本稿は「紀州のドン・ファンとクルマと美女に関する秘話」の第2回である。
ご存じない方のためにあらためて概要を記すと、和歌山県田辺市の資産家・野崎幸助氏が2018年5月に自宅寝室で死亡した(享年77歳)。解剖の結果、急性覚せい剤中毒と判明し、和歌山県警は野崎氏の元妻である須藤早貴(25歳)を逮捕・起訴した(2021年5月19日)。
亡くなった野崎氏は艶福家で、「紀州のドン・ファン」という異名を持つ。野崎氏は講談社から2冊の本を刊行しており、本稿はその2冊のゴーストライターを務め、3冊目『紀州のドン・ファン殺害 「真犯人」の正体 ゴーストライターが見た全真相』を執筆した記者のレポートである。
人気衰える気配なし! なぜ日本人はベンツGクラスが好きなのか?
文・写真/吉田隆
【秘蔵写真も盛りだくさん】「紀州のドン・ファンと美女とクルマの裏事情」第1回はこちら
■才色兼備だった「二人目の妻」、Aさん
ドン・ファンとベンツにまつわる有名な話がある。
ドン・ファンには離婚歴があり、バツ2だった。早貴被告とは3回目の結婚である。1回目の結婚相手は銀座のナンバーワンホステスだったらしいが、それを確かめる術もないので、わたしは黙ってドン・ファンの身の上話に相槌を打っていた。
数年で離婚し、同じ女性と再婚して、これまた短い期間で離婚した(ということはバツ3?)。
次の結婚相手は東京・飯倉のナンバーワンホステスだったAさんである。ドン・ファンから写真を見せてもらったことがあるが、大柄な肉感的な女性で女優の中谷美紀に似ている魅力的なべっぴんさんだった。
ドン・ファンの自宅に荷物を取りに戻った際のAさん
Aさんは実家が母子家庭で貧しかったので、手っ取り早くお金になるホステス家業に身を染めた。ドン・ファンとは20歳以上の歳の差があり、本来なら社長と結婚したくなかったのかもしれない。ところが家庭の事情で結婚することになった。「言葉は悪いが、人身御供のようなものだった」というドン・ファンの知人もいる。
彼女とは6年ほどの結婚生活だったが、Aさんは、ドン・ファンが営んでいた酒類販売会社を積極的に手伝い、従業員たちからも慕われていた。
かつての従業員が当時を懐かしむ。
「才色兼備っていうのは、彼女のことを言うもんだと思ったよ。料理も上手やったし、仕事もできて頭が良くて、人当たりもよかった」。
この貴重な写真は、ドン・ファンの愛犬「イブ」の通夜の様子。場所はドン・ファン宅の2階寝室。後日、ドン・ファンはここで遺体となって発見されている。愛犬とドン・ファンとAさんとの関りについては本稿を読み進められたし
■「風と共に去りぬ」ではなく
ドン・ファンの今の家の内部を西洋風に改装したのはAさんだ。外側は2階建ての純日本風家屋であるが、大金持ちの家としてはつましい。しかし、内部は床暖房もされてサウナもある。ゲスト用の風呂は20畳ほどもあり、ジャグジーも付いていた。リビング脇にはオープンキッチンがあり、オール電化されていた。
ドン・ファンはAさんに惚れていたけれど、喧嘩は絶えなかった。そんなAさんはドン・ファンのクレジットカードを使うなどして、密かに財産を溜め続けたという。一説によると2億円ほどだったというから、浮世離れしている。そして「わたし専用のベンツを買って」とおねだりしたと、野崎氏は語った。
そしてなんと、そのベンツが納車された日に、運転席に座ったAさんは「さよなら」と言い放って、ベンツと共にドン・ファンの元から走り去ったというのだ。「風と共に去りぬ」をもじって「ベンツと共に去りぬ」。地元では有名な逸話である。
■早貴とAさんの対決
ベンツの納車に合わせて、Aさんは衣服などを知人に送って準備をしていた。Aさんが社長に三下り半をつきつけて出ていったというのが真相のようだ。
「Aと復縁はできないかな」
出て行ったあとも、社長は身近な者に、なんとかAさんと復縁したいと相談していた。ことあるごとに社長はAさんのことを懐かしんでいた。それでいて、他の女も物色するのが社長のクセだ。
愛犬もAさんがクリスマスイブにプレゼントとしてねだって買ってもらったもので、「イブ」と名付けられた。
イブが急死した後に、イブの葬儀の知らせをAさんへ伝えたものの、ナシのつぶてだった。社長の通夜・葬儀にも顔を出さなかったAさんだったが、2018年8月になって田辺市のドン・ファン宅の行くとの連絡が、知人を介してあったのである。
その時に乗ってきたのは(京都ナンバーに変えられていたが)あの「去りぬ」の白いベンツだった。2000万円だとドン・ファンは生前言っていたが、真相は分からない。
前妻のAさんがドン・ファンの死後に乗り付けたクルマ。メルセデスベンツ2代目CLS63AMG(前期型)のようだ。型式が合っていれば車両価格は1343万円。オプションや税金を含めれば支払い総額は約2000万円に近づく
キッチンに残してあった自分の食器を引き取るのと、ドン・ファンとイブの霊前に手を合わせるというのがAさんの表向きの目的だったが、私は早貴被告と面と向かって会うのが一番の狙いだったと思っている。
「私が殺さなかったドン・ファンを、結婚後、わずかな期間で殺した女の顔を見たかった」
想像ではあるが、間違っていないと思う。
約1時間弱の訪問であった。後日、早貴被告にその時の“対決”の模様を訊いた。
「対決でもなんでもなかったですよ。仏壇に手を合わせてもらって、それからキッチンの後ろの棚から食器を選んでいました。和気あいあいというワケではないですが、注意も意見もされなかったし……」
早貴被告はわたしにそう語っていたが、見えない火花が散っていたのも分からない感性なのが、彼女の特徴だ。
次回は、早貴被告の運転テクニックや素顔に触れる。
(第3回へ続く)
本稿を執筆したノンフィクションライター、吉田氏がゴーストライターを務めた書籍。『紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男 (講談社+α文庫)』
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