勢い止まらぬトヨタ・ヤリス
text:Takahiro Kudo(工藤貴宏)
【画像】どう進化した?【ヴィッツとヤリス・シリーズをあらためて比較】 全218枚
editor:Taro Ueno(上野太朗)
トヨタを代表するコンパクトカー「ヤリス」の勢いがいい。
20万2652台をカウントした2021年度(2020年4月~2021年3月)の新車登録台数では、軽自動車も含めたランキングでナンバー1を獲得。
その20万2652台という数字は純粋なハッチバックだけでなく、基本メカニズムを共用するクロスオーバーSUVの「ヤリス・クロス」、さらにはプラットフォーム構成やボディ構造から異なる本格スポーツモデルの「GRヤリス」も加えた「ヤリスシリーズ」としてカウントしたものではある。
とはいえ、2020年2月登場のハッチバックからはじまったヤリスのスタートは大成功といえるだろう。
なぜ日本名「ヴィッツ」から「ヤリス」へ?
ところで、ヤリスの前身は3世代にわたって親しまれた「ヴィッツ」である。
そもそも日本以外の市場においては当初からヴィッツではなくヤリスと命名されており、日本におけるネーミングチェンジは「日本においても海外向けと同じ名前になった」と考えると理解しやすい。
果たして、認知度の高かったヴィッツをヤリスへと変更した理由はどこにあるのだろうか。
開発者によると3つの背景があるという。
「世界共通ネームとすることでイメージ刷新」、「ネッツ店専売車種というイメージからの脱却」、「WRC(世界ラリー選手権)を戦うモデルだと多くの人に知って欲しい」の3つだ。
ネッツ店専売云々に関しては、ヴィッツはこれまでトヨタのディーラーの中でも「ネッツ店」でしか販売されていなかったという事情がある。
しかし、ディーラー網の再編にともない2020年から全ディーラーですべてのトヨタ車を扱うようになり、ヴィッツに関しては「ネッツ店専売」というイメージを払拭するために車名を変えたというわけだ。
また、WRCに関しては、「ヤリス」という名前で参戦しており、クルマ好きはヤリスがヴィッツと同じモデルだと理解していることだろう。
一方で、一般の人には「ヤリス=ヴィッツ」という関係はイメージしづらい。
そこでWRCの日本ラウンドである「ラリージャパン」(コロナ禍で中止されたが本来は2020年からおこなわれる予定だった)の開催もあり、そこで年間タイトルを獲得するなどトップ争いを繰り広げている大活躍を日本の多くの人にも知ってもらおうと考えたのである。
フルモデルチェンジで後席が狭小に?
さて、そんなヤリスのハッチバックだが、先代に相当するヴィッツの最終モデルと比べると奇妙なことに気が付く。
後席が狭いのだ。
一般的なフルモデルチェンジでは、先代よりも新型のほうが居住性は向上する。それが世の中の常だ。
しかし、ヤリスに関してはそれがあてはまらず、逆に控えめとなったのだから興味深い。
具体的にいえば、前後席間距離は37mmも短縮され、そのぶん後席足元は狭くなった。またキャビン上部左右方向の絞り込みが増し、頭上も狭まっている。
ストレートにいえば、フルモデルチェンジで後席居住性はダウンしているのだ。
フルモデルチェンジの常識外といえるそんな変化は、いくつかの理由がある。
1つは燃費対策だ。
ヤリスはガソリン車もハイブリッド車も従来の常識を覆す量産車ナンバー1の低燃費を実現しているが、そこには徹底して効率を磨いたパワートレインだけでなくボディの空気性能向上も効いている。
ルーフを低くしたりキャビン上部の絞り込むのは、居住性の犠牲を伴うものの、狭ければ狭いほど空気抵抗を下げられる前面投影面積を狭めるというわけだ。
前席を重視 運転感覚もよくなった
2つめは、前席優先のパッケージングとスポーティな運転感覚。
従来のヴィッツは、後席空間を広げるために前席をできるだけ前に配置し、そのため床に対して着座位置を高めとしていた。
しかし、新型の運転席(基準位置)は、前輪を基準にすると後方へ58mmも下げて、着座高も36mm下げている。
これはスポーティな運転感覚を実現するとともに、重心を下げて運動性能を高める効果がある。ヤリスはハンドリングの評価が高いが、それは低重心化したパッケージングの構築からはじまっているのだ。
また、欧州におけるBセグメントハッチバックの嗜好も影響している。
欧州でヤリスのような小型ハッチバックを買う人の多くは、後席をほぼ使わないので居住性を重視していない。
それよりも「車体が小さくて狭い場所で運転しやすい雰囲気を求める」というのがトヨタの読みだ。
そのため、キャビンが小さく見えるデザインにしたというのである。
競合を退けて欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、2021年1月には欧州市場で販売台数ナンバー1に輝いた新型ヤリスの欧州における実績をみれば、そんなトヨタの読みは当たっていたと考えるのが正解だろう。
後席の居住性を求めるならヤリス・クロスを
そしてもう1つ、「ヤリス・クロス」の存在もヤリスのパッケージングに影響している。
ヤリス・クロスはヤリスと基本メカニズムを共用するクロスオーバーSUVだが、単にSUV化しただけではないのがポイント。
パッケージングを比べるとヤリス・クロスはヤリスよりも車体がひとまわり大きく、後席も荷室もスペースが広いのだ。
つまり、「ヤリスの実用性で足りないなら、室内が広いヤリス・クロスを選んでください」という選択肢にもなっているのである。
プジョー「208」に対する「2008」や、ルノー「ルーテシア」に対する「キャプチャー」がそうであるように、ヤリスに対するヤリス・クロスもまたファミリーユースにマッチしたステーションワゴンのような存在なのだ。
「ヤリスはパーソナルで小さく」、「ヤリス・クロスはファミリーユースにもマッチするよう実用性を追求」と両車がきっちり棲み分けることで、ヤリス(ハッチバック)はコンパクト化を実現できたのだ。
実は、ヤリスもヤリス・クロスも開発責任者をはじめスタッフ構成もほぼ同じチームが開発を担当。
両車はパッケージングの異なる2台を揃えることで、より幅広いユーザーを満足させられるように上手に考えた「チーム戦」の商品企画である。
ところで、トヨタには「アクア」というハイブリッド専用車のコンパクトカーがあり、そのフルモデルチェンジが近いとうわさされている。
現行型アクアは燃費最優先のパッケージングで後席居住性は重視されていない(狭い)が、新型はそこが改善されるというスクープ情報が出回っている。
果たしてそんな新型アクアの後席居住性が、ヤリスとどういう関係になるのか非常に興味深いところだ。
もしかすると、アクアの後席居住性がヤリスをこえることもあり得るのだろうか?
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みんなのコメント
そういう人は他にも選択肢があるんだし、コンパクトカーで
何でも一台で済ませようとするとフィットみたいに中途半端になりますからね。
1~2人しか乗らない人は走りも機敏で燃費が良いヤリス。
これで十分ですから。