ホンダX-ADVはスクーターではない
X-ADVという乗り物を理解する上で一番大事な点は「スクーターではない」ということだ。自動変速ができ、シート下収納を備え、シッティングポジションで乗るという要素は確かにスクーター的だが、車体のリヤまわりに注目してほしい。駆動はCVTではなくDCT+チェーンで、リヤサスペンション形式もユニットスイングではなくスイングアームを採用。
2017年に発売が始まった初代X-ADV、そして2021年モデルでフルモデルチェンジした2代目とも、エンジンやフレームはNC750シリーズがベースとなっている。
【画像31点】新旧ホンダX-ADVの外観・機能・収納スペースを写真で詳細比較!
スクーターとモーターサイクルの「いいとこ取り」を狙った存在と言えるが、融合させるモーターサイクルを「アドベンチャー」としたのがX-ADVのデザイン面・性能面ともに大きな特徴だ。
高い乗車視点は混雑した市街地でも見通しが良くなり、柔軟に動くサスペンションは欧州の旧市街に多い石畳路面も快適に走れる(*)……と日常使用で使うライダーにもメリットが生まれると考えたためだ。
しかし、それはX-ADVの一面でしかない。通勤などはもちろんのこと、750ccという余裕の排気量&剛性感ある車体でツーリングやタンデムもこなせ、悪路への対応力も備えた「これ1台で何でもできる」超贅沢な乗り物、それがX-ADVである。
(*)デザインはイタリアのホンダR&Dで開発され、「大型スクーター」の需要が大きい欧州はメイン市場のひとつとなっている。
■初代X-ADV(2017年~2020年)
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒OHC4バルブ ボア・ストローク:77.0mm×80.0mm 総排気量:745cc 最高出力:40kW<54ps>/6250rpm 最大トルク:68Nm<6.9kgm>/4750rpm 変速機:電子式6段
[寸法・重量]
全長:2230 全幅:910 全高:1345 ホイールベース:1580 シート高790(各mm) タイヤサイズ:F120/70R17 R160/60R15 車両重量:238kg 燃料タンク容量:13L
[車体色]
マットビュレットシルバー、グランプリレッド、マットアーマードグリーンメタリック
[価格]
124万920円~127万3320円
*諸元は2020年型のもの
■2代目X-ADV(2021年~)
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒OHC4バルブ ボア・ストローク:77.0mm×80.0mm 総排気量:745cc 最高出力:43kW<58ps>/6750rpm 最大トルク:69Nm<7.0kgm>/4750rpm 変速機:電子式6段
[寸法・重量]
全長:2200 全幅:940 全高:1340 ホイールベース:1580 シート高790(各mm) タイヤサイズ:F120/70R17 R160/60R15 車両重量:236kg 燃料タンク容量:13L
[車体色]
グラファイトブラック、パールディープマッドグレー
[価格]
132万円
新型=2代目X-ADVは走りと電子制御を強化
初代X-ADVの時点でそうしたコンセプトや、それを実現する各機能は十分完成していたといっても過言ではないが、2021年、プラットフォームを共有するNC750Xと一緒にフモデルチェンジを行い2代目となった。
よりアグレッシブになったデザインが示しているように、運動性能の強化が主な改良点である。
エンジンは新設計ピストンなどの採用で軽量化と高出力化(初代54ps→2代目58ps)を行い、スロットルバイワイヤも組み合わせられた。その結果、エンジン出力特性、DCT変速パターン、トラクションコントロール、エンジンブレーキ、ABSのレベルを統合制御する「ライディングモード」も搭載。
フレームは2021年型で新設計となったNC750Xのものがベースで、フロアステーやシートステーなどをX-ADV専用としたもの。NC750X同様に軽量化と収納スペース拡大というメリットを受けている。
かように走行性能を大幅に強化した新型X-ADVだが、オートキャンセルウインカー、急制動時にハザードが点滅するエマージェンシーストップシグナル、デイタイムランニングライト、スマートフォン連動機能など機能面も現代化。日常用途を含めた「万能バイク」としての立ち位置を忘れたわけではない。
新旧ホンダX-ADVを乗り比べる
新型にしろ、旧型にしろ、またがってみただけでもX-ADVは「特異な乗り物」というニュアンスを伝えてくる。
スクーターとも違うし、一般的なバイクとも違う。高い着座位置にシッティングポジションで乗り、それでいて上体は直立する……という独特な世界観が待っているのだ。
足着きが芳しくないのは他社製の大排気量スクーターと同じ傾向だが、それらスクーター勢がゆったりシートに包まれ「前後に長い乗り物」に乗っている感覚があるのに対し、X-ADVはまるで小山の頂上に腰掛けているような感覚。
走り出すと、その狙いがわかるような気がする。
重量バランスが凝縮され塊感ある車体の頂点から、コロンコロンと転がすように操るとX-ADVは機敏な動きを見せてくれる。やはりスクーターとも一般的なバイクとも違う感覚だが、コンポーネントを共有するNC750Xと似ているかというと、これまた違う(比較検討をする人が実際どの程度いるかわからないが)。
まずサウンドからしてX-ADVはワイルドだ。NC750Xがトゥクトゥクトゥク……という鼓動感はあっても穏やか音を奏でるのに対し、X-ADVはボゥーッ、ボゥーッと勇ましい。マフラーがアップタイプとなっているため、ライダーの耳に近いことも影響しているのかもしれない。
初代X-ADVもワイルドな傾向があったが、新型はさらに迫力ある音となっている。
初代X-ADVに対し、迫力を増したのは音だけではない。乗り比べてみると、新型は開け始めからのダッシュ力が実に鋭くなっているのだ。
新型X-ADVはエンジンが高出力化され、スロットルバイワイヤの採用などで全回転域でスムーズとなったほか、4~6速のギヤ比も変更されている。もちろんそれらによる恩恵は大きいはずだ。
出力特性や変速パターンが変わる新型X-ADVのライディングモードは5種
ただ、新型X-ADVはDCTの変速パターン制御だけでなく、出力特性や各種電子制御を総合的にコントロールし、作動レベル変更できるライディングモードが搭載されているので単純比較しづらいのだが……初代X-ADVのスタンダードなDCT自動変速モードが、新型X-ADVの「レイン」に近い印象で、「スタンダード」ではかなり機敏なダッシュ力を発揮し、「スポーツ」はこりゃもうとんでもなく速い──といった感じだろうか。
通勤など市街地の移動に徹する場面ではマイルドな出力特性・DCTは低回転域をキープする「レイン」が個人的にはオススメだが(雨が降ってなくても)、仮に出力全開・ギヤも上まで引っ張る「スポーツ」にすれば、電光石火の自動ギヤチェンジとともにシグナルグランプリでは連戦連勝できるだろう。
このほかライディングモードでは、積極的にオフロード走行を楽しみたいライダーに向けてABS作動を弱レベル・DCT変速パターンも専用となる「グラベル」や、各種パラメーターを任意に設定できる「ユーザー」のライディングモードがあるほか、初代同様マニュアル変速も可能だ。
そうしたスポーティなエンジン&トランスミッション特性にあわせてか、「サスペンションは従来型と同様」という公式発表はあるものの、新型の足まわりはハードになった印象を感じさせる。
また、大排気量スクーター勢の多くがせいぜい前後15インチホイールなのに対し、X-ADVは前17インチ・後ろ15インチ(ホイール径・タイヤサイズも新旧X-ADVで同様)。前輪径はロードスポーツ車並としており、安定感がありつつスポーティ──といった特性はX-ADVの身上でもある。
高速走行で抜群の快適性を発揮するX-ADV
さて、ツーリングはもちろん、通勤などで自動車専用道路や高速道路などを使うという人もいるだろうが、新型X-ADVの高速走行は快適そのものだ。
初代同様、5段階に手動で調整できるスクリーンは最も高いポジションにすると顔から下への風圧はほぼなくなり、ヘルメットの頭頂部を風が流れていくといった具合。
高速走行時に雨にうたれたが、車両を走らせている限り、胸まわりはほぼ濡れることがなかったほどだ。
ただし、スクリーンを最高ポジションにした場合、身長170cmのライダーでは上端がかなり視界に入ってくる。スクリーン自体は透明なのでそこまで煩わしいものではないが。
かように、正直クセのある乗り物であるのは間違いないのだが、独特の操縦特性・使い勝手の良さに一度なじんでしまうと、スクーターにも普通のバイクにも戻れなくなってしまうかもしれない。
なんせ、X-ADV的な乗り味は、他に例がないため、X-ADVでしか味わえないのだから。
新型=2代目ホンダX-ADVの足着き性&ライディングポジション
スクーターに多いバックレストへ体重を預けられるようなリラックスしたポジションではなく、上体の起きたライディングポジションとなるX-ADV。フットボードも足を伸ばすより、自然に真下へ足を下ろしたほうが座りがいい。
シート高は790cmと数値上極端に高くはないが、車体中央部にボリュームがあるため、股下の開き具合は大きめ。身長170cm・体重58kgのライダーでは両足のかかとが浮く。ただし、片足停車では足の裏全面が接地する。
新型はシート前方をスリム化し、足着き性を向上。 シート下収納は従来型が21Lだったのに対し、新設計したフレームの恩恵で1L容量を拡大し23Lに。
ヘルメット1個+アルファの荷物が入り、日常のコミューター用途にもしっかり対応できるのは初代同様だが、収納内にはUSB電源・標準装備のETCユニットも設けられている。
レポート●上野茂岐/関谷守正 写真●柴田直行/ホンダ 編集●上野茂岐
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みんなのコメント
すっかりバイクが高くなった。国産メーカーなのになあ。というより経済成長していない日本人の給料がいかに上がってないか実感する。