレスのキモである路面への柔軟な追従性が、ブロックが低くなることで失われた状態」なのだから、設計時のスタッドレスタイヤとしての性能は発揮できない。
ただし夏用タイヤとしてなら、スリップサインが出るまでなら「まあ使える」と言えるだろう。
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みんなのコメント
そんな人が普通に同じ道を走っているかと思うと、ゾッとするねぇ。