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セダンに未来はあるのか? 令和の“くうねるあそぶ。”を考える

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セダンに未来はあるのか? 令和の“くうねるあそぶ。”を考える

日産が発表したプロトタイプセダン「コンテンポラリー ライフスタイル ビークル」を見た今尾直樹が考えるセダンの未来とは?

あえてセダンに搭載した“仕掛け”

新型トヨタ・クラウンの新シリーズに注目だ!

日産がさる3月23日に発表した「ブリコラージュの発想によるプロトタイプセダン」をご存じでしょうか?

日産の公式YouTubeで、すでに動画をご覧になった方もいらっしゃると思う。私も見た。思わず笑っちゃいました。これほどアイディアをてんこ盛りに詰め込んだセダンは試作車でも珍しいし、キレッキレのダンサー(たぶん)がひとり、躍動しながら紹介する動画自体もとてもよくできている。

「ブリコラージュの発想」によって、日産いうところの「コンテンポラリー ライフスタイル ビークル」に仕立てられたのはV37型現行スカイラインである。

ブリコラージュというのは、ウィキペディアによると、「寄せ集めて自分で作る」「ものを自分で修繕する」という意味だそうで、フランスの文化人類学者、クロード・レヴィ=ストロースが著書『野生の思考』などで、人類が古くから持っていた知のあり方をこう呼んだという。

手近にある、ありもので急場をしのぐ、というようなことである。たぶん、ちょっと前に流行ったピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン」みたいなことである。……とレヴィ=ストロースを読んだことのない私は、そう解釈しております。違っていたら、すいません。

現行スカイラインに投入された「ブリコラージュ」は、たとえば「サイドミラーゴミ箱」だとか「サンバイザーテーブル」など、すでにあるモノを、本来の目的ではないモノとして使ったりしている。「脱着式ディスプレイ」に「ボトルヒーター」、「自動リクライニングシート」、あるいは「ムーンルーフビジョン」、そして「AIアシスタント:SORA」など、デジタル技術を用いた、こんにち的な仕掛けも施してある。「ボトルヒーター」は、ちょっと違うけど。あるいは「長傘収納」、「バンパー下収納」もあったら実用的で楽しいだろうし、キャンプやアウトドアで活躍しそうな「ポータブルバッテリー」、「屋外スクリーン」に「屋外シアタープロジェクター」なんていうのもある。全部で29もの、生活に密着した「王様のアイディア」的あれやこれや。詳細については、ぜひ動画をご覧いただきたい。

これらの機能は、現代の自動車マーケットの主流たるSUV、ミニバンにこそふさわしい。とも思えるけれど、それをあえてセダンに搭載することで、日産いわく、現代の「食う」、「寝る」、「遊ぶ」といった日常を表現することで、「コンテンポラリー ライフスタイル ビークル」なるコンセプトを打ち出しているわけである。

「いつかはクラウン」がいつしか、って、昨年ですけれど、ちょっと背の高いクロスオーバーに転じ、いまやセダンは風前のともしびである。と、一般には解されている。そういう世界的な潮流に逆らっているようにも受け取れる。このプロトタイプセダンは、日産のパンク、あるいはラッパー的反骨精神を表現しているようにも思える。

野心的な試み“くうねるあそぶ。”という、そう、ニッポンがイケイケだった1988年の秋に日産が発売したパーソナル・セダン、「セフィーロ」で使われたキャッチフレーズを、ここで引っ張り出してきているのも興味深い。

あの頃、セダンはトヨタの「クラウン」、「マークII」3兄弟をはじめ、売れまくっており、セダンはマーケットの主流で、ホンダ「オデッセイ」の登場は1994年だからミニバンはまだ端っこのほうで、SUVと合わせ、RVと呼ばれていた。

初代セフィーロといえば、思い出すなぁ、助手席に乗る井上陽水がサイド・ウィンドウをスーッと下げて、「みなさん、お元気ですか」と、カメラに向かってあいさつして走り去るTVコマーシャルである。

“くうねるあそぶ。”は糸井重里の作のひとつだそうで、なんて哲学なんでしょう。と当時も、30年近く経ったいま、なおさらそう思う。同時に、いまと違って、あの頃のニッポンはじつに楽観的だったのである。

その“くうねるあそぶ。”を21世紀のこんにち、復活させようとしているわけだから、じつに野心的な試みであろう。クルマといえばミニバン、SUVの若いひとたちにはもしかして、意味不明、と受け取られるかもしれない。

筆者としては「ブリコラージュ」という「ニューアカ」的な用語を使っていることにも注目したい。ありましたねぇ、「ニューアカ」ブーム。初代セフィーロが登場したのは、前述のように1988年秋だけれど、そのちょっと前の1980年代前半からニッポンは消費社会の神話と構造だの、脱構造主義だのポストモダンだのスキゾだのパラノだの、フランス現代思想だとか文化人類学だとかが一世を風靡していたのだった。

してみると、このプロトタイプセダンは、やっぱり“くうねるあそぶ。”とか「ブリコラージュ」とかを懐かしい、と感じるオトーサン世代に向けたものなのだろうか?

一概にそうとも思えないのは、ファミリーではなくて、たったひとりの登場人物が現行V37型スカイラインに施したブリコラージュの数々を紹介する動画である。「コンテンポラリー ライフスタイル ビークル」の現代性は奈辺にありや? と、問われなば、この動画を見る限りですけれど、『ヒロシのぼっちキャンプ』とか『孤独のグルメ』とかにもつながるライフスタイルが浮かびあがってくる。

21世紀のこんにち、ライフスタイルはますますもって多様化しつつある。SDGsに配慮しつつ、ひとさまに迷惑をかけない範囲で、好き勝手に行動の自由を謳歌する個人。その際、なくてはならないのはデジタル技術で、ゴミ箱も大切だけれど、SORAなるAIアシスタントも、屋外シアタープロジェクターもまた、コンテンポラリーな生活にとって必需品なのだ。

もしもニッポン社会にダイバーシティがホントに実現するのであれば、セダンの未来は、数的に以前ほど望めないにしても、さほど暗くはない。と、筆者は想像する。

セダンはファミリーカーというより、むしろスポーツカーに近い、独立した個人の表現手段として生き残るのではあるまいか。

文・今尾直樹 編集・稲垣邦康(GQ)

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