警察の覆面パトカーのなかには、「そんなのアリかよ!」と叫びたくなってしまうような、見分けが難しいレア車がある。その代表格といえば、警視庁の交通覆面パトカー、マークX+MスーパーチャージャーやカムリWSだろう。現行の交通覆面といえば、全国的にはクラウンだらけだから、まさに超レア車。予備知識がなければ、気づけないドライバーも多いに違いない。しかしながら、難しいからこそ逆に燃えるのが警察マニアの方々だ。日々の採証活動(マニア活動)で鍛え上げた圧倒的な観察力で、未知のレア覆面パトカーも、確実に言い当てしまう。
本稿では、マニアさんたちの鋭い観察眼を参考に、初めて出会う覆面パトカーも確実にあぶり出せる方法を紹介したい。なお、さまざまなパトカーの車種については『平成~令和新時代 パトカー30年史』も参考にご覧頂きたい。
【車名当てクイズ】この名車、迷車、珍車、ご存じですか? 第22回
『平成~令和新時代 パトカー30年史』はこちら
文・写真/外江彩
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■退屈な通勤ドライブが「覆面パト」をウォッチする刺激的な活動に
意外にも私たちの周りには数々の覆面パトカーが走っている。先に挙げた交通取り締まり用はもちろんのこと、捜査用や幹部用など、その種類はさまざまだ。
覆面パトカーによく用いられる車種や、覆面パトカー最大の特徴ともいえるアンテナ(警察無線用)については、以前の記事『警察マニア予備軍以外、誰得!? 細かすぎる覆面パトカーの見分け方』にて詳しく紹介した(記事のリンクはこちら)。今回は、先の記事をさらに掘り下げ、レアな車種と、さらに細かい仕様について見ていきたい。
覆面パトカーは細かく見れば見るほどに、個体ごとの違いが出てくる。そういったところをよく観察すると、調達年度や調達方法(国費か県費か)などによる仕様の違いが垣間見え、ディテールへと関心がわき、いつの間にか深いマニア沼にハマることだろう。
なお、覆面パトカーの仕様に「絶対」はない。以下に紹介するものは代表的な例であって、例外も多数存在することをご了承いただきたい。そしてそんな例外探しが楽しめるようになれば、もはやあなたも立派な警察車両マニアである。
■こんな車種が覆面パトカーに!? 想定外のレア車種たち
警察車両の多くは、国費で導入される。警察庁が一括購入し、全国の都道府県警に配分するという具合だ。当然ながら車両の導入台数はそれなりに大きな規模になってくる。そのため、たとえ珍しい新車種が導入されたとしても、全国に普及するにつれ新鮮味やレア感が薄れがちだ。
この国費車両に対して、都道府県の予算で導入される警察車両もある。こちらは、台数が非常に少なく、導入する都道府県ごとにメーカーに偏りが生まれたり、仕様が特殊だったりと、レア感が強くなりがちだ。いくつか代表車種を紹介しよう。
1.トヨタ「マークX +Mスーパーチャージャー」交通覆面
都費(東京都の予算)で15台が調達された警視庁のハイパフォーマンスカーである。ベース車両であるマークX 350Sに、スーパーチャージャーやエアロパーツ、スポーツサスペンションなどを組み合わせた、モデリスタのカスタマイズカーとなっている。最高出力は360psにもなり、低速から高速まで圧倒的なパワーと加速を誇るクルマである。警視庁はこれを交通取締用四輪車(覆面)として導入した。調達価格は1台あたり800万円以上。交通機動隊、高速隊に配備されており、一般道や高速道で取り締まりを行っている。
マークX+Mスーパーチャージャー。警視庁に15台導入されているハイパフォーマンスカー。エアロパーツなどの外装カスタマイズもなされており、覆面パトカーのイメージとは程遠い
2.トヨタ「ハイエース」交通覆面
警察車両としては全国に多数導入されているハイエースであるが、なんと警視庁では交通取り締まり用の覆面パトカーが存在する。警察署の交通課での運用が多く、上記のマークXがよく行う追尾式の速度取り締まりではなく、信号無視や一時停止違反などの取り締まりで使用されている。ドライバーもまさかハイエースで交通取り締まりをされるとは思わないだろう。仰天のレア車だ。なお、背の高いルーフに赤色灯が載せられているため、運転中の車内からは赤色灯が見えにくく、警察車両とは気づかれにくいようだ。
警視庁の交通機動隊や警察署の交通課に配備されている200系ハイエースの交通覆面。乗車している警察官の制服から、交通機動隊所属の車両であることがわかる
3.日産「エルグランド」サンルーフ付き交通覆面
E52エルグランドも、ミニバンでありながら交通覆面が存在する。しかも、サンルーフ付き。ただし、こちらは暴走族取り締まり用で、サンルーフから身を乗り出してペイントボールなどを暴走車に発射し、後の捜査の証拠とし、取り締まりを行っている。警視庁交通部交通執行課などにごく少数ではあるが配備されている。一般ドライバーがお世話になる可能性はほぼない。
E52系「エルグランド」交通覆面。よく見るとサンルーフが付いていることがわかる。暴走族取り締まり時には、ここから身を乗り出して、暴走車に向けてペイントボールを発射する
4.スズキ「SX4」私服型覆面
いわゆる捜査用のレア車も紹介しておこう。ハッチバックタイプの初代SX4は捜査用の覆面パトカーとして導入されている。2012年頃に国費で導入されているが、全国的に見ればそれほど数が多くなく、なかなか見かけることはない。また外見上の特徴が少ないため、見分けるのが困難な車両のひとつである。それゆえ秘匿性が高く、より一層見かける機会が少なく感じる車種のひとつである。導入から時間が経過しており、警備の現場などに転用されている姿を見かける。
スズキ「SX4」。この車両は警視庁の警備車両として用いられている。ルーフ後端のユーロアンテナは元々ラジオ用として装備されているものなので、赤色灯がなければ秘匿性が高い
5.トヨタ「SAI」エリア警戒車
警視庁の機動隊でエリア警戒車として導入されているSAIの覆面パトカー。警察車両の選定にあたって、ハイブリッド車を避ける傾向があったなかで(一部の幹部車両などを除く)、警視庁機動隊はかなり早い時期からSAIを導入している。他県では幹部車として導入されていることが多い。
トヨタ「SAI」。警察車両としては珍しくハイブリッド車が早期に導入された。バンパー内にLEDの警光灯が装着されている。この車両は警視庁の都費導入車で、機動隊に配備されている
以上、交通用から捜査用、また幹部用など、レア車5車種を紹介した。全国にはまだまだヘンな覆面パトカーが存在するが、先にも説明したとおり、こうしたレア車には、都道府県警で独自導入される車両が圧倒的に多い。警視庁や大阪府警、埼玉県警や静岡県警、北海道警などは、独自に変わった車種(交通取り締まり用)を導入する傾向があるので、普段からアンテナをしっかりと張って、ウォッチしておきたい。
■ようこそ沼の深みへ。覆面のディテール処理に萌える
覆面パトカーを見分けるキモは、そのディテール処理の見分けにあるといっても過言ではない。以前の記事では警察無線用アンテナの擬装方法の数々を紹介したが、覆面パトカーは隠密活動を行うため、また警察車両として機能するため、一般車にはないディテールを備えている。それらをひとつずつ確認し、その工夫や出来栄えをしっかり吟味したい。ここでは、パトカーに欠かせない装備である前面警光灯やサイレンアンプなどの内外装の詳細を紹介しよう。ささいな違いが見えてくると、覆面パトカーのウォッチがより一層楽しくなり、ますます沼の深みへといざなわれること間違いなしだ。
1.前面警光灯
交通覆面や警護車には、フロント部分に赤色灯が装備されている。近年はフロントグリル内にLEDタイプの前面警光灯を装備する場合が多い。捜査用車両や幹部車両にも一部装備されているものがあり、覆面パトカーと判断する手がかりのひとつだ。ただし、グリルの内部に装着されている場合は、判別が難しく、それゆえ見つけた時の快感もひとしおである。
180系および200系クラウンの交通覆面では、グリルの隙間に位置を合わせた専用品、通称「LAS」が装備されている。その他の車両では、一列のバー型や2×3の長方形型のものなどがある。
LEDタイプが普及する以前は、電球式の「オートカバー」が一般的であった。これは蓋がついた箱型の前面警光灯で、ONにすると蓋が開いて赤く光るものである。こちらはバンパーを切り欠く形で装着されていたため、容易に見抜くことができた。
グリル内に装着されたLEDタイプの前面警光灯。写真は警視庁の200系クラウン警護車のもの
2.脱落防止ピン(通称:ポッチ)
交通覆面や警護車には、ルーフに反転式警光灯(ポコっと出てくる赤色灯)が備わっている。走行中でも、停車中でもボタンひとつで、緊急走行にうつれる強力な装備だ。
いっぽう捜査用車両の場合、緊急走行する際には手で赤色灯をルーフに載せる。この赤色灯はマグネットゴムでルーフにくっつくようになっており、比較的簡単にセットできるものの、高速で走行したり、激しい揺れがあったりすると、少々心もとない。そこで、捜査用車両のルーフには「脱落防止ピン」を取り付けられるようになっている。赤色灯前部の穴にこのピンを通す形でセットすれば、赤色灯が落下してしまうのを防げる。
しかし実際のところ、この脱落防止ピンを常に装着している捜査用車両はそう多くない。目立ちたくないからだ。装着していない時には、装着用のネジ穴にプラスチックのビスなどを差し込み、雨漏り等を防いでいる。このプラスチックのビスの頭のことを、マニアの間では「ポッチ」と呼んでいる。直径1cm未満、外部に出ている高さ数mmの部品なのでよくよく観察しないと見落としてしまいがちである。しかし、アンテナは車両の後ろから見ないと判別が難しいのに対し、この「ポッチ」は車両前部から見えるという特徴がある。運転中などに対向車線を走る覆面に対して、「おっ、覆面が来たな」とわかるわけだ。わかったからといって何の得もないのだが、覆面を見るだけでテンションが上がる警察マニアには嬉しい判別ポイントだ。
警察向け赤色灯、パトライト社製「HKFM-101GFT」。前部に脱落防止ピンを引っ掛けるための穴がある。なお、警察以外向けの「HKFM-101G」にはこの部品が無い
3.フラットビーム
サンバイザーに取り付けて使用する長方形のLED式赤色灯。パトライト社から「フラットビーム」という商品名で警察向けに販売されていた。主に捜査用車両(特に機動捜査隊車)に装着されていた。このフラットビームの利点は、赤色灯を手で載せなくても、バイザーを下げてLEDを点滅させるだけで緊急車両とわかる点である。
欠点としては、側方や後方からはほとんどわからない点と、赤色灯ほどの認知度がないため、それが緊急車両を示しているとわからないドライバーもいる点などが挙げられる。便利なものであるため、一時期大量導入されたが、パトライト社が製造を終了したため、最近は見かける機会が激減している。しかし、昨年度から導入が始まったトヨタの「カムリ」捜査用覆面に同種のものが装着されている例が多数目撃されており、他社から類似の製品を調達しはじめた可能性がある。
助手席側のサンバイザーに取り付けられている長方形の赤色LEDがパトライト社製「フラットビーム」
■見えないからこそもっと知りたい! 覆面パトカーの内部
一般人が覆面パトカーの内部を見る機会は稀だろう。警察の広報イベントがあれば、内部をじっくり観察することも可能だが、そんな機会は多くない。今回はなかなかウォッチが難しい覆面パトカーの内装にも踏み込んでみたい。
4.サイレンアンプ
車内には、サイレンを鳴らしたり赤色灯を点灯させたりするスイッチ類を備えた「サイレンアンプ」が装備されている(当然ながら、緊急走行できない車両には装備されていない)。ほんの少し前までは、パトライト社の「SAP500」シリーズの独壇場であった。ボタンの種類については、昇降機(警ら用)やフットスイッチの有無などによりいくつかバリエーションがある。現在はSAP500の終売により、新規車両には後継の「SAP520」シリーズが導入されつつある。SAP520では、LED警光灯との連動で複数の点滅パターンを用いたり、SDカードに録音した音声を流せたりという機能が追加された。いわゆる「1DIN」サイズで、ナビやオーディオ用スペースに収まっていることが多い。
現在導入されているパトライト社製「SAP520」。ボタン配置などSAP500との共通性をもたせつつ、新たな機能が追加されている
5.メタルコンセント
赤色灯やフラットビーム、探照灯などの電装品の電源用として、2極の直径約12mmのコンセント、通称「メタルコンセント」(略してメタコン)が車内に取り付けられている。主に助手席足元やグローブボックス部分に2~3個付いている場合が多い。電圧は他の電装品と同じく直流12Vである。12Vの電源といえばシガーソケットで事足りるようにも思うのだが、メタコンは端子を差し込んでネジで締めるタイプであるため、足を引っ掛けて抜けてしまうという事態を防げる。ハイエースやキャラバンなどでは、車体外板にこのメタコンが付いているものも存在する。
車両電装品用12Vメタルコンセント。シルバーのオスが車体側、緑色のメスは赤色灯用
6.コードクリップ
ルーフに赤色灯、サンバイザーにフラットビームを装着し、足元のメタコンに電源を接続すると、車内に配線が垂れ下がる形になってしまう。それを防ぐため、捜査用車両のAピラーには配線を留めるコードクリップが取り付けられていることが多い。このコードクリップは車種により形状や取り付け位置が様々だ。また内装品であるが、サイレンアンプなどと比べて、車外からも確認しやすい点で注目の一品である。
Aピラーに配線を留めるためのコードクリップが取り付けられている。写真はホンダ「フィット」のもの。車種により形状や位置が異なる
以上、覆面パトカーのマニア的「萌えポイント」を紹介してきた。いずれもちょっとしたことであるが、細かい仕様をつぶさに観察し、その違いを楽しむのがマニアの習性というものである。
覆面パトカーが判別できたからといって、役立つことはほとんどないが、観察眼がアップすれば、退屈なドライブなどなくなることだろう。今日も安全運転で刺激的な覆面パトカーのウォッチを楽しんでもらえたらと思う。
なお、覆面パトカーを見るために警察署敷地内に立ち入ることは、正当な目的のない立ち入りとみなされ、建造物侵入罪に問われることとなるので、厳に慎まれたい。実際に逮捕された例もあるので、あくまで法とマナーとモラルの範疇で観察してほしい。
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もっとパトカーについて知りたい方は『平成~令和新時代 パトカー30年史』もご覧ください。『平成~令和新時代 パトカー30年史』はこちら
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