新たに現行ロードスターの開発主査に就任したマツダの斎藤茂樹氏は「ゆっくり走って楽しいスポーツカーこそ、ボクたちが作るべき本当のスポーツカーで、それがロードスター。
速く走って楽しいクルマは世の中にたくさんあるんだけど、どこを走っても、いつ走っても、誰と走っても楽しいのがロードスター」と語っている。
日産デイズの先進安全機能を体感!! スバルSTIの魅力も味わう ベストカーファンミーティングレポートVol.3
クルマはなにも、スピードを求めて走るのだけがすべてじゃない。低速で走っていても楽しさを感じさせるクルマはあるのだ。そこで今回は100km/h以下、「ゆっくり走って楽しいクルマたち」を自動車評論家の方々とともにクローズアップ!
※本稿は2019年6月のものです
文:ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年7月26日号
■ジムニーの愉しさは半端ない!!
(TEXT/松田秀士)
このテーマでピンときたのはジムニー。
試乗会の時に本栖湖から西湖のあたりの湖畔を廻るルートを走ったんだけど、30~40km/hの速度で狭い道のブラインドを走っていて、ハンドルを切るのが楽しくてしかたがなかったんだよね。もうね、頭のなかを突き抜けていく楽しさがゾクゾクと沸き上がってくる感じ。
スズキ ジムニー
ジムニーはライントレース性だけじゃなく、走りの“間とフィーリング”が絶妙で、クルマのサイズの身の丈感もちょうどいい。試乗当日は寝不足だったんだけど、それを吹き飛ばしてくれる楽しさ。
ジムニーに乗ると煩悩を解脱することができる。僧侶のボクだからわかるんだけど(笑)。だからスピードを出さなくても楽しいし、逆に出したくないクルマ。ただ、「楽しい」も煩悩だけど(笑)。
ほかはアルファード/ヴェルファイア。“クルマじゃんけん”で絶対負けないし、自分を無法者に変えてくれるトランスフォーマーなの。だからゆっくり走っても楽しい。
トヨタ アルファード
最後はプジョー508。低い速度域でも足を適度に動かし、その動きが感じられるクルマだから。目の焦点が合わせやすいメーター配置なども絶妙で疲れにくいのもOK。
プジョー 508
■国産ならセンチュリー、リーフ
(TEXT/国沢光宏の場合)
こらもう、クルマのほうが人間のことをいろいろとカバーしてくれるということが前提条件になる。シチュエーションごとにね。
たとえば渋滞が楽しいドライバーってほぼ皆無だと思うけど、ゆっくり走って楽しいクルマは渋滞が楽しみになるようなクルマだと個人的には考える。
そういった観点から究極の1台を挙げるとロールスロイスファントム。このクルマ、ゆっくり走ったほうが楽しいと断言できるほどで、クルマとしての“味”が飛ばすんじゃなくて、ごく低速で走行している時に特化されているんだと思う。
ロールスロイス ファントム。ちなみにお値段5460万円から
街中で走っていてもタウンスピードでの走行が基本で、時にはパレードといった極低速時の走行にも対応するのだから素晴らしい。
国産ではなんといってもセンチュリーが筆頭格に挙がる。ロールスロイスファントムが「世界一ゆっくり走って楽しいクルマ」ならば、センチュリーは「日本一ゆっくり走って楽しいクルマ」。
国沢氏は「日本一ゆっくり走って楽しいクルマ」として挙げたトヨタ センチュリー
低速時のドライバビリティなど、ショーファードリブンならではのよさがある。後席にVIPを乗せるショーファードリブンは、ドライバーにとっても楽しさがある。同様の考えからすれば、運転したことはないが、御料車のセンチュリーロイヤルも当てはまるはず。
また、EVのリーフも挙げておきたい。EVはやはり静かだし、飛ばせば電費は落ちるけど、ゆっくり走るぶんにはそこまで電費も落ちない。モーターならではの発進時のトルク感もポイント。
日産 リーフ
今度新しく進化版のプロパイロット2.0が導入されるスカイラインのマイチェンモデルも楽しみ。
■トルクを考えればEVは外せない
(TEXT/片岡英明)
流して走っても楽しいクルマといえば、外せないのはやはりEVになるだろう。エコで電費もいいうえ、モーター特有の強大なトルクで瞬発力のあるスタートもできる。
例えば、箱根にEVで出かける場合、行きは上り中心で、回生をできるだけ多く行い、帰りは下りのコース選びをゲーム感覚でできる。別に飛ばさなくても別の楽しみ方があるワケだ。
まずはリーフ。運転もワンペダル走行で左足を使わずにすむし、ブレーキパッドも減らないし、疲労度はふつうのガソリン車よりも少ない。ゆっくり走ることの楽しさがダイレクトに伝わるクルマだと思う。
日産 リーフ
続いてはスペーシアギア。このクルマはテレビCMで流れるイメージに近く、家族で乗り込んでゆっくりほんわかと流して走ることが楽しく、アウトドアでも絵になる感じ。
走っていても街中でのゴー&ストップすら楽しくなる。目を三角にして走るのとはまったく違った価値観を提供してくれるクルマだ。
アウトドアでの使い勝手をイメージしたTVCMで好評のスペーシアギアを片岡氏は挙げてきた
最後がジムニー。このクルマに関してはオンロードではなくオフロードが対象になるけど。30km/hも出ていれば充分。雪道を含めて低速で走り回るのがこのクルマならではの醍醐味だ。
スズキ ジムニー。こちらも人気高し
■ミドシップから考えればS660 A110!
(TEXT/岡本幸一郎)
まず、ミドシップレイアウトがゆっくり走っても楽しいクルマの条件になると考える。
フロントに重量物のない素直な回頭性、そして逆にリアにエンジンなど重いモノが搭載されていることで、トラクションの塊といった感じの独特の運転感覚が味わえること。
ボクがそんな条件から真っ先に思い浮かぶのはS660。
MTでもCVTでもいいんだけど、小さくて軽いMRのスポーツカーって世界中でこれ1台しかない。しかもオープンも味わえる。乗っているだけでハイな気分になれる希有な1台だと思う。
ホンダ S660。岡本氏曰く「世界一小さくて軽いミドシップのオープンスポーツカーはこれだけ!」
オモチャ感もあるのはコペンも同じような感じだけど、あちらはFF車。S660は自分のシート後方からエンジン音が聞こえてきて、唯一無二のオリジナリティが感じられる。
街中の交差点で曲がっていく時、自分を軸にして回転していく感覚はミドシップならではのもので、ハンドリングのよさも特筆される。
それとアルピーヌA110。これもミドシップで全体的な完成度がとにかく高い。
アルピーヌA110(写真は特別限定車のブルーアビス)
乗り心地がよくて高い快適性を誇りながら、実にスポーティなハンドリングで安定感も抜群。足回りの快適性セッティングは箱根のターンパイクを走らせると、ポルシェ718ボクスターやロータスエクシージよりも個人的には上だと思う。
最後にもう1台挙げるならミドシップからは外れるけどEVのリーフ。低速域のアクセルレスポンスはガソリン車よりもリニアで、前後重量配分にこだわったEVだからハンドリングのよさも嬉しい。
3度目の登場。日産リーフ(写真はe+)
■GT-Rはゆっくりでも愉し
(TEXT/石川真禧照)
そもそもゆっくり走って楽しいということは、速く走らせても楽しいということの裏返しになるワケで、わざとのんびり走って楽しいクルマは両方とも楽しめるクルマだと考えている。
そんな観点から選べばGT-Rは外せないだろう。
確かにめちゃくちゃスピードが出るクルマではあるんだけど、逆に言えばそんなにスピードを出さなくても楽しいと思う。なぜか。それは楽しいと思う価値観を少し変えた視点で見ると変わるから。
石川氏は意外にも速く走るクルマ、GT-Rを挙げてくれた。「速くて楽しければゆっくりも楽しい」
例えば、GT-Rを運転している自分の姿を周りから見られていると考えたらどうか。自分ひとりで運転している姿が街のショップのウィンドウに映っていたらどうか。
ま、ちょっとナルシシズムが入ってしまうかもしれないが、そんなことを考えていたら都心の一般道をゆっくりと走るだけでも楽しくなるはずだ。
国産だともう1台がデミオの6MT車。ディーゼルでもガソリンでもMT車が設定されているけど、1~2速でコーナーを抜けていく楽しみがある。
マツダ デミオ
街中でのS字走行にピッタリのボディサイズでもある。昔のディーゼル車はMT車だと回転の落ちが早かったから運転しづらい面もあったけど、今のディーゼルならまったく問題ない。
最後に輸入車のBMWミニコンバーチブル。これぞ、飛ばさなくても楽しめる輸入車の筆頭格。
というのも、まずはミニであるということが非常に重要で、クルマ好きじゃなくてもミニは知られていて記号化されている。横に女の子を乗っけて、天気が晴れていればオープンにしてゆっくり走るだけで、会話も弾むというもの。
BMWミニコンバーチブル
■ロードスターの“人馬一体感”は日常のなかでも味わえる
(TEXT/西村直人)
現在のボクのマイカーである現行型ロードスターほど、このテーマにふさわしいクルマはないと思う。
クラッチミートなどを含め、人間工学とクルマのメカニズムを研究し尽くした“人馬一体”とはよく言ったもので、人間の感性をすごく大事にしている。アクセル開度5割という日常走行のなかでいかにダイナミックな動きを見せるかということが素直に伝わってくるクルマじゃないかな。
それとアウトランダーPHEV。ツインモーターの制御がとんでもなく滑らかで、回生の絶妙さも筆舌に尽くしがたい。雪道での安定感は世界一だと思う。
以前、白川から東京方面にこのクルマで戻ってきた時、あえて下道を使って全行程を走行したほど視界もいい。エアコン全閉でウィンドウ全開にして帰ってきたけど、そんな楽しみ方もある。
ツインモーターの制御の滑らかさに感嘆した西村氏はアウトランダーPHEVを推挙w
輸入車ではジャガーIペイスがゆっくり走って楽しいクルマかな。
初代リーフがセンセーショナルに電動化を全面に出したモデルだったのに対し、このIペイスは以前にボクが乗っていたディスカバリーIVの時代と同じ操作系を踏襲し、パワートレーンのみがモーターに変わっただけ。
過度な演出を控えている部分も好感が持てるしね。
ジャガー Iペイス
■ロードスター! アルトワークス! BMW i3!
(TEXT/小沢コージ)
今号のマツダ対スバルの特集でも書いたけど、ロードスターはやっぱり鉄板。ただ、現行型はその「ゆっくり走って楽しい度」が初代NA型に比べてわかりづらくなっているかも。
確かに現行型も軽量化は頑張っているんだけど、ヒラヒラ感が若干減っているのが気にかかる。
シチュエーションとしては人の歩いていない交差点を抜けていくのが楽しいかな。特にMT車で2速に落として抜けた後に加速して3速に入れる、みたいな。自分で操っている感があってゆっくり走っていても充分に楽しいよね。
それとアルトワークス。超軽量ボディでキビキビ走るスズキの代表モデルで、MT車だとレブリミットギリギリのところまで引っ張ってターボのトルク感を味わうあたり。
Fなのが玉に瑕だけど、ハンドル握っているだけでニコニコできる。
最後がBMW i3。ピュアEVのほうね。EVとはいえBMWだからこだわりにこだわりまくった重量配分の影響からか、ステアリングフィールはいいし、ハンドリングも最高。
モーターのトルク感も凄いし、パワー制御をしているリーフよりも荒々しくて低速から楽しいと思う。
まあ、ゆっくり走って楽しいクルマの基本はFFじゃなく、適度なパワーのあるクルマといったところ。
■N-BOXスラッシュの高級感は大人の余裕をもたらしてくれる
(TEXT/永田恵一)
まずはもう4年も乗っている86。200ps前後のパワーが普段でも持て余し感がなく、交差点を曲がっても水平対向らしい重心の低さを感じられる。
自分の86に乗ると「一生このクルマでもいいかな」と思うことがあるくらい。
「エンジンを楽しむ」観点からはアテンザディーゼルのMT。アテンザのディーゼルエンジンは低回転域の太いトルク、ディーゼルながら高回転域の伸びという豊かな表情を持つ。
それをMTならギアチェンジも含め、常識的な範囲でも燃費もキープしながら自分の裁量で楽しめる。
N-BOXスラッシュは高級な軽自動車として開発されただけに、各部のクォリティの高さに加え、インテリアの雰囲気(私は大人っぽいブラウンが好みだ)とコスパ世界一と感じるオプションのオーディオがゆっくり走った時の楽しさを際立てる。
オーディオを楽しみながらN-BOXスラッシュで流していると、ずっと明るい気分でどこまでも行けそうな気がするくらいだ。
ホンダ N-BOXスラッシュ
【番外コラム】 ハイパワー車はゆっくり走るとつまらないのか?
(TEXT:飯田裕子)
私の愛車であるボクスターってハンドルは重いし、エンジンも高回転まで回せばもちろん速いんですけど、そこまでの速度域までいかなくてもボクスターならではの味わい、満足感は得られます。
高回転領域での味わいも高速の合流など一部で感じることができると言ったらいいでしょうか。
飯田氏の愛車は先代型981ポルシェボクスター。最後のNA型だが回せば速いクルマ!
実際に購入後、私自身もサーキット走行したことはありませんし、ボクスターの持つ潜在性能をすべて引き出せたワケではありませんが、「走る」「曲がる」「止まる」という3つの基本性能がしっかりとできていれば、高速領域でなくてもスポーツカーならではのスポーツ性を味わうことができると思っています。
まあ、スポーツということをどの程度まで考えるかにもよりますが、エキゾースト音や少々重いステアリングを操作した時のフィーリングやクルマの挙動を味わいながら、またギアシフトを丁寧に操作する楽しみは速度の高低にかかわらず得られるものだと思います。
最後に街中での走行でもゆるゆると楽しめる要素としてはクルマのデザイン自体も大きく、気合いを入れて走らなくてもぜんぜんOKだと思いますよ。
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